赤山雪、23歳。

A大学経営学科の2年学年首席、並びに全体次席。
家族構成は父、母、弟。父親は事業を営んでおり、母親は料理が得意。3つ下の弟、赤山蓮はただ今アメリカに留学中だ。
彼女はとても真面目な子で、頭も良くて気立ても良い。
両親に迷惑を掛けないようにと、大学の学費も塾の費用も、全て自分で賄おうと勉学とアルバイトに励んでいる。

(夏休みはカフェや家庭教師のバイトを頑張りました)
しかしいつも疲れて見えるその横顔は、ただ多忙だからというだけではないようだ。
なぜそこまで頑張るのだろうか?何の為に努力しているのだろうか?
彼女の生い立ち。それを少し追っていこうと思う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雪の大学以前の記述は、実は淳のそれより圧倒的に少ない。
しかし所々、首を傾げたくなるエピソードが彼女の過去にはある。
例えば幼少時の、雪の部屋。

あるものと言えば本棚にぎっしり詰まった書籍。
しかし弟、蓮の部屋はどうだろう。

おもちゃにテレビにゲーム機と、雪の部屋とはあまりにも違っている。
幼馴染の小西恵は毎日のように雪の家に遊びに来たが、いつもおもちゃを持ってくるのは恵だった。

雪はそれでも文句の一つも言わず、ただ笑顔を見せていた。

そして特記すべき事実の一つに、彼女の祖母が持つ、男尊女卑思考があった。
お菓子を出すときも弟にまず沢山与え、雪には催促されるまで何も出さなかったり、
弟と恵が喧嘩した時も、話も聞かずにまず雪を責めた。

弟が泣かされているのに、姉のお前は何をやっているのかと。
しかし彼女はそんな祖母にいつも笑顔を見せた。おばあちゃんが世界で一番好きなんだと言って。

しかし祖母が他界すると、その反動のように心を閉じた。

祖母が死に際に伸ばしてきたその手を、反射的に振り払ってしまったトラウマ。
それが今も雪を縛る。

泣きたくなるといつも、頭の中で祖母の声がする。
”泣くんじゃない 悪い子め”と。

あれから雪はその小さな背中に、全てを背負うことを決めた。
まるで自分が犯した罪を、一生かけて償うかのように‥。

高校生の時は、全校一位の成績を引き下げて学校に通った。

テスト期間になると徹夜に近い程勉強をした。そうして勝ち取った順位だった。
しかし、始めは雪を褒めていた両親も、一位が当たり前になると90点でも彼女を叱責するようになった。

彼女に比べると努力の劣る弟は、奨学金についても言及されることもなく、かといって冷遇されるわけでもなかった。
弟はその憎めない人柄と要領の良さで両親からの愛情を得て、

彼女の電子辞書(おそらく彼女が自分で買ったものであろう)を留学に行くからと持って行った。

しかし雪は、父親から「女の子は高い学費を出してまで大学に通う必要はない」と言われ、
奨学金を貰うため努力するしか無かった。

祖母から引き継いだ思考を持った父親に、彼女はいつまでたっても認めてもらえない。
ポッカリと大きく空いた穴を、いつも胸に抱いていた。

頑張っても頑張っても、得られない愛情。
努力しても努力しても、与えられない評価。

雪が自身を追い詰める理由は、その飢餓感にあるのかもしれない。
どうやったらこの飢餓感が埋められるだろう?どうしたらもっともらえるのだろう?
そうした精神の窮乏は、他人の目を気にする核(コア)を作る。
人の感情に敏感になり、その小さな変化や振る舞いを観察する性質へと。

しかしそうした性格はどうしても疲れるもので、ガヤガヤと群衆に囲まれる時、友人と談笑している時、
世界の狭間に落っこちたように沈むことがある。


そしてその疲労感は、人と真正面から向き合う時、ある結論を導き出す。




諦める、という結論。
それは心をぶつけない、という傷つくことへの回避手段でもある。
ぶつけてそれを自己治癒出来るほど、愛情に満ちて育ってきたわけじゃない。
ぶつけてそれに満足出来るほど、自分を表現出来る機会に恵まれてきたわけでもない。
それは彼女が幼い頃から必死に創り出して来た、自分を守る処世術なのだ。


これが、赤山雪という人間のコアだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪>その生い立ち でした。
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A大学経営学科の2年学年首席、並びに全体次席。
家族構成は父、母、弟。父親は事業を営んでおり、母親は料理が得意。3つ下の弟、赤山蓮はただ今アメリカに留学中だ。
彼女はとても真面目な子で、頭も良くて気立ても良い。
両親に迷惑を掛けないようにと、大学の学費も塾の費用も、全て自分で賄おうと勉学とアルバイトに励んでいる。

(夏休みはカフェや家庭教師のバイトを頑張りました)
しかしいつも疲れて見えるその横顔は、ただ多忙だからというだけではないようだ。
なぜそこまで頑張るのだろうか?何の為に努力しているのだろうか?
彼女の生い立ち。それを少し追っていこうと思う。
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雪の大学以前の記述は、実は淳のそれより圧倒的に少ない。
しかし所々、首を傾げたくなるエピソードが彼女の過去にはある。
例えば幼少時の、雪の部屋。

あるものと言えば本棚にぎっしり詰まった書籍。
しかし弟、蓮の部屋はどうだろう。

おもちゃにテレビにゲーム機と、雪の部屋とはあまりにも違っている。
幼馴染の小西恵は毎日のように雪の家に遊びに来たが、いつもおもちゃを持ってくるのは恵だった。

雪はそれでも文句の一つも言わず、ただ笑顔を見せていた。

そして特記すべき事実の一つに、彼女の祖母が持つ、男尊女卑思考があった。
お菓子を出すときも弟にまず沢山与え、雪には催促されるまで何も出さなかったり、
弟と恵が喧嘩した時も、話も聞かずにまず雪を責めた。

弟が泣かされているのに、姉のお前は何をやっているのかと。
しかし彼女はそんな祖母にいつも笑顔を見せた。おばあちゃんが世界で一番好きなんだと言って。

しかし祖母が他界すると、その反動のように心を閉じた。

祖母が死に際に伸ばしてきたその手を、反射的に振り払ってしまったトラウマ。
それが今も雪を縛る。

泣きたくなるといつも、頭の中で祖母の声がする。
”泣くんじゃない 悪い子め”と。

あれから雪はその小さな背中に、全てを背負うことを決めた。
まるで自分が犯した罪を、一生かけて償うかのように‥。

高校生の時は、全校一位の成績を引き下げて学校に通った。

テスト期間になると徹夜に近い程勉強をした。そうして勝ち取った順位だった。
しかし、始めは雪を褒めていた両親も、一位が当たり前になると90点でも彼女を叱責するようになった。

彼女に比べると努力の劣る弟は、奨学金についても言及されることもなく、かといって冷遇されるわけでもなかった。
弟はその憎めない人柄と要領の良さで両親からの愛情を得て、

彼女の電子辞書(おそらく彼女が自分で買ったものであろう)を留学に行くからと持って行った。

しかし雪は、父親から「女の子は高い学費を出してまで大学に通う必要はない」と言われ、
奨学金を貰うため努力するしか無かった。

祖母から引き継いだ思考を持った父親に、彼女はいつまでたっても認めてもらえない。
ポッカリと大きく空いた穴を、いつも胸に抱いていた。

頑張っても頑張っても、得られない愛情。
努力しても努力しても、与えられない評価。

雪が自身を追い詰める理由は、その飢餓感にあるのかもしれない。
どうやったらこの飢餓感が埋められるだろう?どうしたらもっともらえるのだろう?
そうした精神の窮乏は、他人の目を気にする核(コア)を作る。
人の感情に敏感になり、その小さな変化や振る舞いを観察する性質へと。

しかしそうした性格はどうしても疲れるもので、ガヤガヤと群衆に囲まれる時、友人と談笑している時、
世界の狭間に落っこちたように沈むことがある。


そしてその疲労感は、人と真正面から向き合う時、ある結論を導き出す。




諦める、という結論。
それは心をぶつけない、という傷つくことへの回避手段でもある。
ぶつけてそれを自己治癒出来るほど、愛情に満ちて育ってきたわけじゃない。
ぶつけてそれに満足出来るほど、自分を表現出来る機会に恵まれてきたわけでもない。
それは彼女が幼い頃から必死に創り出して来た、自分を守る処世術なのだ。


これが、赤山雪という人間のコアだった。
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<雪>その生い立ち でした。
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