・木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな・
「収穫」(1910年・明治43年刊)所収。1909年(明治42年)作。
前田夕暮は尾上柴舟を中心とする車前草社に加わり、自然主義的な作風で若山牧水と並び称された。
この作品は結婚を目前にして、「その日が待ち遠しい」と言う意味で、浪漫的な素直な心情が、詠われているものである。浪漫的とは言っても「明星派」とはよほどの違いがあって、明るいトーンが特徴である。
また、「写生・写実派」のような、ある種の緊張感もない。奔放な印象で、そこが独自の作風なのだろう。
斎藤茂吉の相聞とはかなり違う。だがこれもまた、ひとつの「近代的詠風」である。そこが旧派の和歌との違いである。
読んでいて、こちらが気恥しくなるようなところがある。しかし、ある歌人が自分の所属する雑誌の編集後記で、
「こんな恥知らずの歌はない。」
と断じたのは行き過ぎだろう。この歌も紛れなく、当時の「新風」には違いない。