・水の層また水の層透明に青くかがやく潮うごきつつ・
「地表」所収。1953年(昭和28年)作。
激しく波の飛沫のあがる海ではなくて、磯浜の透明な海の水がゆっくり動くところであろう。
一首の特色はまず、初句・二句のリフレインだろう。言葉や印象の重複がないようにというのが作歌の基本だが、ここでは透明な水の深さが感じられ、リフレインが心地よいリズムを刻む。
そして下の句。ゆったりとした声調が美しい。
「地表」は佐藤佐太郎の第6歌集だが、第5歌集「帰潮」とは趣が違う。表現に余裕のようなものが窺えるのである。
「帰潮」で読売文学賞を受賞し、さらに毎日新聞の「毎日歌壇」の選者となり、歌誌「歩道」の発行も軌道に乗った。この歌を詠んだ年、齊藤茂吉が亡くなり、佐太郎の主著「純粋短歌」が出版された。名実ともに著述家として自立する。
作品に窺える「余裕」はその辺りから生じているのかも知れない。「帰潮」が純粋短歌を確立した歌集であるとすれば、「地表」は作品の深化を予想させる歌集といって構わないだろう。