朝日新聞社説「余滴」に古谷浩一氏が、下記のような文章を書いています。私は残念でなりません。なぜ、ウクライナ軍を支援して、ロシアを屈服させようとするアメリカを後押しするようなことを書くのか、と残念に思うのです。本来メディアには、なぜ停戦協議が進まないのかを追究し、話し合いによって決着させることができるように、世論を喚起する責任があるのではないでしょうか。
”時代遅れだと言われてしまいそうだが、私はジョン・F・ケネディの言葉が好きで、いろいろな原稿に引用してきた。
今回のウクライナ戦争で頭に浮かんだのも、キューバ危機で語られた「われわれの目標は、力の勝利ではなく、正義の擁護である」との一言だった。
プーチン大統領にも彼なりの正義があるだろうが、核で脅して他国を侵略し、多くの市民を殺害したロシアの暴力を、歴史は正義と認めまい。得られるものがあったとしても、ケネディの言う理念を欠いた「力の勝利」に過ぎない。
「断固として正義の側に立つ」(王毅外相)。そう言明しつつ、ロシアに配慮を重ねる中国にも強い疑問を感じる。
これまで国連中心を唱えてきた中国が国連憲章違反の蛮行をとがめないのは全く筋が通らない。ましてや国内の「戦争反対」の声さえ封殺しているのでは、中国の平和主義にどう信をおけというのか。”
先ず、ケネディの言葉であるという「われわれの目標は、力の勝利ではなく、正義の擁護である」 は、キューバ危機の本質を表現しているでしょうか。キューバに対する様々なアメリカの工作(政権転覆の意図を含む)が、ソ連の介入をもたらし、キューバにおけるソ連の基地建設や武器配備の計画につながったのではないでしょうか。そして、それをアメリカが武力をもって阻止しようとしたことが、「正義の擁護」でしょうか。当時、世界は核戦争の危機におののいたといわれていますが、そのときの核戦争を辞さずというアメリカの対応が、「正義の擁護」であるなら、NATOの東方拡大やロシア領土の周辺での軍事演習、さらにウクライナに対する武器の配備は、正義ではなく「不正義」なのではないでしょうか。
また、ロシアのウクライナ侵攻を「国連憲章違反の蛮行」と断定するのであれば、同時にNATOの東方拡大やロシア領土の周辺での軍事演習、さらにウクライナに対する武器の配備も、国連憲章違反として批判すべきではないでしょうか。
国連憲章第2条の3と4には、下記のようにあるのです。
”3 すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
4 すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。”
フランスの大統領選でマクロン氏と争ったルペン氏は、「NATOの統合軍事機構から離脱したい」と自主独立外交を主張し、その理由を「NATOはソ連と戦うために作られたからです。今日、ソ連は存在しません」と説明していたとのことですが、ワルシャワ条約機構が解散され、ソ連が崩壊した後もNATOを温存させたことが、正義でしょうか。冷戦が終結してもなお、「力の勝利」を意図して、国連憲章の精神に反することを、アメリカを中心とするNATO諸国が続けてきたはのではないでしょうか。
知の巨人として世界的に知られている米国の哲学者、ノーム・チョムスキーが、米国のジャーナリスト、ジェレミー・スケイヒルと語り合っているyoutube動画(日本語字幕付)が、公開されています(https://www.youtube.com/watch?v=yw5DvUgJlZA)。そのなかでチョムスキーは、ウクライナ戦争におけるバイデン政権の欺瞞や西側諸国のメディアの偏向報道について例をあげて指摘しています。
また、チョムスキーは、この戦争が終わるのは二つのケースしかないとし、ひとつは、どちらか一方が破壊される場合だけれども、ロシアが破壊されることはないと言っています。
もうひとつは、交渉による解決で、ウクライナの人々を大惨事から救うためには、交渉による和解の可能性を探ることが最も大事だと言っているのです。
その際、余計な推測や憶測で、判断することは賢明ではないとも言っています。
見逃せないのは、バイデン政権の姿勢が、「いかなる交渉も拒否する」というものであることを明らかにしていることです。
その根拠として、2021年9月1日の共同方針声明、その後11月10日の合意があるといいます。その内容をみると「基本的にロシアとは交渉しない」と書いてあるというのです。そしてウクライナにNATO加盟のための強化プログラムへ移行することを要求しており、そのために、ウクライナへの最新兵器供与や軍事訓練の強化、合同軍事演習、国際配備の武器の供与などを約束したといいます。
だからそれが、ウクライナ政権がロシアとの交渉によって、問題を解決するという選択肢を奪ったと言うのです。
そして、バイデン政権が、プーチン大統領とその周辺の人びとを軍事侵攻へ駆り立てた可能性があり、バイデン政権は、基本的に「最後の一人になるまで、ウクライナ人は戦え」というような方針であると言うのです。
大事だと思うのは、チョムスキーが、ロシアにはウクライナを破壊する力があり、交渉による解決がウクライナの破壊に代わる唯一の選択肢であると言っていることです。
それは、アメリカに追随してはいけないということだと思います。
随分前に、チョムスキーは、アンドレ・ヴルチェクと似たようなことを話し合っています。だから、「チョムスキーが語る戦争のからくり ヒロシマからドローン兵器の時代まで」(ノーム・チョムスキー、アンドレ・ヴルチェク:本橋哲也訳)から、その一部を抜萃しました。
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第二章 西洋の犯罪を隠蔽する
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A・V(アンドレ・ヴルチェク)
いまやルワンダでも同じようなことが起きています。タンザニアのアルーシャにあるルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)が、お話しになられた日本の植民地主義犯罪と同じような構造と原則で時間制限付きの犯罪審査をおこなっているのですが、私たちが支援しているルワンダ愛国戦線(RPF)〔1987年、ウガンダに逃れたツチ族難民によって設立された反政府勢力〕やポール・カガメ〔1957年ルワンダ愛国戦線の最高指導者で、98年からルワンダ共和国大統領〕側はこのプロセスから排除されている。
NC(ノーム・チョムスキー)
国際刑事裁判所で有罪となるのは圧倒的にアフリカ人が多く、あとはミロシェヴィッチのような西側諸国の敵と見なされた人だけですね。それにそのアフリカ人たちは西側が気に入らない国々の人たちばかり。しかし近年、ほかに犯罪などなかったと言えるでしょうか。
イラク侵攻を例にとれば、ただの一つも犯罪とは見なされていませんね。ニュルンベルク裁判もほかの近代の国際法も無視。事実それには法的な理由があって、そのことはあまり知られているとは言えない。アメリカ合衆国はどんな訴追も受けないよう自分で免除しているのです。アメリカが1946年に、現代の国際的な司法による正義を開始したとされる国際司法裁判所に加入したとき、アメリカはどんな国際条約によっても──国際連合憲章にも米州機構憲章にもジュネーブ条約にも──裁かれないという留保付きで加盟したからです。アメリカはこうした国際問題でけっして裁かれないように自国を免除しており、国際司法裁判所もそれを認めた。ですからたとえばニカラグアが国際司法裁判所に同国に対するテロ行為でアメリカ合衆国を提訴しても、ほとんど却下されてしまう。他国への介入を禁止する米州機構憲章に違反しているとしても、アメリカはそれに縛られないので、裁判所もそれを追認せざるを得ない。
実際、興味深いことに、ユーゴスラウィアが国際司法裁判所に空爆で北大西洋条約機構(NTO)を訴えたとき、アメリカ合衆国は訴追対象から自国を除き、裁判所もそれを追認した。訴えのなかには民族虐殺が含まれていたのですが、アメリカが四十年たってからやっとジェノサイド条約に調印したとき「アメリカ合衆国には適用されず」という留保を付けてあったから、裁判所がアメリカを除外したのは正当な理由があるというわけ。権力を持つ者を誰かが法に訴えようとすれば必ず法的な障害にぶつかる。ローマ条約が締結されて国際司法裁判所が創立されたときのことを覚えておられるでしょう。アメリカ合衆国は参加を拒否しましたね。でもそれだけではなかった。議会が法を制定し、それを当時のブッシュ政権も喜んで認可しましたが、それによれば、もしアメリカ市民がハーグの国際司法裁判所に連れてこられたときは、アメリカは武力でハーグを攻めることができるというものです。ヨーロッパではこれはときに「オランダ侵略法」と呼ばれている。とにかくアメリカではこの法をこぞって歓迎したし、こんなわけでアメリカの自己免責はさまざまなレヴェルに及んでいるのです。一方には理解能力の欠如がある。たとえばアメリカ先住民に起きたことを否定したり、自分の目の前で起きていることが見えない、といったように。他方ではそれが法によって裏付けられているという現実がある。
A・V(アンドレ・ヴルチェク)
中国に対する攻撃を見てください。中国が過ちを犯すとどんなに小さなものでも、たとえばザンビアで起きた炭鉱事故で何人かが亡くなりましたが、これに中国企業が関係していて、その死者は数名──何百万ではないですよ──、それでも地元や他国の新聞の徹底攻撃にさらされた。炭鉱事故で亡くなった数人の悲劇が突然、西側の植民地や新植民地勢力によって何千万という人たちの殺戮に格上げされてしまったのです。
N・C
過去100年のあいだにとても洗練されたプロパガンダの体制が出来上がり、それが人々の頭を、犯罪者の頭のなかも含めて植民地化してしまった。だから西側諸国の知識人階級は総じて物事を見ることができなくなってしまった。私がよく覚えている興味深い例の一つが東ヨーロッパとその反体制派についてです。ヴァーツラフ・ハヴェル〔1936年~2011年。プラハ生まれのチェコの劇作家。チェコスロヴァキア大統領1989年から92年、チェコ共和国初代大統領1993年~2003年を歴任〕のような東欧の反体制派は西側でも大変有名で、大きな名誉を与えられています。彼らが辛酸をなめたことは疑いないし、多くが牢獄に囚われていた。しかし他方で、世界でもこれほど特権的な反体制派はいないのでは? 西側諸国のプロパガンダ・システムがこぞって彼らを讃えるのだから。ほかの場所のどんな反体制派もこんな扱いを受けていない。ベルリンの壁が壊されてからすぐあとにいくつかの衝撃的な事件がありました。たとえばサンサルバドルで、ラテンアメリカの指導的知識人だった六人のイエズス会神父がイエズス会の大学で残虐に殺害された。殺したのはエルサルバドル軍のエリート部隊であるアトラカトル大隊〔エルサルバドルで「死の軍団」と言われて恐れられた部隊で、米軍の訓練を受けた〕で、彼らがこの事件以前にいったいどれほどの人を殺したのか想像もつかないほどです。
事件当時、この部隊員たちは、アメリカ・ノースカロライナ州のジョン・F・ケネディ特別武器訓練校で新たに訓練を受けて帰国したばかりでした。帰ってきた彼らはアメリカ大使館と緊密な連絡を取っていた部隊長から特別命令を受けて大学に送られ、神父たちと周りにいた人たちを殺した。ですから家政婦もその娘も証人にならないようにと殺された。この事件のあとすぐヴァーツラフ・ハヴェルがアメリカ合衆国にやってきて両院合同会議で演説しましたが、大変な歓迎ぶりで、とくに彼がアメリカを自由の守護者だと言ったときの拍手は割れんばかり。実際にハヴェル自身がそう言ったのです。「自由の守護者」と。直前にサンサルバドルの「非人間」とされた人たちの住む場所で、六人を殺害した者たちのことを、です。まったく開いた口がふさがらない。この事実はさまざまなことを考えさせてくれますが、これに言及した人は非難にさらされた。
まったく反対のことが起きたかもしれないと、と想像することもできますね。つまりハヴェルとその同調者六人ほどがロシアで訓練され武器供与された治安部隊によって惨たらしく殺され、その直後に殺されたイエズス会の神父の一人であるエラキュリア神父がロシアに行って国家会議で演説し、殺害者を自由の守護者と褒め讃える・・・。世界は怒り狂うでしょう。しかし現実のアメリカ合衆国の場合には事実が見えなくされてしまい、何度か取り沙汰されて指摘があったとしても抹殺しようとするヒステリー反応しか返ってこない。
私にはこのことが、東ヨーロッパの知識人とラテンアメリカの知識人のとても大きな違いを説明するように思われます。東ヨーロッパの人たちは自分自身への関心がとても強くて「我々は苦しんだのだ」と言う。ラテンアメリカの人はもっと人間一般に関心があり、国際主義者です。エラキュリア神父がハヴェルと同じことをするなど考えられない。東ヨーロッパの知識人たちが厳しい扱いを受けたことは事実ですが、同時に彼らは大事にされ崇拝されてきた。西側諸国の人が東ヨーロッパに行って彼らを訪問することが名誉の印になっていたのですから。私もそうしようとしたことがありますがビザの申請が認められず、入国を許可されなかった。その一方でアメリカ合衆国が知識人や多くの人を殺害しているときにラテンアメリカに行った人たちは、気高いことをしたとけっしてみとめられない。
むしろ「サンダル履きの反体制派びいき」〔sandalistas=ニカラグアの反体制派集団「サンディニスタをもじった揶揄〕とか何とか言われて馬鹿にされることのほうが多い。
それだけではありません。たとえば、ここサマチューセッシ州ケンブリッジから数マイル離れたところにグアテマラのマヤ避難民の集落があります。三十年前レーガン政権がおこなった高地住民のジェノサイドで破壊された土地から今日でも逃げ出してくる人が絶えないのです。実際に手を下したグアテマラの将軍はいま裁判にかけられていますが、レーガンについては誰も何も言わない。彼はこの将軍を民主主義への献身者として讃え、「左翼」が牛耳る人権団体によって濡れ衣をきせられたのだと断じた。不法移民を憤る声は多くあるが、そもそもなぜ人々は逃げ出してくるのでしょうか。
もちろん、このことを考え出すと米国の血まみれた過去に直面しなくてはならないから、そのことは忘れておく──ラオスでもカンボジアでも、こうした事例はきりがない。
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