おおかみと『生き心地の良い町』(6)
《ほないなこと、言うてもええんじゃねえ》
「ふつう学級に行ってもいいんですか?」
「ダウン症だからムリかと…」
「行けるんですか…」
「今日まで知りませんでした」
「もう5年生だけれど大丈夫ですか」
「夢のようです」
海部町はどんな町か。
「うつによる受診率」が、近隣でもっとも高い!
「え、うつは自殺の危険を高める要因でしょ。自殺が少ない町なら、うつも少ないんじゃないの?」。そう思ってた。
違った。
それは、「授業がわからないとつまらないでしょ。だからふつう学級じゃかわいそう」と同じくらい、浅はかな考えだった。
どう考えればいいのか・・・。
海部町では、「あんた、うつになっとんのと違うん。早よ病院へ行て、薬もらい」という会話がふつうに交わされる。
60歳~80歳代の女性たち7~8名のグループにインタビューしているときの会話。
「そういや、よ」と周りを見回し、「知っとる? 〇〇さんな、うつになっとんじぇ」と切り出す人。すると、「ほな、見にいてやらないかん!」「行てやらないかんな!」という言葉が、みんなから一斉に、ほぼ同時に返ってくる。
著者は、「この人たちは、そんなふうに接するのか」と感じたという。「当事者を遠巻きにしたりそっとしておいてあげようという発想はあまりないらしい。さっさと押しかけていくのだ」。(^。^)y-.。o○
海部町でのうつによる受診率の高さ。それは、偏見のなさ。だから、「軽症」ですむ人も多い。
この話を他の町で紹介すると、『いつも小さなどよめきが起こる』という。
「ほないなとこへ行たら、周りがどない言うやら。頭がおかしいやて噂になったら、子どもや孫にまで迷惑かかる」。そういう町では、『うつについてオープンに話し合うような状況はほとんどなく、まして本人に直接指摘することなどありえない。』
そんな町のお年寄りが、海部町の話を聞いて目を丸くしてつぶやいた一言。
「ほないなこと、言うてもええんじゃねえ」。
これを聞いて、私が思い出したのが冒頭の言葉。
「ふつう学級に入ってもいいんですか。夢のようです」
そう、「分からないことを教えてくれるから、楽しい」といえる子もいる。
テストの点につながらないとしても、楽しい時間はもてる。
(つづく)
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