「俺と亮は‥」
そう言って淳は、河村亮との関係性について話を始めた。
それは先日期せずして耳にすることになった彼女の本音、「二人は一体どういう関係なの」という疑問への、彼なりの答えだった。
閉ざされていた過去への扉が開く。
性格も違う、互いの好みも違うーそれでも俺たちは親しかった。
彼は父が尊敬していた教授の孫だったんだよ。
だから我が家にもよく遊びに来ていたし、幼い頃は兄弟のように過ごしたんだ。
だけどいつからか少しずつ、何かと衝突するようになった。
互いにあまりにもタイプが違ったし、仲の良い友人達も違った。
考え方も、行動も‥。
そこで亀裂が出来てしまった
ある時、俺と仲が良かった友人たちと派手に喧嘩になって、
亮はコンクール目前にして手を怪我してしまったんだ。
どんな理由で喧嘩になったのか..なぜそこまで大事になったのか、俺も詳しくは分からない。
あの時はなんていうか皆ピリピリしてとんがって‥そんな年齢だったんだよ。
そこで亮は、その原因を俺のせいだと考えた。
俺は関係ないと言っても、亮は信じなかった。
リハビリを望む周囲の人々の言葉に聞く耳も持たず、手負いの獣のように全員敵視して憎んで‥。
果てに突然消息を立ってしまった。
そして再び現れた時には、被害者意識は手のほどこしようもなく大きくなっていた。
誤解は解けないまま‥
淳は開けた過去への扉を、再び静かに閉めた。
「理解してやるのももう限界だよ、俺も。ただそれだけなんだ」
そして雪は俯いた彼を見ながら、その話を聞いた感想を心の中で思った。
亮と淳を前にした時の、自分が感じる率直な印象を。
河村氏が先輩に対する態度は、”誤解”というには、あまりにも先輩を嫌い過ぎているような気がした。
先輩も河村氏に”理解”とか‥そんな感情は感じられなかった。
ただ互いに嫌悪し合っていて‥
先ほど聞いた話以上の何かがあるような気がして、雪は依然として完全にスッキリはしなかった。
しかしこれ以上踏み込むには自分の立場からしたらおこがましい気がして、それ以上は言及しなかった。
そんな雪に、今度は先輩が質問した。
「それで横山の話っていうのは?」
雪は先日横山と塾の近くで偶然会って、言い争いをしたことをかいつまんで話した。
自分と口論になったことも、先輩のことを非難していたことも。
そして雪は恐る恐る、このことも口にした。
「その時‥河村氏に助けてもらったんです」
雪は彼の反応を図りかねていたが、先輩は予想外に、
「それは幸いだったね」とあっけらかんと言った。
雪が安堵の息を吐く。
しかし心配の種はつきない。横山は来学期から復学するとのことだったので、それが雪は単純に嫌なのだと自分の気持ちを口にした。
それに対して先輩は「もともと変わった奴だから、あまり心配しないように」と言って、この話は終わりになった。
重たかった心が、軽くなったのを雪は感じた。
微笑みを浮かべながら立ち上がる。
「じゃあ行きましょっか!」
いきなりの雪の提案に、先輩が目を丸くする。
雪は「今日は私のおごりです」と言って先輩を促した。
「行きたい展示会があるんです。夕飯も美味しいもの食べましょ!」
「本当?」と先輩も笑顔を浮かべる。
そんな彼に、雪はカバンから紙を取り出してニヤリと笑った。
「クーポンサイトを隈なくチェックして来ましたからね!お会計は心配なく!」
そう言ってクーポンを見せる雪は、すっかりいつもどおりの彼女だった。
先輩も思わず笑う。
行きましょ、と言って雪から彼の手を取った。
彼女の小さな掌から、温かな体温が伝わっていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<過去と未来と>でした。
少し短めですいません~~。
先輩の語る亮との過去‥何か隠されているような気がしてなりませんね。これからのお楽しみ、というところでしょうか。
そして皆様、あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願い致します!!
次回は<終わらない夏>です。
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そう言って淳は、河村亮との関係性について話を始めた。
それは先日期せずして耳にすることになった彼女の本音、「二人は一体どういう関係なの」という疑問への、彼なりの答えだった。
閉ざされていた過去への扉が開く。
性格も違う、互いの好みも違うーそれでも俺たちは親しかった。
彼は父が尊敬していた教授の孫だったんだよ。
だから我が家にもよく遊びに来ていたし、幼い頃は兄弟のように過ごしたんだ。
だけどいつからか少しずつ、何かと衝突するようになった。
互いにあまりにもタイプが違ったし、仲の良い友人達も違った。
考え方も、行動も‥。
そこで亀裂が出来てしまった
ある時、俺と仲が良かった友人たちと派手に喧嘩になって、
亮はコンクール目前にして手を怪我してしまったんだ。
どんな理由で喧嘩になったのか..なぜそこまで大事になったのか、俺も詳しくは分からない。
あの時はなんていうか皆ピリピリしてとんがって‥そんな年齢だったんだよ。
そこで亮は、その原因を俺のせいだと考えた。
俺は関係ないと言っても、亮は信じなかった。
リハビリを望む周囲の人々の言葉に聞く耳も持たず、手負いの獣のように全員敵視して憎んで‥。
果てに突然消息を立ってしまった。
そして再び現れた時には、被害者意識は手のほどこしようもなく大きくなっていた。
誤解は解けないまま‥
淳は開けた過去への扉を、再び静かに閉めた。
「理解してやるのももう限界だよ、俺も。ただそれだけなんだ」
そして雪は俯いた彼を見ながら、その話を聞いた感想を心の中で思った。
亮と淳を前にした時の、自分が感じる率直な印象を。
河村氏が先輩に対する態度は、”誤解”というには、あまりにも先輩を嫌い過ぎているような気がした。
先輩も河村氏に”理解”とか‥そんな感情は感じられなかった。
ただ互いに嫌悪し合っていて‥
先ほど聞いた話以上の何かがあるような気がして、雪は依然として完全にスッキリはしなかった。
しかしこれ以上踏み込むには自分の立場からしたらおこがましい気がして、それ以上は言及しなかった。
そんな雪に、今度は先輩が質問した。
「それで横山の話っていうのは?」
雪は先日横山と塾の近くで偶然会って、言い争いをしたことをかいつまんで話した。
自分と口論になったことも、先輩のことを非難していたことも。
そして雪は恐る恐る、このことも口にした。
「その時‥河村氏に助けてもらったんです」
雪は彼の反応を図りかねていたが、先輩は予想外に、
「それは幸いだったね」とあっけらかんと言った。
雪が安堵の息を吐く。
しかし心配の種はつきない。横山は来学期から復学するとのことだったので、それが雪は単純に嫌なのだと自分の気持ちを口にした。
それに対して先輩は「もともと変わった奴だから、あまり心配しないように」と言って、この話は終わりになった。
重たかった心が、軽くなったのを雪は感じた。
微笑みを浮かべながら立ち上がる。
「じゃあ行きましょっか!」
いきなりの雪の提案に、先輩が目を丸くする。
雪は「今日は私のおごりです」と言って先輩を促した。
「行きたい展示会があるんです。夕飯も美味しいもの食べましょ!」
「本当?」と先輩も笑顔を浮かべる。
そんな彼に、雪はカバンから紙を取り出してニヤリと笑った。
「クーポンサイトを隈なくチェックして来ましたからね!お会計は心配なく!」
そう言ってクーポンを見せる雪は、すっかりいつもどおりの彼女だった。
先輩も思わず笑う。
行きましょ、と言って雪から彼の手を取った。
彼女の小さな掌から、温かな体温が伝わっていく。
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<過去と未来と>でした。
少し短めですいません~~。
先輩の語る亮との過去‥何か隠されているような気がしてなりませんね。これからのお楽しみ、というところでしょうか。
そして皆様、あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願い致します!!
次回は<終わらない夏>です。
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