捨父逃逝遠到他土
たらちねの玉の台(うてな)をあくがれて埴生(はにふ)の小屋に旅寝すべしや
半紙
【題出典】『法華経』信解品
【題意】 父を捨てて逃逝(とうせい)し、遠く他土へ到り、
父を捨てて逃避し、遠い他の土地に行く。
【歌の通釈】
父の御殿を抜け出てさすらい、埴生の小屋(粗末な小屋)で旅寝するのだろうか。
【考】『法華経』の七喩の一つの長者窮子の初め、子が長者の父の元から家出する場面を詠んだもの。その子どもが放浪する様を埴生の小屋の旅寝と詠み、(中略)悟り浅き二乗の流浪のわびしさをしみじみと描く。
(以上、『寂然法門百首全釈』山本章博著 による。)
▼二乗〈にじょう〉とは、簡単にいえば、自らの悟りのみを求める者のこと。
●このたとえ話は、聖書の「放蕩息子」の話を思い出させます。子どもというものは、いつか、どこかで「父」から離れて行くものなのでしょう。けれども、結局は「父」のもとへ帰って行く。帰って行かないかぎり、救いはないのだ、ということでしょうか。