Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

父の相談

2013-07-04 02:00:00 | 雪と淳の生い立ち
長らく目を閉じていた彼が瞼を開けると、そこには神妙な顔をした河村教授がこちらを見つめて沈黙していた。

河村教授は暫し彼のことをじっと見つめ続けていたが、フッと肩の力を抜くとこう言った。

「被害者意識のせいだね」



「え?」と彼は聞き返した。

今河村教授の口にした言葉の意味が、先ほど話した息子の話とどう繋がるのか見当もつかなかったからだ。

しかし河村教授は訂正することなく、そのまま言葉を続ける。

「君の息子は、極度な被害者意識でそのような行動を見せるんだろう。

周りがあまりにも彼に干渉するから、逆に自身が周辺を操作して変えようとするんだろうね」




被害者意識? と彼はその単語を口に出した。それは自身が息子に対して思っていたものとはかけ離れ、

そのチグハグなイメージが彼の頭を混乱させる。

「一種の妄想だよ。皆自分のことを奪っていくと勘違いするんだ」



しかし、と彼は河村教授に向かって発言した。

息子は裕福な家庭で何不自由なく育ってきたのに、なぜあのように欲を抱くのか分からないと。

「本当にそう思っているのかね?」



そんな彼に向かって、河村教授は更に神妙な表情でそう問うた。

彼は真剣な表情で頷く。彼には根拠があったのだ。

彼の息子は優秀で器量も良く、家でも学校でも問題を起こしたことさえない。

彼の息子を知る誰もが彼を可愛がったし、愛されています、と。

しかし河村教授は彼の話を聞いても、何も動じなかった。むしろ身を乗り出して、問い詰めるように言葉を続ける。

「”うちの子は何一つ不自由なく育ち問題もない、愛されている” どこの親もこう言うよ。

皆が君の息子を可愛がったって?皆とは一体誰だね?」




それは金を貰って彼の世話をする家政婦か?

お抱えの運転手? 

幼い頃彼の面倒を見たベビーシッター?

それとも君と契約をしに来た事業者で、君の息子に優しくしてくれた中の誰か?

君の家と親交を深めようとする彼らの子供達?

一体、誰が?

「そう問い詰められると‥」



青田淳の父親は、河村教授からの質問に具体的には答えられなかった。

そして教授はその答えをも予測していたように頷くと、「単純なことだ」と言って、天を仰いだ。

「子供の目というのは恐ろしいものでね、彼らの”意図”をすぐに感じるんだ。

幼いが賢いし、鋭敏なのだよ」




彼の息子を取り巻く人々が、何を意図して近づいてくるのか。

”愛情”に似たものを目に宿して、どんな優しい言葉をかけてくるのか。

子供はすぐにそれがニセモノであると気づくという。笑顔の仮面をつけた人々の、欲望にまみれた本心を。

「‥‥‥‥」



彼は頬杖をつき、暫し沈黙した。裕福な家庭で育ってきた彼もまた、

河村教授の言う言葉の意味がよく分かったからだった。

「世間を見渡すと‥男女、貧富格差、世代差‥。

人は誰でも被害者意識を持っているよ。程度の差があるだけだろう」




人が人の間で暮らしている以上、それは避けては通れないことだ。

誰もが問題を抱えており、誰もが人と自分を比較して思い悩む。

しかし、「君の息子は特別その意識が強い」と教授は言った。

被害者意識が強力な為、受けただけ返さないと気の済まない性分なのだ、と。



淳の父は、頬杖をついた姿勢のまま尚も沈黙した。

反論の言葉が出かかるが、



しかしやはり口を噤んだ。

今更どんなことを話したって、結局今の状況は変わらないのだ。

彼は手で顔を覆いながら、深く息を吐いた。



しばらくの沈黙の後、彼は教授にこう問うた。

では私は、どうすれば良いのですか、と。

「あらゆる問題は家庭を通じて始まり、そして治るよ。

家族の絆の強さが一番大切だ」




教授はそう容易く彼に説くが、それは彼の家庭にとってはとても難しいことだった。

彼の妻‥つまり淳の母親は国際弁護士で海外出張が多く、そして彼自身も多忙極まる仕事をしていた。

この大きな企業を背負っていくにはそれはやむを得ないことであり、彼もそれを変えるつもりはなかった。

ただ空いた時間は最大限、息子と過ごすようにしていると彼は言った。

「それでも何かを試みなくては‥。ペットとか、兄弟とか‥」



教授は深く思案しながら、淳を救う方法を考え続けた。

兄弟のように気を許せる友達はいないのか、と続けて教授は彼に問う。

どんな間柄でもいい。何の打算も目的もなく、ただ互いのために気を掛け合える人が必要だと。

そういう思いを感じることこそが、なによりも今淳に必要なことなのだと。



彼は頭を抱えて黙り込んだ。

そういった間柄の人間を、誰一人として思い浮かべることが出来なかった。

「ペット‥兄弟‥」



教授は彼の呟きを聞きながら、喘鳴のかかる咳を幾度もしていた。

命のリミットがもうそこまで迫っている暗示の、不吉な咳を。

「兄弟か‥」



青田淳の父親は、そう言ったきり黙り込んだ。


答えの出ぬまま二人は別れ、そしてそれが今生の別れとなった。


心に引っかかったままの”兄弟”に突き動かされるように、そして彼は二人を引き取る。





そうして淳と河村姉弟の物語は、始まったのだ‥。


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<父の相談>でした。

一つ疑問が‥。

ここで河村教授があの額縁事件を知っていましたが、あの事件はそもそも教授が亡くなった後で起こったものだったんじゃ??



↑額縁事件の前に、教授が亡くなってしんみりしてる裏目氏なのに‥。

これは作者さんのミスなのか、それとも裏目氏の脳内相談なのか‥謎でした‥^^;


↑こちら修正されました~。今現在は、額縁事件のことには書いてありません。あしからず‥。

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<淳>その生い立ち(5)

2013-07-04 01:00:00 | 雪と淳の生い立ち



皆がお菓子を貪っている頃、手塚は一人声を潜めて家に電話していた。



二日以内に、またヨーロッパから蝶の標本を送ってくれと、無理なお願いをしているのだ。

当然そんな願いは叶えられるはずもなく、手塚は電話を切ると項垂れた。



モヤモヤと、頭の中は嫌な想像でいっぱいだった。

あんなに偉そうに言っておいて、結局お粗末な標本になってしまった。

先生には評価を下げられるだろうし、皆からも嫌われるに違いない。

あんな珍しい蝶々、もう手に入るわけがないじゃないか‥。


「手塚?」



振り返ると、淳が立っていた。

家に電話をしていたのかと聞く淳に、手塚は別になんでもないと強がった。


すると淳は、とんでもないことを言い出した。



「僕、君が持ってたあの蝶々、持ってるよ。昨年収集したんだ。」



「君にあげようか?」


手塚は息を飲んだ。


「ほ‥本当?」



「うん、本当。」


しかしその蝶は、大きなケースに入っているので、手塚に譲るのには小さなケースが必要だと淳は言い出した。



「ちょうどピッタリのがあったんだけど、檜山が持って行ってしまって‥」



淳はしおらしげに言った。

君にあげようと思っていた額縁を檜山が欲しいと言ったので、

自分の蝶々を君にあげる話をすることもできなくて、どうやっても返事ができなかったんだと。



「それでも僕は嫌だと、ハッキリ言ったんだけど‥。」


手塚は檜山に食って掛かった。



人の家の物を取っていくバカがあるかよと手塚が言うと、事情を聞いた宇野たちも檜山を非難した。

特に手塚は、自分がもらえるはずの額縁がかかっているので、よりいっそう激昂していた。




淳の父親は、ただならぬものを感じた。



実は先ほど、淳と手塚が蝶を譲る話をしていたのを、柱の影から聞いていたのだった。


檜山は皆から責められ、真っ青になっていた。



自分の小さな欲求が、ここまで大騒動になるとは思っていなかったに違いない。

収集がつかなくなった子供らの喧嘩を、淳の父親が仲裁に入ろうと一歩踏み出した時だった。







パリィィン!





その音に、全員の動きが止まった。










「喧嘩は止めて。聞きたくないよ。」




額縁はガラスが粉々に割れ、修復不可能になった。



騒動の元となった額縁は、これでもう無くなった。









小さな炎が燃え尽きるように、

その騒動は幕を閉じた。










その後、手塚にはまた新しい額縁を用意すると淳が言うと、彼はホッとしたように頷いた。

檜山は皆から責められたのと、額縁が壊れたのとで、最後には涙を流した。

淳がごめんねと謝りながら、その肩を抱いて部屋へと戻って行った。







淳の部屋では、再び皆作業にかかった。



その様子を、柱の影から淳の父親が見ていた。










自分の息子の、その奇妙な笑みを浮かべた表情を。






問題があると芽から切ってきた淳の父親は、その下にある根までは見通すことが出来なかった。

しかしもう土を掘り起こすには年月が経ちすぎていた。

そのことを彼は、息子の狡猾な笑みを見て図らずとも悟ってしまった。

結局彼の根‥、コアの部分は何も変わっていなかったのだ。

それは自らに寄ってくる人々への処世術を身につけ、万事への武器である笑顔の仮面を被っていただけだけの、

見せかけの”正常”だった。













河村教授、


もう私には分かりません。

ずっと淳を見守って来ましたが、事故を起こしたり、問題になる行為をすることはありませんでした。

けれど、息子は他の誰とも真心に充ちた関係を結ぶことが出来ないんじゃないか、

という不安な考えが頭を過ぎります。




どんな問題よりも、それが最も悲しい。


後悔しないことを望み、小さな希望を連れて帰ることにしました。



どうか彼らが、その閉ざされた心の扉を解き放ちますように。










淳の父親は、河村教授の孫の姉弟を、青田家で面倒を見ることにした。

両親の居ない彼らへの、そして良心を持たない息子への、小さな希望のつもりだった。





このことが彼らの人生に、多大な影響を与えることになるとも知らずに。







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<淳>その生い立ちでした。

エピソードを二つ盛り込みましたが、どちらも淳の内面を色濃く写しとったエピソードでしたね。

ちなみにプロフィールによると、母親は居ますが国際弁護士さんらしく、家を空けることが多いみたいです。
(淳が大学生の今は、アメリカに住んでいるらしい。)

だからこそ、父親からの教育が強く入ってきたし、淳は母親の額縁にあんなにも執着したんでしょうね。




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