雪は教室に着いてからも、恵への健太先輩からのアタックを阻止する方法を考えていた。

険しい顔をしながら座っている雪。
そんな折、いきなり声を掛けられた。
「あれ?雪ちゃんもこの授業聞いてたんだね」「はい、先輩」

健太のことで頭がいっぱいだったので、雪は考える前に応答した。
その声の主が誰かということに気が回る前に。
ハッ!

思わず雪は自分の目を疑った。
なんと隣に、にこやかな青田先輩が座っているのだ。
「良かった。俺一人かと思ってたんだ。一緒に頑張ろうな!」

一難去ってまた一難‥。
ど‥どういうこと?!

目を剥く雪にはお構いなしに、先輩はにこやかにこの授業を取った経緯を話し始めた。
「俺、もう授業あんまり取らなくてもいいんだけど、
この授業は人も少ないし課題もそんなに難しそうじゃなかったから、受講してみたんだ」

「だから雪ちゃんもこれ取ったの?」「ソウデス。グウゼンデスネ」

先輩の質問にまだ頭の整理がついてない雪は、ロボットの如くそう答えた。
瞳は猛スピードで教室に居る学生を見回し、知った顔が居ないと分かるとほくそ笑む。
よし!授業終わったらソッコー家帰って、オンデマンド受講に切り替え‥

「今回オンデマンド廃止されたってね。もう殆ど閉鎖してるみたいだよ」

心の中を読まれたかのようなタイミングに、雪はぶふーっと吹き出した。
慌てふためく雪を見て、青田先輩は真剣な口調でこう言う。
「雪ちゃん、俺が居ると気まずい?」

雪は口元を押さえながら、その言葉の真意を探った。
本心で言ってる?じゃなきゃ、分かって聞いてるのか。

彼の、雪を気遣う表情は真剣に見える。

こんな表情をされては、私の方が悪者みたいじゃないかと思い、雪はイラついた。
答えようと口を開いた瞬間、教授から声を掛けられた。
「そこ!学生二人!」

授業が始まったのに、あまりにも二人向き合いすぎですよと教授はからかうような口調で言った。
そして淳に目を留めると、その印象を正直に述べる。
「あら?あなたひょっとして芸能人?ドラマか何かに出ていなかった?」

教授はそういった事情を抱えた学生が受講するなんて聞いていないけど‥と続けると、
青田淳はその爽やかな笑顔でこう答えた。
「いえ、ただの学生です」
「ほほほ‥実はそうだと知っていたけど、あまりにも素敵だから一度話しかけてみたかったのよ」

その教授の言葉に対し、青田淳はニッコリと微笑んで返答する。
「ありがとうございます。教授もお綺麗ですよ^^」「まっ!お世辞まで上手ね」

そのおべっかにまんざらでもない教授、にこやかな先輩、そして集まってくる皆の痛いほどの視線。
雪は勘弁してくれと、教科書で顔を隠すように丸まった。

周りからのヒソヒソ話が聞こえる。
え?なになに、芸能人? マジイケメンじゃん。 隣の女が彼女? まっさかぁ。
ただの知り合いだろ。女の方が言い寄ってるとかね。キャハハ
雪は苛立っていた。

ただ授業を聞きに来ただけなのに、どうして自分の悪口みたいなことを聞かされなければならないんだ。
これもそれも青田淳のせいだ。
青田め~~~~

怒り心頭の雪。
しかし不意に、顔を隠すように持っていた教科書が外された。

どうしてこうしてるの?と青田淳が外したのだ。
「なんか気にさせちゃったみたいだな。ごめんね」

先輩の言葉に、雪は溜息を吐きながらも、「先輩のせいじゃないですから」と答えた。
すると先輩は、雪の方を見ながら真摯な表情でこう言う。
「雪ちゃん。俺のこと先輩だからって気張らずに、気楽に接してな」

雪は、これが本心なのかそうでないのか、本当に判別出来なかった。
にこやかに笑う彼は、去年の彼とは明らかに違う。

新歓飲みの時、雪のことを汚らしいとまで言っていたじゃないか。
雪が書類を落とした時も、あれほどの冷淡さを見せたじゃないか。
同一人物じゃないみたいだ‥。

雪はあの疎ましく感じていた後ろ姿が、瞼の裏に映るのを見た。
しばし封じ込めたはずの去年の記憶の海を、揺蕩っているような感覚で。

目を覚ますと、ヨダレで教科書が顔に引っ付いていた。
辺りは席を立つ為に椅子を引く音や、学生たちの歓談の声でざわざわと騒がしかった。
「大丈夫?あまりにもよく寝てたから起こさなかったんだ」

まだ起き抜けで状況が理解出来ない雪に、
先輩は「今日はオリエンテーションだし大したことは言ってなかったよ」と言いながら、
取っておいてくれたプリントを手渡してくれた。
「あ、ヨダレまだついてるよ」

あまりの恥ずかしさにそそくさとこの場から去ろうとした雪だが、
先輩はどこか嬉しそうな口調で言った。
「知らなかったなー、雪ちゃんがこんなに面白い子だったとは」

行こっか、と彼は言った。
呆気に取られたような雪は、共に教室を出るしかなかった。

なんでこの人と一緒に帰ってるんだろう‥。
雪は何もかもが甚だ疑問だったが、とりあえずは正門まで彼と一緒に歩いた。
すると先輩は、夕飯を一緒にどうかと誘ってきた。
「いえ!お断りします!」

あまりにも早い返答、そしてちょっと先輩に対しては失礼なくらいきつい口調になってしまった。
ポカンとした表情で、青田淳が自分を見つめている‥。

雪は弁解するように、彼と夕飯を取れない理由をペラペラと喋り始めた。
「い‥家の掃除をしなきゃならないんです!荷物段ボールに入ったままで!
テレビ電話というものが発明されたお陰で大変なんですよ!先輩は掃除とかしないんですか?!」

キョトンとしている先輩。
雪はしどろもどろになりながら説明を続ける。
「‥えーとだから‥掃除をしないと母に怒られてしまう‥。
私の精神の健康と鼓膜の安全のために‥」

そこまで喋ると、先輩は豪快に笑った。
「プハハハハ!」

は‥?

予想外の反応に、思わず目を丸くする雪。
先輩は雪を見て微笑むと、こう優しく言ったのだった。
「分かったよ。それは早く帰らなきゃな」

固まった雪を見て、「本当に面白い子だな」と付け加えて。
雪は物凄い勢いで帰宅した。

隣人の浪人生が「ドア壊れちゃうじゃない!」と文句を言うのも気にならなかった。
~誰よりも早く個性的に~

くつ!ふく!かばん!パソコン!
雪はオンライン授業登録の画面を前に、頭を抱えた。
「しまったぁぁ!他の授業全部埋まってる!」

単位の都合からいって、もうあの授業を取るしか無い。
青田先輩とこれから一学期間、一緒の授業を‥。
うわあああああ!ムリムリムリムリ!

雪は家の中をゴロゴロと転がった。
その間ずっと隣人は、ガンガンと壁を叩いていた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<一緒の授業>でした♪
今回の話の中盤部分は、日本語版webtoonではカットされた部分です。なんでカットされたのかは謎ですが、
記事にしてみました。楽しんで頂けたら幸いです。
雪が家に帰ってからの「誰よりも早く個性的に」は、
最速ラップと呼ばれる韓国の歌手アウトサイダーのキャッチコピーだそうです。
Outsider - Hero (ft. LMNOP)
雪の素早い仕草、確かに個性的‥笑
次回は<恋心(1)>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

険しい顔をしながら座っている雪。
そんな折、いきなり声を掛けられた。
「あれ?雪ちゃんもこの授業聞いてたんだね」「はい、先輩」

健太のことで頭がいっぱいだったので、雪は考える前に応答した。
その声の主が誰かということに気が回る前に。
ハッ!

思わず雪は自分の目を疑った。
なんと隣に、にこやかな青田先輩が座っているのだ。
「良かった。俺一人かと思ってたんだ。一緒に頑張ろうな!」

一難去ってまた一難‥。
ど‥どういうこと?!

目を剥く雪にはお構いなしに、先輩はにこやかにこの授業を取った経緯を話し始めた。
「俺、もう授業あんまり取らなくてもいいんだけど、
この授業は人も少ないし課題もそんなに難しそうじゃなかったから、受講してみたんだ」

「だから雪ちゃんもこれ取ったの?」「ソウデス。グウゼンデスネ」

先輩の質問にまだ頭の整理がついてない雪は、ロボットの如くそう答えた。
瞳は猛スピードで教室に居る学生を見回し、知った顔が居ないと分かるとほくそ笑む。
よし!授業終わったらソッコー家帰って、オンデマンド受講に切り替え‥

「今回オンデマンド廃止されたってね。もう殆ど閉鎖してるみたいだよ」

心の中を読まれたかのようなタイミングに、雪はぶふーっと吹き出した。
慌てふためく雪を見て、青田先輩は真剣な口調でこう言う。
「雪ちゃん、俺が居ると気まずい?」

雪は口元を押さえながら、その言葉の真意を探った。
本心で言ってる?じゃなきゃ、分かって聞いてるのか。

彼の、雪を気遣う表情は真剣に見える。

こんな表情をされては、私の方が悪者みたいじゃないかと思い、雪はイラついた。
答えようと口を開いた瞬間、教授から声を掛けられた。
「そこ!学生二人!」

授業が始まったのに、あまりにも二人向き合いすぎですよと教授はからかうような口調で言った。
そして淳に目を留めると、その印象を正直に述べる。
「あら?あなたひょっとして芸能人?ドラマか何かに出ていなかった?」

教授はそういった事情を抱えた学生が受講するなんて聞いていないけど‥と続けると、
青田淳はその爽やかな笑顔でこう答えた。
「いえ、ただの学生です」
「ほほほ‥実はそうだと知っていたけど、あまりにも素敵だから一度話しかけてみたかったのよ」

その教授の言葉に対し、青田淳はニッコリと微笑んで返答する。
「ありがとうございます。教授もお綺麗ですよ^^」「まっ!お世辞まで上手ね」

そのおべっかにまんざらでもない教授、にこやかな先輩、そして集まってくる皆の痛いほどの視線。
雪は勘弁してくれと、教科書で顔を隠すように丸まった。

周りからのヒソヒソ話が聞こえる。
え?なになに、芸能人? マジイケメンじゃん。 隣の女が彼女? まっさかぁ。
ただの知り合いだろ。女の方が言い寄ってるとかね。キャハハ
雪は苛立っていた。

ただ授業を聞きに来ただけなのに、どうして自分の悪口みたいなことを聞かされなければならないんだ。
これもそれも青田淳のせいだ。
青田め~~~~


怒り心頭の雪。
しかし不意に、顔を隠すように持っていた教科書が外された。

どうしてこうしてるの?と青田淳が外したのだ。
「なんか気にさせちゃったみたいだな。ごめんね」

先輩の言葉に、雪は溜息を吐きながらも、「先輩のせいじゃないですから」と答えた。
すると先輩は、雪の方を見ながら真摯な表情でこう言う。
「雪ちゃん。俺のこと先輩だからって気張らずに、気楽に接してな」

雪は、これが本心なのかそうでないのか、本当に判別出来なかった。
にこやかに笑う彼は、去年の彼とは明らかに違う。

新歓飲みの時、雪のことを汚らしいとまで言っていたじゃないか。
雪が書類を落とした時も、あれほどの冷淡さを見せたじゃないか。
同一人物じゃないみたいだ‥。

雪はあの疎ましく感じていた後ろ姿が、瞼の裏に映るのを見た。
しばし封じ込めたはずの去年の記憶の海を、揺蕩っているような感覚で。

目を覚ますと、ヨダレで教科書が顔に引っ付いていた。
辺りは席を立つ為に椅子を引く音や、学生たちの歓談の声でざわざわと騒がしかった。
「大丈夫?あまりにもよく寝てたから起こさなかったんだ」

まだ起き抜けで状況が理解出来ない雪に、
先輩は「今日はオリエンテーションだし大したことは言ってなかったよ」と言いながら、
取っておいてくれたプリントを手渡してくれた。
「あ、ヨダレまだついてるよ」

あまりの恥ずかしさにそそくさとこの場から去ろうとした雪だが、
先輩はどこか嬉しそうな口調で言った。
「知らなかったなー、雪ちゃんがこんなに面白い子だったとは」

行こっか、と彼は言った。
呆気に取られたような雪は、共に教室を出るしかなかった。

なんでこの人と一緒に帰ってるんだろう‥。
雪は何もかもが甚だ疑問だったが、とりあえずは正門まで彼と一緒に歩いた。
すると先輩は、夕飯を一緒にどうかと誘ってきた。
「いえ!お断りします!」

あまりにも早い返答、そしてちょっと先輩に対しては失礼なくらいきつい口調になってしまった。
ポカンとした表情で、青田淳が自分を見つめている‥。

雪は弁解するように、彼と夕飯を取れない理由をペラペラと喋り始めた。
「い‥家の掃除をしなきゃならないんです!荷物段ボールに入ったままで!
テレビ電話というものが発明されたお陰で大変なんですよ!先輩は掃除とかしないんですか?!」

キョトンとしている先輩。
雪はしどろもどろになりながら説明を続ける。
「‥えーとだから‥掃除をしないと母に怒られてしまう‥。
私の精神の健康と鼓膜の安全のために‥」

そこまで喋ると、先輩は豪快に笑った。
「プハハハハ!」

は‥?

予想外の反応に、思わず目を丸くする雪。
先輩は雪を見て微笑むと、こう優しく言ったのだった。
「分かったよ。それは早く帰らなきゃな」

固まった雪を見て、「本当に面白い子だな」と付け加えて。
雪は物凄い勢いで帰宅した。

隣人の浪人生が「ドア壊れちゃうじゃない!」と文句を言うのも気にならなかった。
~誰よりも早く個性的に~

くつ!ふく!かばん!パソコン!
雪はオンライン授業登録の画面を前に、頭を抱えた。
「しまったぁぁ!他の授業全部埋まってる!」

単位の都合からいって、もうあの授業を取るしか無い。
青田先輩とこれから一学期間、一緒の授業を‥。
うわあああああ!ムリムリムリムリ!

雪は家の中をゴロゴロと転がった。
その間ずっと隣人は、ガンガンと壁を叩いていた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<一緒の授業>でした♪
今回の話の中盤部分は、日本語版webtoonではカットされた部分です。なんでカットされたのかは謎ですが、
記事にしてみました。楽しんで頂けたら幸いです。
雪が家に帰ってからの「誰よりも早く個性的に」は、
最速ラップと呼ばれる韓国の歌手アウトサイダーのキャッチコピーだそうです。
Outsider - Hero (ft. LMNOP)
雪の素早い仕草、確かに個性的‥笑
次回は<恋心(1)>です。
人気ブログランキングに参加しました
