岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

わが記憶たどりて歩む路地裏に八手の花が今年も開く

2010年06月15日 23時59分59秒 | 岩田亨の作品紹介
「夜の林檎」所収。

 僕が幼児期を過ごした家の門の脇には、一本の八手が植わっていた。大人の背丈にも満たない低いものであるが、子どもにはほどよい高さだった。

 八手の葉でよく遊んだ。団扇のかわり、傘のかわり、皿のかわり。万葉集の有馬皇子の作品は、

・家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る・

だが、僕らには、「八手の葉に盛る」だった。もっとも盛るものは「泥団子」だったが。

 15歳の時に転居したが、十数年後に訪ねたとき、八手の木はまだそこにあった。そして小さな花が。とりわけ美しいというものではないが、その八手の花が少年期の記憶を蘇えらした。「人にとって特定のものが、記憶のスイッチを入れる働きをするものになる場合もある」と、ある本にあったが、僕の場合はそれが「八手」の葉であるようだった。






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