地獄のような幼少期を過ごした二人も、青田淳の父親、青田会長の支援を受けるようになってからは、人並みの生活を送れるようになった。
そして時は流れ、亮、静香、そして淳は高校生になった。
理由は語られていないが、河村静香は一年入学を遅らせたので、三人とも同じ学年として学校に通った。

三人でつるんでいることが多く、校内でも目立つ彼らは皆の注目の的だった。

中でも亮はそのピアノの才能が開花して、天才と謳われていた。
ハーフの顔立ちと高身長で容姿も際立っていたが、
何よりも魂のこもったその演奏は、聴く者全てを虜にした。

一方静香は美術を専攻し、その活動を支援してもらっていた。

しかし思ったほどの成果は無かったばかりか、学内で暴力事件を起こすことも多々あり、悪名の方で話題に登ることの方が多かった。
二人は青田家の近所に住んでおり、ちょくちょく遊びに訪れた。

青田会長は亮の活躍を喜び、静香の天真爛漫なその性格に癒された。
ご飯を食べに連れて行ってとの彼女の願いにも、その多忙を縫って出来るだけ応えた。
彼らが遊びに来ると家の中がパッと明るくなったようだったが、
淳はその様子を一人離れて見ていることが多かった。

亮はそんな彼を見て、この間彼が言っていたことを思い出した。
高校時代の青田淳には、途切れることなく彼女が居た。
告白されるままに受け入れて付き合っていたが、その態度はどちらかというと冷たかった。

この日も、亮と静香と約束しているからと、淳を追ってきた彼女に付いて来るなという態度を取った。
後日、一人で歩いている淳に亮は彼女はどうしたと聞くと、淳はあっけらかんと別れたということを告げた。

付き合いが続いていくと自分への要求が多くなり、それに耐えかねていつも別れを選択する。
「適当な線を越えるから、気に障ったんだ」

亮が見た彼の横顔は、冷淡にも疲労しているようにも見えた。

去って行く淳の後ろ姿を見ながら、彼の言った”線を越える”ことの意味を、亮はまだ計りかねていた。

学校生活は順調だったが、亮には少しストレスになることがあった。

淳と親しいからか、周りの人間がいつも淳とのことを聞いてくるのだ。
この日も仲の良い女の子が淳について聞いてきたので、亮は自分から話しかければいいだろと返した。
しかし女の子は、亮にはよく分からないことを言った。
「だって淳くんってなんか話しかけにくいんだもん」

とっつきにくいと続ける彼女の発言に、亮は疑問を持った。

声をかければニコニコと笑って答える淳の、どこがとっつきにくいんだ?と。
しかし亮にとってはいつも兄弟のように傍にいた淳も、
周りの人間にとってはこの女の子が抱く印象の方が強い場合が多かった。

品行方正、頭脳明晰、容姿端麗。
それに加えて、父親の経営する企業が業績をぐんぐん上げている時期だった。
周りの子達の親や親戚は、淳と上手くやれと子どもたちに吹聴していた。
しかし既に淳の周りにはいつも人が溢れていたので、新しく親しくなろうとする子たちには淳に話しかける事自体が、敷居の高いことだった。
同い年なのに、どこか感じる孤高の威圧感。

その雰囲気を感じた人間はそっと傍を離れたし、それが分からない人間は周りに集い続けた。
しかし中には、あからさまな敵対心を向けてくる人間も現れた。

彼、西条和夫は典型的なそのタイプだった。
淳のやることなすことが気に食わず、聞えよがしに淳に対する不満を述べるのが常だった。
この日も、級長である淳が先生へのプレゼント代を皆から徴収している時、和夫は文句を言った。

級長で贔屓にしてもらっているのに、皆と同じ金額しか出さないことへの不満だった。
ボンボンのくせによぉ、と彼は淳に聞こえるように舌打ちした。
和夫は知らないだろうが、淳は後から個人的にも先生へ贈り物をする。それを知っている亮は、その文句を聞きながら半ば呆れた。

ある時、体育祭の打ち上げで淳が級長として皆にお弁当を奢ったことがあった。

皆喜んでお弁当にありついている中、和夫はやはり不満気だった。
「いい顔しやがってよぉ。ボンボンだからって自慢してんのか?」

そう言いながらも弁当をつつく彼に、今度は亮が文句を言った。
「ったくピーピーうるせぇよ。少なくてもピーピー、多く出してもピーピー」

「どっちかにしやがれってんだ」
それを聞いた和夫は亮に突っかかった。
しかしそれを淳が取り成し、なんとか騒ぎになるのは免れた。

和夫の不満の矛先は亮へと向かった。
ある日亮がウトウトしながら廊下を歩いていると、突然足を引っ掛けられた。

派手に転んだ亮に、和夫は嫌味な言葉をかける。
「青田に媚売りやがって、いい身分だなぁ?子分野郎」

元来短気な亮は、いきなり仕掛けられた悪意にキレた。
「てめー!ナメんじゃねーぞ!」

それから数週間、和夫は学校を休んだ。
亮は手加減したつもりだったが、思いの外重症だったのだろうかと気を揉んだ。
しかし皆が和夫について噂しているのを耳にした。
「西条の奴、入院したらしいよ」
「三年にやられたんだとよ。カツを入れるとかなんとか‥」

「けどなんで急にやられたんだろ?」
「日頃の行いの悪さのせいだろ。生意気な態度取ったとか」
亮はそれを聞いて、自分のせいではなかったとホッとした。

教室は変に皮肉る西条が居ないお陰で静かだった。
そのことをクラスメートが淳に言うと、彼は「そんなこと言うもんじゃない」と苦笑する。

クラスメートの女の子が、級長である淳に、教員室で和夫について何か聞いたかと質問した。
「‥さぁ」

「ただ運が悪かったんじゃない?」

亮はその横顔に、目が離せなくなった。

いつもニコニコしている彼が、ほんの一瞬見せたあの表情に。
あいつ‥今笑ったのか‥?

亮は淳の言った、”線を越える”という言葉を、ぼんやりと思い出していた。
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<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(2)ーへ続きます。
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そして時は流れ、亮、静香、そして淳は高校生になった。
理由は語られていないが、河村静香は一年入学を遅らせたので、三人とも同じ学年として学校に通った。

三人でつるんでいることが多く、校内でも目立つ彼らは皆の注目の的だった。

中でも亮はそのピアノの才能が開花して、天才と謳われていた。
ハーフの顔立ちと高身長で容姿も際立っていたが、
何よりも魂のこもったその演奏は、聴く者全てを虜にした。

一方静香は美術を専攻し、その活動を支援してもらっていた。

しかし思ったほどの成果は無かったばかりか、学内で暴力事件を起こすことも多々あり、悪名の方で話題に登ることの方が多かった。
二人は青田家の近所に住んでおり、ちょくちょく遊びに訪れた。

青田会長は亮の活躍を喜び、静香の天真爛漫なその性格に癒された。
ご飯を食べに連れて行ってとの彼女の願いにも、その多忙を縫って出来るだけ応えた。
彼らが遊びに来ると家の中がパッと明るくなったようだったが、
淳はその様子を一人離れて見ていることが多かった。

亮はそんな彼を見て、この間彼が言っていたことを思い出した。
高校時代の青田淳には、途切れることなく彼女が居た。
告白されるままに受け入れて付き合っていたが、その態度はどちらかというと冷たかった。

この日も、亮と静香と約束しているからと、淳を追ってきた彼女に付いて来るなという態度を取った。
後日、一人で歩いている淳に亮は彼女はどうしたと聞くと、淳はあっけらかんと別れたということを告げた。

付き合いが続いていくと自分への要求が多くなり、それに耐えかねていつも別れを選択する。
「適当な線を越えるから、気に障ったんだ」

亮が見た彼の横顔は、冷淡にも疲労しているようにも見えた。

去って行く淳の後ろ姿を見ながら、彼の言った”線を越える”ことの意味を、亮はまだ計りかねていた。

学校生活は順調だったが、亮には少しストレスになることがあった。

淳と親しいからか、周りの人間がいつも淳とのことを聞いてくるのだ。
この日も仲の良い女の子が淳について聞いてきたので、亮は自分から話しかければいいだろと返した。
しかし女の子は、亮にはよく分からないことを言った。
「だって淳くんってなんか話しかけにくいんだもん」

とっつきにくいと続ける彼女の発言に、亮は疑問を持った。

声をかければニコニコと笑って答える淳の、どこがとっつきにくいんだ?と。
しかし亮にとってはいつも兄弟のように傍にいた淳も、
周りの人間にとってはこの女の子が抱く印象の方が強い場合が多かった。

品行方正、頭脳明晰、容姿端麗。
それに加えて、父親の経営する企業が業績をぐんぐん上げている時期だった。
周りの子達の親や親戚は、淳と上手くやれと子どもたちに吹聴していた。
しかし既に淳の周りにはいつも人が溢れていたので、新しく親しくなろうとする子たちには淳に話しかける事自体が、敷居の高いことだった。
同い年なのに、どこか感じる孤高の威圧感。

その雰囲気を感じた人間はそっと傍を離れたし、それが分からない人間は周りに集い続けた。
しかし中には、あからさまな敵対心を向けてくる人間も現れた。

彼、西条和夫は典型的なそのタイプだった。
淳のやることなすことが気に食わず、聞えよがしに淳に対する不満を述べるのが常だった。
この日も、級長である淳が先生へのプレゼント代を皆から徴収している時、和夫は文句を言った。

級長で贔屓にしてもらっているのに、皆と同じ金額しか出さないことへの不満だった。
ボンボンのくせによぉ、と彼は淳に聞こえるように舌打ちした。
和夫は知らないだろうが、淳は後から個人的にも先生へ贈り物をする。それを知っている亮は、その文句を聞きながら半ば呆れた。

ある時、体育祭の打ち上げで淳が級長として皆にお弁当を奢ったことがあった。

皆喜んでお弁当にありついている中、和夫はやはり不満気だった。
「いい顔しやがってよぉ。ボンボンだからって自慢してんのか?」

そう言いながらも弁当をつつく彼に、今度は亮が文句を言った。
「ったくピーピーうるせぇよ。少なくてもピーピー、多く出してもピーピー」

「どっちかにしやがれってんだ」
それを聞いた和夫は亮に突っかかった。
しかしそれを淳が取り成し、なんとか騒ぎになるのは免れた。

和夫の不満の矛先は亮へと向かった。
ある日亮がウトウトしながら廊下を歩いていると、突然足を引っ掛けられた。

派手に転んだ亮に、和夫は嫌味な言葉をかける。
「青田に媚売りやがって、いい身分だなぁ?子分野郎」

元来短気な亮は、いきなり仕掛けられた悪意にキレた。
「てめー!ナメんじゃねーぞ!」

それから数週間、和夫は学校を休んだ。
亮は手加減したつもりだったが、思いの外重症だったのだろうかと気を揉んだ。
しかし皆が和夫について噂しているのを耳にした。
「西条の奴、入院したらしいよ」
「三年にやられたんだとよ。カツを入れるとかなんとか‥」

「けどなんで急にやられたんだろ?」
「日頃の行いの悪さのせいだろ。生意気な態度取ったとか」
亮はそれを聞いて、自分のせいではなかったとホッとした。

教室は変に皮肉る西条が居ないお陰で静かだった。
そのことをクラスメートが淳に言うと、彼は「そんなこと言うもんじゃない」と苦笑する。

クラスメートの女の子が、級長である淳に、教員室で和夫について何か聞いたかと質問した。
「‥さぁ」

「ただ運が悪かったんじゃない?」

亮はその横顔に、目が離せなくなった。

いつもニコニコしている彼が、ほんの一瞬見せたあの表情に。
あいつ‥今笑ったのか‥?

亮は淳の言った、”線を越える”という言葉を、ぼんやりと思い出していた。
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<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(2)ーへ続きます。
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