不意に鳴った携帯を開くと、あの写メが添付されている。

雪は歩道を歩きながら、この写メをどうしようか考えあぐねていた。
消す?いやでも自分の写真でもあるし‥。
ロックかけとく?いやロックかけてまで保存する価値があるのか?


雪は目を細めながら微妙に焦点をずらしてその写メを見た。
よく見たら私の顔だって悪くないかも‥。いや!やっぱりこれは世に稀な衝撃写真だ!

七変化よろしく、雪の表情はコロコロ変わった。
しかしここは曲がりなりにも公共の歩道。
周りを見渡すと、雪の不審行動に道行く人は皆振り返って彼女を見て行く‥。

雪は照れ笑いの後に、一目散で帰路に着いた。
家の前では、隣人が座り込んでタバコを吹かしていた。一人歌を歌いながら。

♪日~は暮れていくばかり~ 来るはずのない尋ね人を‥♪
隣人は雪に気がつくと、もう一度同じフレーズを口ずさんだ。
「♪月を見ながら待ちぼうけ‥?♪」

雪が続きを歌うと、隣人は凄い勢いで捲し立てる。
「ちょっと!誰が一緒に歌えって言ったのよ!空気読めっての!この姿見てなんとも思わないワケ?!」

雪が何か嫌なことでもあったのかと誘導されて尋ねると、
隣人はここのところ恋人と上手く行っていないのだと言った。
今日も喧嘩をしたと言って、わんわんと泣く。

「うーん‥とにかく落ち着いて‥相手の方とじっくり話し合った方がいいかと‥」

生真面目な雪のアドバイスに、隣人はグチグチ言った。

いつも自分が折れてあげてるから、そんなことしても無駄なのと。
近頃は笑っただけでバカにしてるのかって怒られるんだと彼は淋しげに言った。
隣人は涙ぐみながら、またさっきの歌の続きを歌う。

♪ああ~君が居ないベンチでひと~り~ 今日も枕を濡らすぅ~♪
雪は自暴自棄になるほど人を好きになっている隣人を見て、少し不思議な感じがした。

そのまま家に入った雪に、隣人は♪お隣さんは冷酷無情~♪と歌ったのだった‥。
家で寛いでいると、小西恵から電話が掛かって来た。
恵は開口一番、さっき健太先輩と青田先輩に会ったと言った。
彼女が話した事の顛末はこうだ。
恵が雪に借りた本を返そうと経営学科の建物へ入ると、健太先輩とバッタリ遭遇。

健太先輩は恵にご飯へ行こうと誘ってきたが、恵は約束があると断った。

けれどそんなことおかまいなしといった態度の健太先輩。
恵が困っていると、そこに青田先輩が通りがかった。

青田先輩は、自分は”雪ちゃんの友達”だと言って、
恵の代わりに本を返しておくと言ってくれた。

おかげで変に思われずにその場を逃れることが出来た恵だったが、

健太先輩の不機嫌な顔が気になった。

「両手に花ってか?さすが秀才クンは違うね~」

健太先輩はその後冗談だと言って青田先輩の肩を叩いたが、恵はその不穏な空気が気になったのだった。
「何か意味深だったけど、気にすることないよね?」

雪は、「健太先輩は青田先輩にいつも親切だから、冗談言っただけだと思うけど」と言って、恵を安心させた。
健太先輩には改めて恵のことを諦めてもらうよう言っておくと、雪は恵に謝りながら電話を切った。
携帯を睨むと、続けて携帯のアドレス帳を開く。
か、き、く、け、健太先輩までピピピとボタンを押す。
彼氏居るって言っても聞かない。忘れてるのかと思いきや、不意をついてくるし‥。

雪は呼び出し音を聞きながら覚悟を決めた。
こうなったら真っ向勝負だ。どうせあの人は今年で卒業なんだから、多少揉めたとしても関係ない。
健太先輩は電話に出た。だが電波が悪いのか、彼の声は切れ切れにしか聞こえない。
雪は息を吸い込むと一息で言った。
「もしもし赤山ですけど、話したいことがあって電話しました。恵の件なんですけど‥」

「赤‥ま‥俺今日朝方に‥帰って来て‥うぅ‥眠い‥きもちわる‥ぐっ‥」
雪はブチッと電話を切った。

直接言うしか無いかと溜息を吐くと、心がくさくさするのを感じた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<憂鬱な環境>でした。
お隣さんが歌っていたのはこの歌だそうです↓
故郷の思い (John Park)
ちょっと歌詞をパロディにして歌ってるようですよ。♪お隣さんは冷酷無情~♪は笑ってしまいました。
次回は<痕跡の残像>です。
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雪は歩道を歩きながら、この写メをどうしようか考えあぐねていた。
消す?いやでも自分の写真でもあるし‥。
ロックかけとく?いやロックかけてまで保存する価値があるのか?


雪は目を細めながら微妙に焦点をずらしてその写メを見た。
よく見たら私の顔だって悪くないかも‥。いや!やっぱりこれは世に稀な衝撃写真だ!

七変化よろしく、雪の表情はコロコロ変わった。
しかしここは曲がりなりにも公共の歩道。
周りを見渡すと、雪の不審行動に道行く人は皆振り返って彼女を見て行く‥。

雪は照れ笑いの後に、一目散で帰路に着いた。
家の前では、隣人が座り込んでタバコを吹かしていた。一人歌を歌いながら。

♪日~は暮れていくばかり~ 来るはずのない尋ね人を‥♪
隣人は雪に気がつくと、もう一度同じフレーズを口ずさんだ。
「♪月を見ながら待ちぼうけ‥?♪」

雪が続きを歌うと、隣人は凄い勢いで捲し立てる。
「ちょっと!誰が一緒に歌えって言ったのよ!空気読めっての!この姿見てなんとも思わないワケ?!」

雪が何か嫌なことでもあったのかと
隣人はここのところ恋人と上手く行っていないのだと言った。
今日も喧嘩をしたと言って、わんわんと泣く。

「うーん‥とにかく落ち着いて‥相手の方とじっくり話し合った方がいいかと‥」

生真面目な雪のアドバイスに、隣人はグチグチ言った。

いつも自分が折れてあげてるから、そんなことしても無駄なのと。
近頃は笑っただけでバカにしてるのかって怒られるんだと彼は淋しげに言った。
隣人は涙ぐみながら、またさっきの歌の続きを歌う。

♪ああ~君が居ないベンチでひと~り~ 今日も枕を濡らすぅ~♪
雪は自暴自棄になるほど人を好きになっている隣人を見て、少し不思議な感じがした。

そのまま家に入った雪に、隣人は♪お隣さんは冷酷無情~♪と歌ったのだった‥。
家で寛いでいると、小西恵から電話が掛かって来た。
恵は開口一番、さっき健太先輩と青田先輩に会ったと言った。
彼女が話した事の顛末はこうだ。
恵が雪に借りた本を返そうと経営学科の建物へ入ると、健太先輩とバッタリ遭遇。

健太先輩は恵にご飯へ行こうと誘ってきたが、恵は約束があると断った。

けれどそんなことおかまいなしといった態度の健太先輩。
恵が困っていると、そこに青田先輩が通りがかった。

青田先輩は、自分は”雪ちゃんの友達”だと言って、
恵の代わりに本を返しておくと言ってくれた。

おかげで変に思われずにその場を逃れることが出来た恵だったが、

健太先輩の不機嫌な顔が気になった。

「両手に花ってか?さすが秀才クンは違うね~」

健太先輩はその後冗談だと言って青田先輩の肩を叩いたが、恵はその不穏な空気が気になったのだった。
「何か意味深だったけど、気にすることないよね?」

雪は、「健太先輩は青田先輩にいつも親切だから、冗談言っただけだと思うけど」と言って、恵を安心させた。
健太先輩には改めて恵のことを諦めてもらうよう言っておくと、雪は恵に謝りながら電話を切った。
携帯を睨むと、続けて携帯のアドレス帳を開く。
か、き、く、け、健太先輩までピピピとボタンを押す。
彼氏居るって言っても聞かない。忘れてるのかと思いきや、不意をついてくるし‥。

雪は呼び出し音を聞きながら覚悟を決めた。
こうなったら真っ向勝負だ。どうせあの人は今年で卒業なんだから、多少揉めたとしても関係ない。
健太先輩は電話に出た。だが電波が悪いのか、彼の声は切れ切れにしか聞こえない。
雪は息を吸い込むと一息で言った。
「もしもし赤山ですけど、話したいことがあって電話しました。恵の件なんですけど‥」

「赤‥ま‥俺今日朝方に‥帰って来て‥うぅ‥眠い‥きもちわる‥ぐっ‥」
雪はブチッと電話を切った。

直接言うしか無いかと溜息を吐くと、心がくさくさするのを感じた‥。

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<憂鬱な環境>でした。
お隣さんが歌っていたのはこの歌だそうです↓
故郷の思い (John Park)
ちょっと歌詞をパロディにして歌ってるようですよ。♪お隣さんは冷酷無情~♪は笑ってしまいました。
次回は<痕跡の残像>です。
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