(四十二)
牛乳配達の仕事を終えると昼まで寝た。宅配という仕事は本業
の牛乳だけに止まらず、契約農家の有機米や牛丼のレトルトパッ
ク、さらには様々な業者が売り込む加工食品のチラシも一緒に届
け注文があれば配達した。私は折角、毎朝牛乳を届けるならパン
屋と話しをして、出来立ての食パンを牛乳と一緒に宅配すれば、
深夜に売れ残りのパンをコンビニで買わざるを得ない人は注文し
てくれるのではないか、と言ったが、社長は親会社に気を使って
か、それとも業者の営業を受けるだけで満足なのか、面白いとは
言ってくれても進んで動こうとはしなかった。私は宅配という仕
事に、たとえば新聞配達でも、ただ新聞とチラシの宅配だけで、
販売店が宅配というビジネスチャンスに気付いてい無いことが信
じられなかった。何故なら、彼等は昼間でも読者拡張だ集金だと
配達区域を何度も無為に彷徨(うろ)ついているからだ。しかし
、知恵を出せば郵便配達の仕事を請け負うことだって出来る程の
販売店網が全国に張り巡らされているのだ。もちろん、そんなこ
とを新聞社が許す訳が無いが、しかし、既に新聞社は新聞はネッ
トに取って代わられることを承知している。私はホームレスにな
ってすぐに新聞販売店に住み込みで働いた。ノルマを課された読
者の拡張営業に訪れた家で何度も「チャットで見ますから要りま
せん」と断られて、いずれ販売店は無くなるだろうと思った、否
、環境問題から新聞紙そのものが無くなる日が来るに違いないと
思った。その下請けの会社が親会社の命ずる儘では、やがてぬる
ま湯が仇となって熱湯になり終わりを迎える日がやって来るに違
いない。私は、拡張員に脅されて仕方なく契約した客の、集金出
来ない新聞代を被らされる事が納得がいかなくて、またホームレ
スに戻ってしまった。
たとえば漁業でも燃料の高騰で赤字が判っていて、なぜ漁に出
るのかが解らない。さらに生産者が買い手の言い値でものを売る
など有り得ない筈なのにそうなっている。何故彼等は連帯して生
活を賭けた抗議をしないのか?それこそ日本中の河岸から何ヶ月
も魚が無くなるまで闘うべきだろう?いったい組合は誰の為にあ
るのだ!トラックの組合は何故連帯して値上げのストライキをし
ないんだ?シワ寄せは一個のドライバーに過酷な労働を強いて、
我が身は朽ちるとも愛する家族には凌ぎに足る保険を残さんと、
さながら特攻隊のような命がけの任務に委ねられている。いった
い労働組合は何の為にあるのだ!たとえ物流が滞って生活に支障
がきたしても、メタボに悩む国民が忽ち飢え死にすることもある
まい。社会の秩序を守らんと自らを犠牲にしてまで耐えても改善
はされない。この国は何時も弱い者が我慢を強いられて、セレブ
達はウォーキング・プア達から搾り取った汗を高級クラブで酒に
換え、銀座の便器に垂れ流す。
このまま不遇を強いられた人々が耐え難きを耐えて、埋まらぬ
格差に苛立って我慢の限界を超えた時、後戻りの出来ない事態に
為ることこそ危惧であって欲しいが。我々力の無い者たちは労働
の正当な報酬と権利を声に出して主張するべきではないのか。黙
って従っていれば都合の良い女の様に弄ばれて棄てられるだけだ
。もはや我々が奴隷であることは明白なんだから。
話しは大分逸れてしまったが、もし産業のパラダイムが変わっ
たのだとしたら、下請けや孫請けで安穏と落ちてくるエサを待っ
ていても、やがて池の水そのものが抜かれてしまうのだ。しかし
、それは細る営みに苦しむ人々が、今こそ「草莽の決起」を試み
る千載一遇のチャンスではないのだろうか?って社長に言いたか
ったけど、まあ、今日は言わないでいてやろう。
(つづく)
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