住忍辱地
みちのくの忍ぶもぢずり忍びつゝ色には出でゝ乱れもぞする
半紙
【題出典】『法華経』安楽行品
【題意】 住忍辱地
忍辱の地に住し
【歌の通釈】
陸奥の信夫の摺り模様ではないが、忍び耐えながらいよう。あなたへの思いが表に出てしまい、乱れもしようから。
【考】
うぶな若者が、恋に耐え忍ぶ心も、苦楽に惑わされない心を目指す初心の菩薩の修行にかなう。この歌は、『千載集』に、第三句を「色には出でじ」として、釈教部ではなく、恋部に採られている。これは、法文題を取り除いても歌として自立するものが多いという、当百首の歌風を象徴する現象である。恋と忍びと仏道の忍耐を重ね合わせたものとして、慈円の「御法こそ忍ぶ中にもうれしけれなむあみだ仏もてかへしつつ」(拾玉集・治承題百首・恋・校本二〇六五)も影響下にあるものだろう。
(以上、『寂然法門百首全釈』山本章博著 による。)