雪は聡美と電話しながら、一人街を歩いていた。

週末を利用して、服や食べ物を取りに実家へ向かっているのだ。
商店街を歩いていると、ふとショーウインドウに並んだブーツが目に留まった。

まさに一目惚れ。雪はそのまま店に入ると、すぐさま試し履きした。
聡美は「もう夏なのになんでブーツなんか買うんだ」と言っているが‥。

店員さんはニコニコと、「もうそれ残り1つしかないんですよ~。セール品なのでお得ですよ」と言った。
しかし値段を聞くと八千円。
貧乏学生である雪にとって、それはとても高かった。
顔を見合わせた店員さんと雪の間に、電話越しの聡美の声が響く。
「あんたやめときなって!もったいない!」

「ブーツ‥」

結局、雪はブーツを諦めて実家へ向かった。
電車に揺られていても、バスに乗っていても、家に向かう道すがらも、ずっとブーツのことを考えて悲しくなる。
マンションの入り口で、久しぶりに会う管理人さんと挨拶をして、上に上がった。

久々に帰ってきた実家。そこには誰も居ない。

雪はその後、部屋の掃除をしたり読書をしたり、今日の夜久しぶりに会う友達とご飯の約束をしたりと、
のんびり過ごした。
♪僕が選んだあなたを信じてる~♪僕が選んだあの夜を~♪

好きな音楽を聞きながら、ソファでうたた寝をしていると、ぐぅとお腹が鳴った。
一人、混ぜご飯を作って食していると、不意に玄関のドアが開く。

雪が迎えに出ると、そこには父親が居た。
なぜ雪がここにいるのかと不思議そうにしている。
父親は雪の顔を見ること無く、着替えを始めた。
「たしか寮に入ったんだったよな。どうだ?そこは」

雪は下を向きながら、寮じゃなくて一人暮らしなんだけどな‥と小さく言った。

「そうだ!お昼ごはん食べた?混ぜご飯作ったんだけど一緒に‥」

父は雪の言葉を遮って、今から取引先との急な打ち合わせがあるからすぐに出て行くと言った。
雪は差し出した手を引っ込めると、そのまま父の身支度を手伝う。

父はジャケットを羽織りながら、学校にはちゃんと行ってるのかと聞いた。
もちろんだよと答える雪に、父親は何気なく言葉を掛ける。
「そうか。頑張って今学期も奨学金貰うんだぞ。
女の子が高いお金出してまで大学に通う必要なんて無いんだからな」

雪は何も言えなかった。
父親は雪と前後に並んで玄関に向かいながら、
奨学金さえ受けられれば、前みたいに休学してアルバイトする必要も無いだろうに、と溜息を吐いた。

雪は一昨年休学した理由はそれだけじゃないことを伝えようとしたが、父親の耳には届かない。
「この頃母さんの仕事も上手くいってないし、頭が痛いよ」

続けて父親は、弟の蓮についての気がかりを雪に吐露した。
留学費用もバカにならない、あいつは長男なのに大丈夫なのか‥。

そう言って頭を悩ませる父親の後ろ姿は、雪のことを話していた時とは違い、心から心配しているように見えた。
それでも雪が「心配ないよ」と笑顔を見せると、父親は雪の頭を撫でて言った。
「お前は父さんに似て賢いからな。自慢の娘だ。エリート大学の上に成績もトップ。
後は良いとこに就職して良いとこに嫁に行けば、父さんはもう何も言うことはないぞ」

蓮のこともよろしく頼む、と父親は言って靴を履いた。
雪が見送ろうとすると、ふいに鞄から財布を取り出した。
「久しぶりに顔を見たんだ。お小遣いでもやらないとな」

突然の出来事に雪は困惑し、断ろうとしたが父親は財布から紙幣を取り出す。
「もらえる時に貰っておきなさい。お前は本当に手のかからない子だ。
父さんはこんな性格だから上手くは言えないが、とても自慢に思っているよ」

雪はお小遣いを受け取った。
大切に使うねと、そのお金を胸に抱いて。
父親の出て行った後の家は、またしんと静まり返った。

雪は台所に戻ると、テーブルの上に置かれた食べかけの混ぜご飯の前に座る。


心の中も、色々な感情が混ざったような、不思議な思いがした。
その後、雪は混ぜご飯を食べながら、貰ったお金であのブーツを買おうと思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<その意義(1)>でした。
雪がソファに寝転びながら聞いていた歌はこれです↓
ユン・ジョンシン 「本能的に」(Feat. Swings)
「本能的に」という歌を聞きながら、本能的にお腹が鳴った雪でした(笑)
次回は<その意義(2)>です。
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週末を利用して、服や食べ物を取りに実家へ向かっているのだ。
商店街を歩いていると、ふとショーウインドウに並んだブーツが目に留まった。

まさに一目惚れ。雪はそのまま店に入ると、すぐさま試し履きした。
聡美は「もう夏なのになんでブーツなんか買うんだ」と言っているが‥。

店員さんはニコニコと、「もうそれ残り1つしかないんですよ~。セール品なのでお得ですよ」と言った。
しかし値段を聞くと八千円。
貧乏学生である雪にとって、それはとても高かった。
顔を見合わせた店員さんと雪の間に、電話越しの聡美の声が響く。
「あんたやめときなって!もったいない!」

「ブーツ‥」

結局、雪はブーツを諦めて実家へ向かった。
電車に揺られていても、バスに乗っていても、家に向かう道すがらも、ずっとブーツのことを考えて悲しくなる。
マンションの入り口で、久しぶりに会う管理人さんと挨拶をして、上に上がった。

久々に帰ってきた実家。そこには誰も居ない。

雪はその後、部屋の掃除をしたり読書をしたり、今日の夜久しぶりに会う友達とご飯の約束をしたりと、
のんびり過ごした。
♪僕が選んだあなたを信じてる~♪僕が選んだあの夜を~♪

好きな音楽を聞きながら、ソファでうたた寝をしていると、ぐぅとお腹が鳴った。
一人、混ぜご飯を作って食していると、不意に玄関のドアが開く。

雪が迎えに出ると、そこには父親が居た。
なぜ雪がここにいるのかと不思議そうにしている。
父親は雪の顔を見ること無く、着替えを始めた。
「たしか寮に入ったんだったよな。どうだ?そこは」

雪は下を向きながら、寮じゃなくて一人暮らしなんだけどな‥と小さく言った。

「そうだ!お昼ごはん食べた?混ぜご飯作ったんだけど一緒に‥」

父は雪の言葉を遮って、今から取引先との急な打ち合わせがあるからすぐに出て行くと言った。
雪は差し出した手を引っ込めると、そのまま父の身支度を手伝う。

父はジャケットを羽織りながら、学校にはちゃんと行ってるのかと聞いた。
もちろんだよと答える雪に、父親は何気なく言葉を掛ける。
「そうか。頑張って今学期も奨学金貰うんだぞ。
女の子が高いお金出してまで大学に通う必要なんて無いんだからな」

雪は何も言えなかった。
父親は雪と前後に並んで玄関に向かいながら、
奨学金さえ受けられれば、前みたいに休学してアルバイトする必要も無いだろうに、と溜息を吐いた。

雪は一昨年休学した理由はそれだけじゃないことを伝えようとしたが、父親の耳には届かない。
「この頃母さんの仕事も上手くいってないし、頭が痛いよ」

続けて父親は、弟の蓮についての気がかりを雪に吐露した。
留学費用もバカにならない、あいつは長男なのに大丈夫なのか‥。

そう言って頭を悩ませる父親の後ろ姿は、雪のことを話していた時とは違い、心から心配しているように見えた。
それでも雪が「心配ないよ」と笑顔を見せると、父親は雪の頭を撫でて言った。
「お前は父さんに似て賢いからな。自慢の娘だ。エリート大学の上に成績もトップ。
後は良いとこに就職して良いとこに嫁に行けば、父さんはもう何も言うことはないぞ」

蓮のこともよろしく頼む、と父親は言って靴を履いた。
雪が見送ろうとすると、ふいに鞄から財布を取り出した。
「久しぶりに顔を見たんだ。お小遣いでもやらないとな」

突然の出来事に雪は困惑し、断ろうとしたが父親は財布から紙幣を取り出す。
「もらえる時に貰っておきなさい。お前は本当に手のかからない子だ。
父さんはこんな性格だから上手くは言えないが、とても自慢に思っているよ」

雪はお小遣いを受け取った。
大切に使うねと、そのお金を胸に抱いて。
父親の出て行った後の家は、またしんと静まり返った。

雪は台所に戻ると、テーブルの上に置かれた食べかけの混ぜご飯の前に座る。


心の中も、色々な感情が混ざったような、不思議な思いがした。
その後、雪は混ぜご飯を食べながら、貰ったお金であのブーツを買おうと思った。
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<その意義(1)>でした。
雪がソファに寝転びながら聞いていた歌はこれです↓
ユン・ジョンシン 「本能的に」(Feat. Swings)
「本能的に」という歌を聞きながら、本能的にお腹が鳴った雪でした(笑)
次回は<その意義(2)>です。
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