青田淳の突然の誘いで、二人は夕食を共にすることになった。
にこやかに微笑む彼を前に、赤山雪はお礼を言った。
「ありがとうございます先輩。普段食べれないものばかり‥」

目の前に並んだのは高級なフレンチの数々‥
‥ではなく、いくつものコンビニおにぎりであった。

中でも雪のお気に入りは、飛び抜けて大きな丸い物体であった。
「特にこの爆弾!爆弾です!」

「爆弾?」

雪の持っている”爆弾”は、淳が初めて見る物体だった。
コンビニで買い食いをしたことの無い淳には、全てが新鮮且つ衝撃的だ。
「全部買っても千円ちょっとしかしないのな」

雪は笑っていたが、心の中では淳のボンボン丸出し発言にムカついていた。
「何言ってるんですか!普段こんな量一度に買えないんですよ~?!」

青田淳が「千円」と言うと、なんだか変な犬の名前みたいに聞こえる。
雪は、心の中では毒づきつつ、頭の中では必死に、”親切な先輩に奢られている後輩”を演じていた。
必要なのは笑顔、飾り気、そしてやっぱり笑顔。
仮面を被るのよマヤ!
「せっかくなのにこんなので良かったの?」

先輩は笑顔でそう雪に聞いた。
雪もまた笑顔を浮かべ、それに応える。
「いいんですこれで!てかこれさえも申し訳ないくらいですし!
でも丁度お腹空いてたんです、ありがとうございます~」

青田先輩はそんな雪を見て微笑んだ。
「いい子だね」

雪の演技プランではこの後飾り気を出さなければいけなかったのだが、
思いもよらない彼の一言によってそのシナリオは崩壊する。
思わずボッと顔を赤らめる雪。
うぉぉっ!!なんなのいきなり?!

人が思いっきり緊張してるってのに!!
コイツめ、夏でも無いのにこんなにも汗だくにさせやがって‥!なんなのこの醜態は?!

青田淳はまだ不思議そうな顔で、大きなおにぎりを手に取り「爆弾‥」と呟いていた。
雪がふと我に返って辺りを窺うと、周りの女子達はほとんど皆チラチラと彼を見て頬を染めている。

そうだった。彼との間には色々ありすぎて忘れていたが、この男はどこに行っても注目の的なのだった。
雪はその飄々とした横顔に、心の中で舌打ちをした。

今のにこやかな彼に騙されてはいけない。
今までの諍いを思い返してみれば自ずと結論は出るじゃないか。
100%何か企んでるんだ!!
気をつけろ雪!この男は蛇のように抜け目なく‥

雪が警戒心をMAXにしていると、突然隣で彼は笑い出した。
「プハハハハ!」

驚きのあまりジュースを吹き出した雪に向かって、先輩は無邪気な笑顔を浮かべる。
「これ爆弾みたいな形だから爆弾って言うんだな!やっと分かったよ!」

この人のこんな笑顔を、雪は初めて見た。
いつも目にした冷淡な視線や、見せかけの笑顔とはまるで違っていた。

目を丸くしている雪に、彼は普段コンビニに行かない自分に引いてるのかといった心配までした。
理解の付いていかない雪が固まっていると、先輩はジュースを吹き出した彼女にティッシュを差し出した。
「要らないの?」

雪はティッシュを受け取ると、お礼を言ったきり黙り込んだ。
実際、未だにこの先輩がどんな人間なのか、よく分からない

下を向く雪に先輩は気遣う言葉を掛けてくれるが、雪は不快感さえ感じていた。
雪はしばし、去年の新歓飲みのことを思い出していた。
丁度一年前の今頃だったのだ、彼と出会ったのは‥。

「雪ちゃん?」

追憶の中を旅していた雪は、先輩の声で呼び戻された。
肩に手を置かれると、嫌な記憶が蘇って身体が強張る。

しかし彼の方を向いてみると、手のひらにおにぎりを乗っけて困っている所だった。
「これうまく剥がせないんだけど、どうすればいいの?」

?!

彼はそのまま全部剥こうとビニールを剥がしかけたが、雪の手によって無残なおにぎりは救出された。
コンビニに行かないことが実証されたおにぎりを手に、雪はそのことにもまたムカついた。
しかし必要なのは笑顔と飾り気‥。
「私のと味一緒なんでこっち食べて下さい。はい、これ」

彼の手のひらに、雪が正しく剥いたおにぎりが置かれた。
「ごめん。何だかすごくかっこ悪いな」

そんな彼に対し、雪は笑顔でフォローする。
「はは、そういうこともありますって」

先ほどからやたら謝ってばかりの彼に、イライラする。
しかし淳は、そんな雪の横顔を見ながら微笑んでいた。

雪は気が付かなかったけれど。
「今日は本当に本当にありがとうございました!おかげで夜ご飯困らずに済みました!」

帰り際、雪は何度もお礼を言った。
その笑顔と飾り気総動員の演技は、多少仰々しい。
「なんか大げさだなー」「え?!ちがっ‥ホントにホントですってば!!」

雪は演技が見破られたかと思って、思わずビクついた。
心の中ではあんたと向い合って夕食を取るなんて胃がもたれるだろ!と思っているからだ。

「そう?」

一応納得したような彼に、雪は笑顔で接し続けた。
「そりゃもう~~」

しかし気まぐれだかなんだか知らないが、こんな行動はこれっきりにして欲しい‥。
が、次の瞬間、青田淳は雪の想定外の発言をした。
「じゃあ今度はもっといいものご馳走するよ」

今日のはノーカウントな、と彼は言った。
つまり、それはまた後日誘うということで‥。
またしても演技を忘れ固まった雪に、それじゃあお先と先輩は挨拶をして踵を返した。

どういうこと?

雪は去って行く彼の後ろ姿を目で追った。
先ほどのにこやかな彼より、よっぽど背中の方が見慣れていた。
厭わしく感じていた、あの人の後ろ姿‥

汚らわしいと言っていたあの飲み会から一年。
積み重なった不信感は拭い去れるはずもなく、却って不快感の方が強く残る。
雪はその疎ましい後ろ姿を、猜疑心に充ちた目で見つめ続けた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<突然の誘い>でした!
爆弾おにぎり、画像拝借しました。アルミホイルに包まれてるんですね!

しかし過去のゴタゴタを忘れるくらい先輩が楽しそうでいいですね!
次回からも先輩の猛烈アタックが続きます!w
次回は<彼の変化>です!
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にこやかに微笑む彼を前に、赤山雪はお礼を言った。
「ありがとうございます先輩。普段食べれないものばかり‥」

目の前に並んだのは高級なフレンチの数々‥
‥ではなく、いくつものコンビニおにぎりであった。

中でも雪のお気に入りは、飛び抜けて大きな丸い物体であった。
「特にこの爆弾!爆弾です!」

「爆弾?」

雪の持っている”爆弾”は、淳が初めて見る物体だった。
コンビニで買い食いをしたことの無い淳には、全てが新鮮且つ衝撃的だ。
「全部買っても千円ちょっとしかしないのな」

雪は笑っていたが、心の中では淳のボンボン丸出し発言にムカついていた。
「何言ってるんですか!普段こんな量一度に買えないんですよ~?!」

青田淳が「千円」と言うと、なんだか変な犬の名前みたいに聞こえる。
雪は、心の中では毒づきつつ、頭の中では必死に、”親切な先輩に奢られている後輩”を演じていた。
必要なのは笑顔、飾り気、そしてやっぱり笑顔。
「せっかくなのにこんなので良かったの?」

先輩は笑顔でそう雪に聞いた。
雪もまた笑顔を浮かべ、それに応える。
「いいんですこれで!てかこれさえも申し訳ないくらいですし!
でも丁度お腹空いてたんです、ありがとうございます~」

青田先輩はそんな雪を見て微笑んだ。
「いい子だね」

雪の演技プランではこの後飾り気を出さなければいけなかったのだが、
思いもよらない彼の一言によってそのシナリオは崩壊する。
思わずボッと顔を赤らめる雪。
うぉぉっ!!なんなのいきなり?!

人が思いっきり緊張してるってのに!!
コイツめ、夏でも無いのにこんなにも汗だくにさせやがって‥!なんなのこの醜態は?!

青田淳はまだ不思議そうな顔で、大きなおにぎりを手に取り「爆弾‥」と呟いていた。
雪がふと我に返って辺りを窺うと、周りの女子達はほとんど皆チラチラと彼を見て頬を染めている。

そうだった。彼との間には色々ありすぎて忘れていたが、この男はどこに行っても注目の的なのだった。
雪はその飄々とした横顔に、心の中で舌打ちをした。

今のにこやかな彼に騙されてはいけない。
今までの諍いを思い返してみれば自ずと結論は出るじゃないか。
100%何か企んでるんだ!!
気をつけろ雪!この男は蛇のように抜け目なく‥

雪が警戒心をMAXにしていると、突然隣で彼は笑い出した。
「プハハハハ!」

驚きのあまりジュースを吹き出した雪に向かって、先輩は無邪気な笑顔を浮かべる。
「これ爆弾みたいな形だから爆弾って言うんだな!やっと分かったよ!」

この人のこんな笑顔を、雪は初めて見た。
いつも目にした冷淡な視線や、見せかけの笑顔とはまるで違っていた。

目を丸くしている雪に、彼は普段コンビニに行かない自分に引いてるのかといった心配までした。
理解の付いていかない雪が固まっていると、先輩はジュースを吹き出した彼女にティッシュを差し出した。
「要らないの?」

雪はティッシュを受け取ると、お礼を言ったきり黙り込んだ。
実際、未だにこの先輩がどんな人間なのか、よく分からない

下を向く雪に先輩は気遣う言葉を掛けてくれるが、雪は不快感さえ感じていた。
雪はしばし、去年の新歓飲みのことを思い出していた。
丁度一年前の今頃だったのだ、彼と出会ったのは‥。

「雪ちゃん?」

追憶の中を旅していた雪は、先輩の声で呼び戻された。
肩に手を置かれると、嫌な記憶が蘇って身体が強張る。

しかし彼の方を向いてみると、手のひらにおにぎりを乗っけて困っている所だった。
「これうまく剥がせないんだけど、どうすればいいの?」

?!

彼はそのまま全部剥こうとビニールを剥がしかけたが、雪の手によって無残なおにぎりは救出された。
コンビニに行かないことが実証されたおにぎりを手に、雪はそのことにもまたムカついた。
しかし必要なのは笑顔と飾り気‥。
「私のと味一緒なんでこっち食べて下さい。はい、これ」

彼の手のひらに、雪が正しく剥いたおにぎりが置かれた。
「ごめん。何だかすごくかっこ悪いな」

そんな彼に対し、雪は笑顔でフォローする。
「はは、そういうこともありますって」

先ほどからやたら謝ってばかりの彼に、イライラする。
しかし淳は、そんな雪の横顔を見ながら微笑んでいた。

雪は気が付かなかったけれど。
「今日は本当に本当にありがとうございました!おかげで夜ご飯困らずに済みました!」

帰り際、雪は何度もお礼を言った。
その笑顔と飾り気総動員の演技は、多少仰々しい。
「なんか大げさだなー」「え?!ちがっ‥ホントにホントですってば!!」

雪は演技が見破られたかと思って、思わずビクついた。
心の中ではあんたと向い合って夕食を取るなんて胃がもたれるだろ!と思っているからだ。

「そう?」

一応納得したような彼に、雪は笑顔で接し続けた。
「そりゃもう~~」

しかし気まぐれだかなんだか知らないが、こんな行動はこれっきりにして欲しい‥。
が、次の瞬間、青田淳は雪の想定外の発言をした。
「じゃあ今度はもっといいものご馳走するよ」

今日のはノーカウントな、と彼は言った。
つまり、それはまた後日誘うということで‥。
またしても演技を忘れ固まった雪に、それじゃあお先と先輩は挨拶をして踵を返した。

どういうこと?

雪は去って行く彼の後ろ姿を目で追った。
先ほどのにこやかな彼より、よっぽど背中の方が見慣れていた。
厭わしく感じていた、あの人の後ろ姿‥

汚らわしいと言っていたあの飲み会から一年。
積み重なった不信感は拭い去れるはずもなく、却って不快感の方が強く残る。
雪はその疎ましい後ろ姿を、猜疑心に充ちた目で見つめ続けた。

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爆弾おにぎり、画像拝借しました。アルミホイルに包まれてるんですね!

しかし過去のゴタゴタを忘れるくらい先輩が楽しそうでいいですね!
次回からも先輩の猛烈アタックが続きます!w
次回は<彼の変化>です!
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