「いまのままじゃ、
ぼくは、ほっとかれて、分からないままでいることが多い。
でも、ぼくも分かりたい、
みんなと同じにやりたい、
みんなと同じに百点取りたい。」
「それなら、個別で、1対1で、
あなたのペース、あなたの特性に合わせて、
教えてくれる先生のいる教室で勉強してみる?」
「うん」
≪ここで、すり替えられているものは、何だろう?≫
前回、私の答を書き忘れました。
ここですり替わっているものは、次の点です。
a:
ぼくは「ほっとかれている」ことへの答えがありません。
b:
「みんなと同じに百点を取りたい」
という子どもの希望を、
「かなえてあげることができる」とは答えていません。
c:
なぜ、「みんなと同じ」を必死で子どもが願うか、
に答えていません。
【aについて】
子どもが「ほっとかれてる」のは、
子どものせいではありません。
悪いのは、配慮の足りない先生なのに、
そこで子どもだけが他へ取り出されることで、
子どものなかでは「悪いのは自分」ということになってしまいます。
「分けられた場」で、いい先生に出会って、
そこで楽しく勉強できたとしても同じです。
「ここでなら、自分がうまくやれる」
「自分は、みんなと一緒に学ぶことはムリだったのだ」
そうしたことを、子どもが間違って自覚してしまうことを
防ぐ手立てを、「特別支援教育」は持っているでしょうか?
私にはそうはみえません。
私は、学校であれ、どこであれ、
子どもと「個別」で向き合う場面、
「個別」で何かを教える場面が、
「必要ない」と言っているのではありません。
「点字」を教える場面、
「識字障害」の子どもへの個別の配慮が必要なのは
当然だと思っています。
だからこそ、その子どもに必要な
「個別の時間、個別の場面」を、
集団で共有する配慮が必要なはずなのです。
視覚障害のある子どもだけが「点字」を学ぶこと、
聴覚障害のある子どもだけが「手話」を学ぶこと、だけではなく、
可能な限りみんながそのことを
一緒に学ぶ経験が必要なはずなのです。
全員が完璧に点字や手話をマスターするということではなくても、
せめて、手話や点字がどのようなものであるのか、
たとえば「色盲」の人が社会生活の中で、
どのようなことに困っているかをふつうにみんなが知ること、
は必要なことだと思うのです。
(いま、私は「色盲」という言葉を使うことにためらって、
ネットで少し調べました。
そこで、「色のバリアフリー」という言葉を、
初めて目にしました。
私も知らないことがたくさんあります。)
【bについて】
「みんなと同じに百点を取りたい」と、
子どもは本気で願っているでしょう。
それに対して、その願いは、
個別指導で本当に実現可能なのかどうか、
その可能性は何パーセントくらいあるのか、
そうしたことについてきちんと語っている答えを、
私は聞いたことがありません。
極端に言えば、野球の苦手な子が、
「ぼくもみんなみたいに、ホームランを打ちたい」
とつぶやいたら、
「じゃあ、マンツーマンで、ホームランの打ち方を
教えてあげよう」というのと同じではないのかと思う。
どのレベルで、どの広さのグランドでのホームランなのか。
中学生や高校生の試合なら、
ホームランを打てる子どもは限られます。
どんなに個別で教えても、どんなにがんばっても、
ヒットも打てない子どもがいるのが現実です。
「特別支援教育」は、その現実を
どれくらい子どもと親に説明しているでしょう。
【cについて】
「みんなと同じにやりたい」という言葉の中には、
「自分もみんなと同じ仲間集団の一人だという自覚、
そうありたいという願い」が含まれているはずです。
その気持ち、その動機は、
みんなといっしょにいたからこそ、育ったもののはずです。
しかし、その成長と意欲、その願いは大切にされず、
「できるようになりたい」という願いだけが、拾い上げられます。
そこには、子どもが一番願っている、
「みんなと一緒の仲間である」という誇りと自覚は評価されません。
まして、その仲間集団の一員であるという根本が
壊れてしまうことへの畏れも、
それを防ぐためのフォローの意識もありません。
子ども本人の「意欲」や「希望」、
その中には、当然、「分かるようになりたい」
「百点取りたい」もあるでしょう。
確かにそれは、本人の興味、好奇心、
学習意欲では、あります。
でも、その前提として、自分を守ってくれる親がいてくれること、
安心できる家があること、友だちや仲間、所属があります。
それは子どもの生活の中で、もっとも大事にされることの一つです。
「勉強できるようにしてあげるから、全寮制の学校に移りなさい」
と言われて、喜んで移る子どもがどれくらいいるでしょう?
100点と引き替えに、家族と分かれることを選ぶ子どもが
どれくらいいるでしょう。
(たとえば、中学生で、オリンピック強化選手に選ばれて、
親元を離れて、合宿所で生活する子どもはいます。
その子どもを取り上げれば、本人の意思だし、
家族と離れることと自分の夢、オリンピックに出ることを、
子ども自身が考え、選ぶことはあるでしょう。)
でも、「通級」は、それとは違います。
子どもにとって、地域の学校の同級生仲間、
ずっと同じクラスだった仲間。
それは子どもにとって、家族と同じくらい大事な、
自分の居場所、自分の所属です。
「ぼくもみんなみたいに、100点とりたい」
その「意欲」は、みんなと一緒に育ち、
みんなのやることを見て、
「膨大な量の観察学習の一部として、
本人が自覚したあこがれや、苦労です。
その仲間の一員でいたからこそ、出てくる「意欲」を、
「できたい」だけを取り出して、
そのもとになる「所属」を根こそぎ奪ってしまう
「通級~特別支援教育」という仕組みは、
やはりどこか詐欺的だと、私は思います。
しかも、「100点取りたい」という本人の希望は、
「100点」を評価する文化のなかで、
自分も「認められたい」という「気持ちの」形の
一つにすぎない面もあります。
日本なら、「野球選手」にあこがれ、
「ホームラン打ちたい」というでしょう。
でも、フランスやイギリスにいけば、そんな子どもはいません。
サッカーだって、アメリカではマイナーなスポーツです。
スポーツですら、子どものあこがれ、意欲は、
その国の文化、大人や仲間の「評価」によって変わるのです。
「小学生の100点」へのあこがれは、
大人がそれだけをあおるから、という面があります。
子どもの「切なる願い」は、
「100点」そのものではないように思います。
それよりは、「できないこと」で、変人扱いされ、
仲間にいれてもらえないこと、
授業中どこのページをやっているのか、
先生の指示もなくとまどっていること、
そんなふうに放っておかれること、
その困っている自分を誰も気にかけてくれないこと。
そういう「担任、クラス、学校」をなんとかしてほしいはずなのに、
子どもにはまだ、そういう「視野・視点」はありません。
だから、「自分が悪い」と、
自分だけが悪い、と間違えやすいのです。
僕のような子どもは、他にはいない。
みんなはちゃんとやれている。
ぼくだけ、みんなと違うんだ。
だから、仲間外れにされる。
そうならないために、子どもは必死で考えて、言うのです。
「みんなと同じように100点とりたい、
そうすれば自分も認めてもらえる、ほめてもらえる、
仲間にいれてもらえる」
子どもたちは、
そう思わされているのではないでしょうか。
子どもを放っておいて、子どもにそう言わせて、
その本人の言葉の中から、
「100点取りたい」「勉強わかりたい」だけを、取り出し、
「いいことに気がついたね」
「いい願いを見つけたね。
その願いをかなえてあげよう。」
「そのためには、あなたにあった特別な教室で、
特別な先生が、特別な支援を、君にだけしてあげよう。」
「そのためには、みんなと違う、別の教室に行こうね」
子どもは、このすり替えの世界に、
すぐに気がつくことはないでしょう。
でも、いつか気づきます。
気づかないはずがありません。
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