雪は整理できない頭を抱えて疲れたので、家に着くと布団に倒れこんだ。

そのままウトウトしかけた雪だが、その頬に足が押し付けられた。

そう、ここは雪の家ではなく聡美の家なのだ。

この春から一人暮らしを始めた雪は、まだ荷物整理が終わっていなくて、ついつい居心地の良いここに居ることが多かった。
聡美は文句を言いながらも、雪に晩御飯食べる?と気遣いの言葉を掛けた。
「ご心配なく~。タダ飯食べてきたもんね~」

人んちの布団に寝転びながらそう言った雪に、聡美はまた太一にセビッたのかと呆れ顔をした。
そんなことしないもんと言う雪に、聡美はじゃあ誰に奢ってもらったのと追及してきた。

「あんたもしかして‥!ついに男出来たな?!」

そう言って目を輝かせる聡美に、雪はため息混じりに否定した。
それでもまだ聡美が追及してくるので、雪は青田先輩に奢ってもらったと白状した。
「ええ?!青田先輩が~~??」

そんなに仲良かったっけ?と目を丸くした聡美に、雪はそんなわけないじゃんと返した。
「なのに奢ってくれたの?あの先輩が特定の人にご飯奢るとか聞いたことないけど」

その理由が分かれば苦労はしない。雪は溜息を吐いた。
「私もよく分かんない。なんか変な気分だよ」
聡美は目を丸くしながらも、とある結論を導き出した。

「ってことは‥」
「あんたに気があるんだって」

大学に着いてからも、聡美は何度も雪にそう言った。
雪も何度も否定したが、浮き足立った聡美はくすくすと笑うばかりであった。
しかし太一は、そんな聡美の意見には懐疑的であった。
「青田先輩、頭でもぶつけたんすかね?校内一の美人とか芸能人とかならまだしも、雪さんを?」

悪気なく言う太一に、雪はげんこつを固めながら青筋を立てた。
そんな太一の意見に聡美は、雪も意外とあなどれないわよと彼女を弄り始めた。

コンシーラーで誤魔化しているがそばかすだってなかなか魅力的だし、目元もキリッとしてるしねと言われながら、雪はされるがままだった。
そんな雪を見て同じ学科の学生らが笑う。

しかし彼らは、次の瞬間珍しいものを目にすることになる。
「雪ちゃん」

「おはよ」

雪は勿論、聡美と太一も目を丸くした。
「お‥はようございます‥」

青田先輩はそんな雪を見て微笑むと、学友のいる席まで歩いて行った。

次の瞬間、ものすごい勢いで聡美と太一はコソコソと雪に耳打ちをし始めた。
「ええ~?!何今の?!」「ね!何が起きたんですかね?!」

二人は異常事態に対して見解を述べたが、その結論は聡美の意見に帰結した。
「雪!やっぱりそうだって!ご飯は奢ってくるわ挨拶はしてくるわ、絶対気があるんだってば!」
「しかもさっき雪さんを見て愛しそうに笑ってましたよ。青田先輩がイッちゃってる間にモノにするんですよ、今がチャンス!」

面白がる二人の間で雪は困惑した。

ついに雪にも春が来たと、太一と聡美は親目線での感慨深さを見せた‥。
それにしてもご飯の次はあからさまに挨拶まで‥。
今まで彼に挨拶しても、そっけない素振りをされるか無視されるかのどちらかだったのに、
これは一体どういうことなのか。
雪は前方の席に座る彼の後ろ姿をじっとりと睨んだ。

すると、

彼はゆっくりと振り向いた。スローモーションのように。
そして雪を見て、ふっと笑った。

雪は思わず目を逸らした。

否が応にも思い出してしまう記憶があった。
あの時もこうやって、振り返られて嗤われた‥。

雪は乾いたかさぶたがまた剥がれてしまうような感覚を覚えた。
違うことを考えなければ。また囚われていれば、去年の二の舞になってしまう。

雪は彼を出来るだけ避けることに決めた。
授業が終わり、三人は新しく出来たカフェに行こうかと話していた。

しかし途中で太一は友人からバスケに誘われそっちに行ってしまったため、
他のメンバーを誰か誘おうと話していた時だった。
あのキノコ頭の子が、青田先輩に話しかけているのが目に入った。

健太先輩が「またこいつか」と言っている所を見ると、割りと頻繁に付きまとっているらしい。
彼女はご飯一緒に食べませんかと彼を誘った。

健太先輩達と食べに行くんだと彼が答えると、それじゃあ一緒に行ってもいいですかとなかなかしぶとい。
そんな積極的なキノコ頭を見て、聡美は「虎の留守を狙う狐」と言った。

虎とは、平井和美のことだった。
彼女が今学期から休学したことを、雪は今知った。
結局断られたキノコ頭の後ろで、他の女子が目を光らせている。

平井和美が居なくなったことで、青田先輩を狙う女子たちは結構居るみたいだ。
雪がその様子を訝しげな目で見ていると、ふいに彼と目が合った。

先輩は微笑むと雪の名前を呼びかけたが、雪はそれを豪快な方法で遮った。
「あ~っはっはっはっ!行くよ聡美!カフェ行くんでしょ!私奢るし!」

そう大声で言ったので、周りの女子たちは皆喜んで雪に付いて行った。

砂埃舞う勢いでカフェへと急いでいく女子たちに、男性陣は若干引いた‥。

淳に至っては、目を丸くしていた。
雪は空っぽの財布の中を憂いながら帰路に着いていた。

去年貯めたアルバイトのお金も底を尽きそうだし、通帳にもお金無いし‥。
いつも自制している雪がこんなことになったのは、いきなり話しかけようとした青田淳のせいに違いなかった。
やたら声を掛けられると皆の視線が痛いのに‥と考えながら、
実はそれが作戦で雪を困らせようとしているのかと思いついた。

雪は頭を抱えた。彼から逃げたくて休学を決意したのに、これじゃ本末転倒だと嘆きながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼の変化>でした!
聡美と太一が面白すぎますね~!雪3年時の話はこの3人の友情も見どころの一つです。
しかし先輩のキノコ頭の子に対する態度、興味ナッシング過ぎて苦笑です。
結構面食いなんですかねw
次回は<一人暮らしと幼馴染み>です!
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そのままウトウトしかけた雪だが、その頬に足が押し付けられた。

そう、ここは雪の家ではなく聡美の家なのだ。

この春から一人暮らしを始めた雪は、まだ荷物整理が終わっていなくて、ついつい居心地の良いここに居ることが多かった。
聡美は文句を言いながらも、雪に晩御飯食べる?と気遣いの言葉を掛けた。
「ご心配なく~。タダ飯食べてきたもんね~」

人んちの布団に寝転びながらそう言った雪に、聡美はまた太一にセビッたのかと呆れ顔をした。
そんなことしないもんと言う雪に、聡美はじゃあ誰に奢ってもらったのと追及してきた。

「あんたもしかして‥!ついに男出来たな?!」

そう言って目を輝かせる聡美に、雪はため息混じりに否定した。
それでもまだ聡美が追及してくるので、雪は青田先輩に奢ってもらったと白状した。
「ええ?!青田先輩が~~??」

そんなに仲良かったっけ?と目を丸くした聡美に、雪はそんなわけないじゃんと返した。
「なのに奢ってくれたの?あの先輩が特定の人にご飯奢るとか聞いたことないけど」

その理由が分かれば苦労はしない。雪は溜息を吐いた。
「私もよく分かんない。なんか変な気分だよ」
聡美は目を丸くしながらも、とある結論を導き出した。

「ってことは‥」
「あんたに気があるんだって」


大学に着いてからも、聡美は何度も雪にそう言った。
雪も何度も否定したが、浮き足立った聡美はくすくすと笑うばかりであった。
しかし太一は、そんな聡美の意見には懐疑的であった。
「青田先輩、頭でもぶつけたんすかね?校内一の美人とか芸能人とかならまだしも、雪さんを?」

悪気なく言う太一に、雪はげんこつを固めながら青筋を立てた。
そんな太一の意見に聡美は、雪も意外とあなどれないわよと彼女を弄り始めた。

コンシーラーで誤魔化しているがそばかすだってなかなか魅力的だし、目元もキリッとしてるしねと言われながら、雪はされるがままだった。
そんな雪を見て同じ学科の学生らが笑う。

しかし彼らは、次の瞬間珍しいものを目にすることになる。
「雪ちゃん」

「おはよ」

雪は勿論、聡美と太一も目を丸くした。
「お‥はようございます‥」

青田先輩はそんな雪を見て微笑むと、学友のいる席まで歩いて行った。

次の瞬間、ものすごい勢いで聡美と太一はコソコソと雪に耳打ちをし始めた。
「ええ~?!何今の?!」「ね!何が起きたんですかね?!」

二人は異常事態に対して見解を述べたが、その結論は聡美の意見に帰結した。
「雪!やっぱりそうだって!ご飯は奢ってくるわ挨拶はしてくるわ、絶対気があるんだってば!」
「しかもさっき雪さんを見て愛しそうに笑ってましたよ。青田先輩がイッちゃってる間にモノにするんですよ、今がチャンス!」

面白がる二人の間で雪は困惑した。

ついに雪にも春が来たと、太一と聡美は親目線での感慨深さを見せた‥。
それにしてもご飯の次はあからさまに挨拶まで‥。
今まで彼に挨拶しても、そっけない素振りをされるか無視されるかのどちらかだったのに、
これは一体どういうことなのか。
雪は前方の席に座る彼の後ろ姿をじっとりと睨んだ。

すると、

彼はゆっくりと振り向いた。スローモーションのように。
そして雪を見て、ふっと笑った。

雪は思わず目を逸らした。

否が応にも思い出してしまう記憶があった。
あの時もこうやって、振り返られて嗤われた‥。

雪は乾いたかさぶたがまた剥がれてしまうような感覚を覚えた。
違うことを考えなければ。また囚われていれば、去年の二の舞になってしまう。

雪は彼を出来るだけ避けることに決めた。
授業が終わり、三人は新しく出来たカフェに行こうかと話していた。

しかし途中で太一は友人からバスケに誘われそっちに行ってしまったため、
他のメンバーを誰か誘おうと話していた時だった。
あのキノコ頭の子が、青田先輩に話しかけているのが目に入った。

健太先輩が「またこいつか」と言っている所を見ると、割りと頻繁に付きまとっているらしい。
彼女はご飯一緒に食べませんかと彼を誘った。

健太先輩達と食べに行くんだと彼が答えると、それじゃあ一緒に行ってもいいですかとなかなかしぶとい。
そんな積極的なキノコ頭を見て、聡美は「虎の留守を狙う狐」と言った。

虎とは、平井和美のことだった。
彼女が今学期から休学したことを、雪は今知った。
結局断られたキノコ頭の後ろで、他の女子が目を光らせている。

平井和美が居なくなったことで、青田先輩を狙う女子たちは結構居るみたいだ。
雪がその様子を訝しげな目で見ていると、ふいに彼と目が合った。

先輩は微笑むと雪の名前を呼びかけたが、雪はそれを豪快な方法で遮った。
「あ~っはっはっはっ!行くよ聡美!カフェ行くんでしょ!私奢るし!」

そう大声で言ったので、周りの女子たちは皆喜んで雪に付いて行った。

砂埃舞う勢いでカフェへと急いでいく女子たちに、男性陣は若干引いた‥。

淳に至っては、目を丸くしていた。
雪は空っぽの財布の中を憂いながら帰路に着いていた。

去年貯めたアルバイトのお金も底を尽きそうだし、通帳にもお金無いし‥。
いつも自制している雪がこんなことになったのは、いきなり話しかけようとした青田淳のせいに違いなかった。
やたら声を掛けられると皆の視線が痛いのに‥と考えながら、
実はそれが作戦で雪を困らせようとしているのかと思いついた。

雪は頭を抱えた。彼から逃げたくて休学を決意したのに、これじゃ本末転倒だと嘆きながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼の変化>でした!
聡美と太一が面白すぎますね~!雪3年時の話はこの3人の友情も見どころの一つです。
しかし先輩のキノコ頭の子に対する態度、興味ナッシング過ぎて苦笑です。
結構面食いなんですかねw
次回は<一人暮らしと幼馴染み>です!
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