・踏みのぼる冬木の坂は霜ながら幾日雨ふらぬ土乾きをり・
「氷魚」所収。1916年(大正5年)作。
「冬木」「霜」「雨降らぬ」。冬の冷涼感が迫ってくる作品である。
島木赤彦の作品はどれも冷涼感と、硬質感・厳しさがあるが、生まれ育った信州諏訪の風土が影響しているのであろうか。
まして赤彦は高島藩と関係の深い家柄に生まれた。維新後は赤彦の父ともども教師をしている。いわば明治の「訓導」であったわけで、これらが作品の背景にあることに間違いはなかろう。
作品に戻るが、「踏みのぼる坂」「霜」という表現から、霜柱を踏む音が聞こえるようでもあるし、そのまわりにうっすらと霜の降りた乾いた土が目に見えるようでもある。
「踏みのぼる坂」が何とも暗示的である。浪漫派・自然派ともに島木赤彦の資質には合わなかったのであろう。
「悲し」「さびし」などの「主観語」は一切使われておらず、いかにも島木赤彦らしい。
この「冷涼感」が上田三四二の作風を思わせ、島木赤彦の「歌道小見」の論じ方が佐藤佐太郎の「純粋短歌論」と共通点をもつことはすでに述べた。