「うた新聞」(いりの舎)
この新聞の特徴は、一面の「巻頭評論」だ。毎月、筆者が交替して執筆される。今年の一月号の永田和宏の評論については、すでに記事にした。
二月号は中村幸一による「加藤克己の抒情性」。また三月号は佐野督郎の「文学者の自由」だった。前者では、加藤克己の抒情性に、伝統的なものと、モダニズムが、共存していたことが述べられた。また後者では鈴木幸輔という、秋田出身の歌人を紹介して、東北人の独立心を紹介している。
さらに四月号では、中川佐和子の「河野愛子愛恋」が掲載されている。河野愛子はアララギの歌人で、「未来」の創刊に参加した。中川は河野愛子の作品と、生き方を、こう述べる。
「河野は、言葉に拘っている。病んでぎりぎりの生の淵から覗いた死を河野はすでに身近に見てきた。今日生きていて、人と会い、そしていつか来る別れ。河野は『会う』さみしさを思いつつ、人を思う。」
「その生涯を振り返れば、愛情の深さは、自らの生に誠実であった証といえるだろう。」
河野愛子は、人間を表現し、おのれの情感を深く表現した。今の軽い短歌にこの様な真剣さがあるだろうか。言葉遊びに終わっていないだろうか、掘り下げが浅いのではなかろうか。考えさせられた。
「現代短歌新聞」(現代短歌社)
すでに昨年紹介したように、「未来歌集を読む」という記事が連載されている。「未来」が創刊される前に若手の同人たちが、今までの創作の総括をする意味で刊行された歌集だ。そこには、近藤芳美や岡井隆のまわりに集まった若手歌人の、作品と生き方が紹介されている。すでに12人の歌人の作品と生き方が紹介されている。
終戦直後に彼らは、何を考え、どのような生き方を模索したのか。
そのうち何人かを紹介しよう。まず川口美根子は「苦しみながら、われを自覚」した。石原きみ子は「終戦直後の教師として葛藤し、手さぐりで新しい時代を生きよう」とした。また稲葉健三は「内省的に自己を見つめ」、金井秋彦は「隠し切れない、心の苦しみを吐露」し、相良宏は「道を閉ざされた若者の悔しさを表現」した。また高濱平七郎は「占領下の社会への批判の視点」を持っていた。そして河野愛子。「死を正面から見つめる強さ」があったという。
それぞれだが、みな自分を見つめ、人間や、社会を、深くとらえている。現代の歌壇に、最も欠けているものではなかろうか。
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