その日雪は、目覚まし代わりの着メロが鳴ると同時に目を覚ました。

すぐに携帯をオフにすると、しんとした部屋は壁を叩かれることもなく、
気持ちの良い目覚めとなった。完璧!とガッツポーズも出る。

今日は朝からお米も炊けている。

ポロシャツにもアイロンがかかっている。

髪の毛‥は置いといて。

時間もピッタリ!

雪は大分一人暮らしにも慣れて来た。
実家から通っていた頃は通学に二時間かかっていた分、出来る事も制限されていたが、
今は何と言っても睡眠時間が増えたことが嬉しかった。
気分が良いと、構内を歩く足取りも軽くなる。

すると談話室の方で、健太先輩が女学生と話しているのが聞こえて来た。
相手は青田先輩にアタック中の、キノコ頭の後輩である。
「お前ら可哀想だな~一年以上も思い続けてるってのも健気だが、もうそろそろ諦めたらどうだ?」

続けて健太先輩は、とんでもないことを口にする。
「青田と赤山は、二人で仲良く勉強したりするんだぞ~?赤山はツイてるよなぁ。
なんてったって、青田を独り占めだからな!」

気分が良かったはずの雪の顔からは、みるみる血の気が引いていった。
続けて健太先輩は、二人は去年は口こそ聞かなかったが今ではラブラブだし、
お前たちには縁が無かったんだなとズバズバ言った。

雪は健太先輩に「もう先生来てましたけど、そろそろ授業行かれた方が‥」と声を掛けると、
彼はワハハと笑って去って行った。

残ったのは、ムスッと唇をとんがらせたキノコ頭の後輩‥。

雪はわざとらしく笑いながら、健太先輩の言うことはアテにならないことと、
青田先輩とは偶然会った成り行きで一緒に課題をやったことを説明しようとしたが、
キノコ頭は途中で雪の話を遮った。
「言い訳とか別にいいですよ。心配しなくても誰も信じてないんで」

雪は軽く苛ついたが、それはそれでまぁ良いか、と力なく笑った‥。
「あんた、青田先輩と一緒に授業聞いてるんだって?」

聡美が、青田先輩の後ろ姿を指差して言った。
先輩たちから聞いたというから、噂はもう学科中を回っているらしい。
雪は思わず頭を抱えたが、周りの学生たちには、
青田先輩自身が「赤山と偶然会ったついでに一緒に授業を聞くことになった」と説明しているらしく、
幸い変な風な噂にはなっていないみたいだった。
しかしなぜか聡美はニヤニヤと笑っている。

「いや~、あたしは正直まんざらでもないと‥」「やめて!!」

そう言ってほくそ笑む聡美に、雪は怒涛の勢いで抵抗する。
「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!」

普段冷静な雪が大変な剣幕なので、聡美はもう逆らわなかった‥。
すると同期の女子、そして直美さんが、青田先輩に宿題やってもらってるんだって?と声を掛けて来る。

あの子たちは今こそ笑っているが、裏ではボロクソに言っているに違いない。
聡美がそう言うと、雪もそれが嫌だから誰にも言ってなかったんだ言ってと肩を落とした。
「もっと胸を張れ!勝算もあるんだから!」
「いやだからね、あんた何か誤解してる‥」

「あーもう!やめて下さい!」
その時、一際大きな声が聞こえた。

雪たちが驚いて振り返ると、健太先輩と佐藤広隆が揉めているところだった。

喧嘩が日常茶飯事の二人だが、今日は尚の事大きな声で騒いでいる。
どうやら佐藤の持っているミュージックプレイヤーを貸す貸さないで揉めているようだった。
「貸しても返さないくせに!もうほとんど泥棒じゃないですか‥!」

あまりにもキツイ佐藤の言葉に、健太先輩がキレた。
「てめぇー!!」

あわや大惨事になるかと思われたその時、青田淳が割って入る。
「先輩、落ち着いて下さい!」

青田淳は「一旦冷静になりましょう」と言って二人の間に立った。
拳を握ったまま舌打ちをする健太先輩。
青田淳は佐藤に「言いすぎだ」と注意すると、彼は苛ついた視線を淳に送る。

周りを見回すと、あらゆる人々がこちらを見ていることに、佐藤は気がついた。

睨む健太先輩、呆れる柳、ドン引きの後輩達、野次馬の同期生‥。
「佐藤?」

そしてその中心に居るのは、何食わぬ顔で場をしきる優等生、青田淳。
佐藤は放っといてくれとそのまま踵を返した。

苛ついた健太先輩が喧嘩を止めた淳に対して不満を言ったが、
淳はにっこりとその場を治めた。
「そんなにピリピリしないで下さいよ。ね?」

「行きましょう」「お‥おう」

周りの学生たちはざわざわと、青田淳の鮮やかな場のまとめかたに感嘆した。

女学生たちは頬を染めながら青田淳を誉めそやす傍ら、
健太のことは借りた物を返さないと盗人扱いの発言まで聞こえる。

柳からはすぐカッとしすぎだとダメ出しされ、健太は苛立っていた。
チラリと隣を見ると、青田淳は涼やかな顔で澄ましている。

健太は何も言えなかった。
ふいに柳が淳に今何時かと聞いた。青田淳は左手につけたブルガリの時計を見て、時刻を答えた。

健太の目に映る高級時計。
いけすかない何かを感じて、彼は黙り込んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<日常の中の波乱>でした。
雪は朝はご飯派なんですね。しかも結構てんこ盛りですね!
キノコ頭の後輩は「金城美沙」という名前なんですが、もうこのままキノコ頭でいいかと思ってます‥。
次回は<始動>です。
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すぐに携帯をオフにすると、しんとした部屋は壁を叩かれることもなく、
気持ちの良い目覚めとなった。完璧!とガッツポーズも出る。

今日は朝からお米も炊けている。

ポロシャツにもアイロンがかかっている。

髪の毛‥は置いといて。

時間もピッタリ!

雪は大分一人暮らしにも慣れて来た。
実家から通っていた頃は通学に二時間かかっていた分、出来る事も制限されていたが、
今は何と言っても睡眠時間が増えたことが嬉しかった。
気分が良いと、構内を歩く足取りも軽くなる。

すると談話室の方で、健太先輩が女学生と話しているのが聞こえて来た。
相手は青田先輩にアタック中の、キノコ頭の後輩である。
「お前ら可哀想だな~一年以上も思い続けてるってのも健気だが、もうそろそろ諦めたらどうだ?」

続けて健太先輩は、とんでもないことを口にする。
「青田と赤山は、二人で仲良く勉強したりするんだぞ~?赤山はツイてるよなぁ。
なんてったって、青田を独り占めだからな!」

気分が良かったはずの雪の顔からは、みるみる血の気が引いていった。
続けて健太先輩は、二人は去年は口こそ聞かなかったが今ではラブラブだし、
お前たちには縁が無かったんだなとズバズバ言った。

雪は健太先輩に「もう先生来てましたけど、そろそろ授業行かれた方が‥」と声を掛けると、
彼はワハハと笑って去って行った。

残ったのは、ムスッと唇をとんがらせたキノコ頭の後輩‥。

雪はわざとらしく笑いながら、健太先輩の言うことはアテにならないことと、
青田先輩とは偶然会った成り行きで一緒に課題をやったことを説明しようとしたが、
キノコ頭は途中で雪の話を遮った。
「言い訳とか別にいいですよ。心配しなくても誰も信じてないんで」

雪は軽く苛ついたが、それはそれでまぁ良いか、と力なく笑った‥。
「あんた、青田先輩と一緒に授業聞いてるんだって?」

聡美が、青田先輩の後ろ姿を指差して言った。
先輩たちから聞いたというから、噂はもう学科中を回っているらしい。
雪は思わず頭を抱えたが、周りの学生たちには、
青田先輩自身が「赤山と偶然会ったついでに一緒に授業を聞くことになった」と説明しているらしく、
幸い変な風な噂にはなっていないみたいだった。
しかしなぜか聡美はニヤニヤと笑っている。

「いや~、あたしは正直まんざらでもないと‥」「やめて!!」

そう言ってほくそ笑む聡美に、雪は怒涛の勢いで抵抗する。
「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!」

普段冷静な雪が大変な剣幕なので、聡美はもう逆らわなかった‥。
すると同期の女子、そして直美さんが、青田先輩に宿題やってもらってるんだって?と声を掛けて来る。

あの子たちは今こそ笑っているが、裏ではボロクソに言っているに違いない。
聡美がそう言うと、雪もそれが嫌だから誰にも言ってなかったんだ言ってと肩を落とした。
「もっと胸を張れ!勝算もあるんだから!」
「いやだからね、あんた何か誤解してる‥」

「あーもう!やめて下さい!」
その時、一際大きな声が聞こえた。

雪たちが驚いて振り返ると、健太先輩と佐藤広隆が揉めているところだった。

喧嘩が日常茶飯事の二人だが、今日は尚の事大きな声で騒いでいる。
どうやら佐藤の持っているミュージックプレイヤーを貸す貸さないで揉めているようだった。
「貸しても返さないくせに!もうほとんど泥棒じゃないですか‥!」

あまりにもキツイ佐藤の言葉に、健太先輩がキレた。
「てめぇー!!」

あわや大惨事になるかと思われたその時、青田淳が割って入る。
「先輩、落ち着いて下さい!」

青田淳は「一旦冷静になりましょう」と言って二人の間に立った。
拳を握ったまま舌打ちをする健太先輩。
青田淳は佐藤に「言いすぎだ」と注意すると、彼は苛ついた視線を淳に送る。

周りを見回すと、あらゆる人々がこちらを見ていることに、佐藤は気がついた。

睨む健太先輩、呆れる柳、ドン引きの後輩達、野次馬の同期生‥。
「佐藤?」

そしてその中心に居るのは、何食わぬ顔で場をしきる優等生、青田淳。
佐藤は放っといてくれとそのまま踵を返した。

苛ついた健太先輩が喧嘩を止めた淳に対して不満を言ったが、
淳はにっこりとその場を治めた。
「そんなにピリピリしないで下さいよ。ね?」

「行きましょう」「お‥おう」

周りの学生たちはざわざわと、青田淳の鮮やかな場のまとめかたに感嘆した。

女学生たちは頬を染めながら青田淳を誉めそやす傍ら、
健太のことは借りた物を返さないと盗人扱いの発言まで聞こえる。

柳からはすぐカッとしすぎだとダメ出しされ、健太は苛立っていた。
チラリと隣を見ると、青田淳は涼やかな顔で澄ましている。

健太は何も言えなかった。
ふいに柳が淳に今何時かと聞いた。青田淳は左手につけたブルガリの時計を見て、時刻を答えた。

健太の目に映る高級時計。
いけすかない何かを感じて、彼は黙り込んだ。

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<日常の中の波乱>でした。
雪は朝はご飯派なんですね。しかも結構てんこ盛りですね!
キノコ頭の後輩は「金城美沙」という名前なんですが、もうこのままキノコ頭でいいかと思ってます‥。
次回は<始動>です。
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