Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<亮と静香>高校時代(2)ー天才と凡人ー

2013-07-12 01:00:00 | 河村姉弟1<幼少期~本当の家族>
その指が鍵盤の上に置かれると、世界は色を変えた。




その世界に没頭していくように、彼は音階の中へと沈み込んで行く。



ピアノそのものがオーケストラである、という言葉がある。

彼がピアノを弾くと多彩な音が満ち、聴衆はその音色に心を惹き付けられた。




ピアノ専攻の男子生徒が、亮の後ろで譜面を指でなぞっている。



河村亮を天才と崇める声が、どこからともなく聞こえてくる中で。




滑らかに続く音の洪水。

その鮮やかな指の動きに、男子生徒は拳をきつく握り締めた。




亮は、練習室の外に先生が来ていることに気がついた。



亮の先生は年配でメガネを掛けている方だが、今日は一人客を連れていた。

彼は亮のピアノを聞いて、その才能に舌を巻いた。先生の亮に対する意欲に、頼もしさを感じながら。



亮は二人に挨拶を済ませると、ピアノ科の男子生徒が座っている椅子を、彼をどかせて二人の為に用意した。



周りの生徒達が、先生が連れてきた客はTVに出てた有名な先生だとヒソヒソ話すのが聞こえる。



男子生徒は、その様子をじっと見つめていた。

さすが河村亮、というその賛辞を聞きながら。







その頃美術室では、新入生たちがお喋りをしながら部屋の掃除をしていた。



一人が落ちている絵を踏んでしまい、それを拾い上げた。



失敗作だろうから捨てとこうか、と二人が絵を見て言っていると、

その後ろから河村静香が声を掛けた。



静香はなぜ絵を捨てるのかと聞いた。

新入生たちは今日は焼却日ですからと答える。



もう一度静香は聞く。なぜその絵を捨てるのかと。

新入生の一人は、失敗作だろうから捨てようかと思ったと答えた。

静香は新入生から絵を取ると、それを彼女達の目の前にかざした。

「それじゃ、この絵のどこがダメなのか教えてくれる?」



新入生たちは最初こそおずおずと静香の表情を窺っていたが、彼女が笑顔を浮かべると忌憚のない意見を述べ始めた。

「うーん、どこって‥。一箇所だけ指摘出来ないよね」

「これって新入生の絵だよね?」



「新入生でもないでしょ、中学生とか小学生の絵みたいだもん」

彼女らは無邪気に笑った。

その絵を描いた作者が目の前に居るとも知らずに。









亮が職員室へと走って行くと、静香が頬を抑えて泣く新入生の前で正座させられていた。

彼女がこういった暴力事件を起こすことは珍しくないらしく、

周りの教員達は、また河村静香かと溜息を吐きながらその様子を見ていた。






悪びれる様子の無い静香は、下校時間になっても亮からの小言を延々聞かされた。

「お前は一体何やってんだよ?!一年入学遅らせて入ったと思えば事件ばっかり起こしやがって!

青田会長にはまた何て弁解すりゃいいんだよ!」




これまでの素行不良から、静香はもう一度呼び出しをくらえば停学という所まで来ていた。

亮は年子の姉に対して、こんなことじゃオレの方が早く卒業するかもなとガミガミ言った。



静香は亮と同じトーンで言い返そうとしたが、隣に居る淳を気にして甘える口調で言い訳する。

「だ~ってあの子たちが先にヒドイこと言ったんだもん!会長が支援してくれるから頑張って描いてるのに、

あんなこと言われてさぁ。マジ傷ついたよ~」




静香は淳の腕に自分のそれを絡め、鼻にかかる声で泣き事を言った。

「周りの子達もマジでムカつくし、絵とかもう色々全部辞めたいよぉ」



淳が見ている横で、静香は溜息を吐いた。

しかし次の瞬間亮は、その甘え事をバッサリ斬った。

「それじゃもう辞めちまえ」



その言葉に、静香は息を飲んだ。

「良い成績を取れるわけでもなし、毎日非難される、事件は起こす。奨学金も一度も受けられない」



オレがお前だったらとっくに辞めてると亮は言った。なぜストレスを溜めてまで続けているんだと。

後から後から出てくる不満を、亮は述べ続けた。途中淳が彼を止めようとしたが、鬱憤の溜まっていた亮の小言は続いた。

「お前が騒ぎを起こす度に、どれだけオレの練習の妨げになってると思ってんの?

会長もお前見てんの恥ずかしいと思うぜ。お前はそれでいいわけ?」




静香はさすがに言い返した。

「あたしだって好きで事件ばっかり起こしてるわけじゃない!

あの絵をあたしがどれだけ頑張って描いたか知ってんの?!」




静香はチラッと淳を見ると、その大きな黒い瞳と目が合った。

頬を染めて目を逸らした静香を、亮が見て合点がいったという顔をした。

「‥はいはいはい、そういうこと?家に閉じこもって何を熱心に描いてるかと思ったら‥」



「あれ淳の絵?」

赤くなり俯いた静香に、亮は笑いを堪えきれなかった。

あのピカソみたいな絵が淳だって?!とゲラゲラ笑いながら嘲った。



般若のような顔で亮を睨む静香に気付いた淳は彼を止めようとしたが、

亮の笑いは止まらなかった。



そしてまだ笑いを引きずりながら、淳にある質問をした。

「この際だから聞くけど、お前はぶっちゃけどうよ?静香に絵の才能があると思うか?」



淳は目を丸くし、静香はたじろいだ。

しかし淳はにこやかに答えた。

「‥俺は絵のことはよく分からないけど、上手いと思うよ?」



その答えを聞いて、亮は呆れた口調で言った。

「あ~あ、またお世辞かよ!」



亮の言葉に、淳は虚を突かれた顔をした。

「俺が気付かないとでも思ったか?お前とどんだけ一緒に過ごしてきたと思ってんだよ。

お前よく人を褒めっけど、口先ばっかのくせに」




「じゃあなんで最初っから言わねーんだよ?静香の絵は上手いって。

”絵のことはよく分からない”なんて前置きナシでよ」


淳は言い返せなかった。

遠慮無く要点を突いてくる亮の言葉は鋭く、そして本質を突いていた。

褒めるとつけあがるから、ほどほどにしてくれと淳を諌めた後、その矛先をやはり静香に向けた。


「どう見ても才能ねーよ。なのに留学するだの個展を開くだのデカイことばっか言いやがってよぉ」



「もうちょっと現実ってもんを見て‥」

そこまで言ったところで、亮の後頭部に衝撃が走った。







そのまま静香は亮の背中を蹴り、激しく転んだ亮の頬を殴った。

止めようとする淳の腕を振り払って、馬乗りになって亮の胸ぐらを掴んだ。

「ふざけんじゃねーよ。いつかあんたがピアノ弾いてる時、

いきなり蓋を閉じてその指全部折っちゃうかもしれないわよ」




静香は瞬きもせずに弟の目を見つめて言った。



そして手を離すと、踵を返して去って行った。

残された亮は、あっけに取られながらも彼女を罵倒した。淳は溜息を吐きながらも亮に手を貸しその身を起こすと、

彼の発言の酷さを指摘した。静香は優しく言い聞かせれば聞く子だよと。

しかし殴られた悔しさも相まって、亮の怒りは治まらない。



「あいつが1番取るくらい実力がありゃこんなこと言わねーよ!

もう高3なのに、金かけてもかけてもあんなレベルじゃどうしようもねーだろ!」




亮は殴られた頬を撫でながら、淳とそのまま帰路を歩いた。

容貌の優れた二人が並んで歩く様子は絵になり、仲睦まじくも見えた。


その様子をピアノ科の男子学生が、窓からじっと見ていた。





この後彼は亮と目が合ったが、お互いすぐに逸らした。


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<亮と静香>高校時代(3)へ続きます。



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