・銃を背に行軍しゆく兵士らの靴音聞こえず画面の中は(歌集未収録)
この作品は『短歌』誌上に筆名で投稿、「靴」の題詠に入選したものだ。10年も前になろうか、「戦争と平和」を主題とした作品を「短歌」に盛んに投稿したことがある。
このブログの他の記事にも書いたが、「戦争を厭う」心情は、人間として自然な情感であり、抒情詩の主題となり得ると、僕は思う。だが60年安保、70年安保で、読まれた短歌は「政治信条」が全面に出過ぎていたり、前衛短歌の影響で暗喩による表現が多かったり、「主情的」に流されたりしていた。
だから、一連の投稿は、「平和を希求する心情」を個人の体験と結び付けた抒情詩として、直接的に表現することにあった。時代は湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争が立て続けに起こった時期だった。その時期の僕自身の体験、心に浮かんだ「反戦意識」「平和の希求」を、自分の体験と重ね合わせて、短歌に表現した。
『うた新聞』9月号の「意思表示5首」も、その延長線上にある。「意思表示」という表題は岸上大作の遺歌集のタイトルだが、僕と岸上大作では、切り込み方が違う。岸上大作が観念的で主情的になっているのに対し、僕は自分の体験や思いを、なるべく客観的に、切実に表現したいと思う。
そして岸上大作との、決定的違いは「意思表示」という主題が、岸上は歌集の表題であるのに対し、僕は5首の連作のタイトルであることだ。社会詠について、僕は岸上大作を飲み込みたいと思っている。「意思表示」は連作の主題ではあるが、歌集一冊分の主題とは考えていない。
9・11の同時多発テロのあと、アメリカの対日要求は、エスカレートしている。岸上大作がテーマにしていなかったことだが、これも念頭に入れて、社会詠を詠んで行きたい。これが寄稿した散文の核心だ。
対日要求がエスカレートし、イラク戦争では、「非戦闘地域」ということで、重武装した自衛隊がイラクに「派兵」された。
日本が戦争の当事者とならない事を願いつつ、次のような作品も詠んだ。
・海外への派兵の決定なされたる今日多喜二忌の案内届く(歌集未収録)
これは『短歌』の「公募短歌館」で、入選作となった。
【お断り】明日より「第一回北ノ聲」の報告を、順次記事にして行きます。