僕の身近なところに一人の「批評家」がいる。仮にH氏としておこう。
このH氏「お前が短歌をやるなんて許せない」「お前に文学的素養がある訳がない」とまことに手厳しい。しかし僕が奇を衒った歌を詠んだりすると「筆が荒れるからやめておけ」と言ってくれる。「先輩の言葉をおろそかにするな、同世代の仲間といい意味で競い合え、みずからに驕るな。」などの忌憚のない意見を言ってくれるし、僕が「運河の会」への入会を躊躇っている時に、背中を押してくれたのも彼だった。
こう見て来ると、僕が短歌を読むのに、まんざら反対している訳でもなさそうだ。
彼は僕の同業者だった男で、学習塾を営んでいた。彼は数学と国語とを担当しているが、若い頃は画家、詩人、俳優を志したこともあったそうだ。
何しろ大学受験の日に、内ポケットに大学の受験票と劇団の入団テストの受付票とを忍ばせ、電車に乗ってターミナル駅に着くまで「どちらにするか」を考えていた男だから、話をしていて飽きることが無い。彼の批評が的確なので舌を巻くのもしばしばあった。H氏にはと時々「運河」をみてもらう。
そのH氏、ある時「運河」を手に取って、こう言うのである。「お前、上手くなったな。」これは誉められると思いきや、それには続きがあった。
「しかし臭いな。」(続く)