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岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

波の騒ぐ歌:佐藤佐太郎の短歌

2011年04月05日 23時59分59秒 | 佐藤佐太郎の短歌を読む
・波さわぎいたぶる潮の流れよりうつつの音は低くきこゆる・

「群丘」所収。1957年(昭和32年)作。岩波文庫「佐藤佐太郎歌集」105ページ。

 佐太郎の自註がある。

「鳴門渦潮。中心に向って潮が落ちこみ、渦の周囲は波が立ちさわぎながら流れてゐる。視覚にはさわがしいが現実の音(「うつつの音」)は高くない。表現において力をこめれば言葉は充実する。」(「及辰園百首自註」)

 佐太郎らしい簡潔な自註だ。「さわぎ」「いたぶる」は非常に強い表現。特に「さわぎ」は擬人法であり、写実派としては議論のあるところだが、渦潮をあらわすにはこれがふさわしい。

「渦潮かどうか暗示されていない」

という批判もありうる。だが、それを打ち消すのが下の句の表現。

 「うつつの音は・低くきこゆる」により重厚感が溢れる。しかもこの部分は作者の発見でもある。普通なら渦の形にのみ心を留めるところだが、聴覚をはたらかせたところによって一首が成った。五感を鋭くはりめぐらすのが、佐太郎の作品の特徴だ。

 そして「客観・主観の一体化」という面から見ると、上の句が客観・下の句が主観である。

 ちなみに「及辰園」というのは、佐太郎が住んでいた家の近所の漢詩人の家の庭のこと。佐太郎と意気投合し、「庭をいつでも散策してよい」と言われたとかで、佐太郎はたびたび庭を訪れて歌を詠んだという。(日本人の作る漢詩は大正時代に滅んだといわれるが、佐太郎は蘇東婆の詩を好んだので意気投合したのだろう。)






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