「さようなら‥」
”大家の孫”を名乗る男が去ってから、雪は嫌な気分でドアを閉めた。
振り返ると弟の蓮が髪の毛をいじりながら、姉に向かってこう言った。
「なーんか目つきが気持ち悪いってか、不気味な男だね」
どうやら蓮もそう感じたらしく、蓮の意見に雪も同意する。
人に対する感覚が敏感なのはどうやら血筋らしい。
暫し鏡を見ていた蓮だったが、不意に「あ、姉ちゃんちょっと交通費くれない?」と言った。
「あんたお金は?」と問う雪に、蓮は説明する。
「家から追い出された時にカードと財布置いてきちゃったんだよね。
当分の間は友達におごってもらったりするからさ、交通費だけちょーだいよ。プリペイドカード一枚買うから」
続けて蓮は、今日の帰りは夜中になるか帰ってこないかも、と言った。
「外泊するの?」と聞く雪に答える前に、蓮の携帯電話が鳴った。
気の置けない友人か、はたまた親しい先輩か‥。
蓮は軽い調子で会話する。
「ちわっすー!おう、俺帰国したんよ、マジマジ。後でクラブ?オッケオッケ。
え?あいつイベントやんの?モチ行くっしょー。じゃー後でな!姉ちゃんちょっと5千円ほど貸して!」
雪が財布を用意していると、また蓮の携帯電話が鳴った。
♪I've got the move like Jagger♪と馴染みの洋楽の着メロが響く。
雪は蓮の会話を聞きながら微妙な気分になった。
その会話といえば、女の子がいっぱい来るだの川へ行って泳ぐだの、およそ家を追い出された人間の行動とは思えない‥。
電話を切った蓮が、雪の方を見て口を開く。
「姉ちゃんも週末だし出るっしょ?どこ行くの?デート?」
整えた髪の毛、立てられた襟、右耳にはめられたピアス‥。
洗練された弟とは対照的に、雪はTシャツにひっつめ髪である。
「もっとオシャレしてけよな~。何だその服」 「ボランティアに行きますけん‥」
雪の答えに、蓮は呆れた顔をした。
「はぁ~?週末なのにボランティア~?相変わらずクソ真面目だねぇ」
弟の言葉に、雪はカチンと来た。
「ちょっとは息抜きに遊びに行かないと」と続けたのにも腹が立った。
「そういうあんたは遊んでる場合なの?」
そう強い口調で話し出し、姉として家出中の弟に説教した。
「家が心配で帰って来たとか言いながら、遊びの予定ばっか入れて!
家に行って許してもらおうとか考えないわけ?」
しかし蓮にも蓮の言い分がある。
「父さんがキレてんのにどーやって家へ帰れっての?それとも部屋でずっと引きこもってりゃいいってわけ?
それで解決するわけでもないし、それなら気分転換しに出た方がよっぽどいいだろ?」
赤山姉弟の言い合いは続き、雪は尚も弟を説得する。
「それでもお父さんはあんたに期待してるし、一生懸命なとこ見せとくべきだと思う。
お父さんとお母さんのお陰で留学にも行けてるのに、勝手に帰って来て好き勝手遊んでちゃ、あんまりだよ」
そう主張した雪に、蓮はウンザリといった体で口を開いた。
「一生懸命なとこ見せてどーなんの?どうせ結果出さなきゃ認めてもくれなくて大目玉食らわされるだけじゃんよ。
姉ちゃんも父さんのことよく分かってるっしょ?」
蓮は雪の机に積まれた英語塾の教材と、使い込まれたノートをチラと見て言った。
「あのね、机で本眺めてるだけが勉強じゃないぜ?ぜってー俺のが喋れるもん。実戦で磨かれたから」
得意気な弟に雪は声を荒げた。それは留学に行ってるんだから当たり前だ、と。
蓮はいきなり怒り出した姉に対して顔を顰め、こう言った。
「何だよ急にガミガミ言って。誰が行きたくて行くかよ、
父さんが行け行け言ったから行ったんだろ?」
雪は蓮の態度が気に障った。静かな怒りが心に燻る。
「‥行きたくても行けない人もいるんだよ。
きっかけはともかく、行ったからには一生懸命やるのが筋だと思うけど」
そんな姉の言葉を受けて、蓮はわだかまっていた心のしこりを口に出す。
「姉ちゃんは留学行って人種差別されたことあんの? 発音がショボイって嘲笑われたことあんの?」
「”一生懸命やれ”、”父さん母さんの期待に応えろ”、言うのは簡単だけど思い通りに行くと思ってんの?
そんなに留学がしたけりゃ姉ちゃんも行けば良かったじゃんか」
雪は弟の言葉に反論した。
「家の経済状況で子供二人留学させられると思ってんの?冗談も大概にしなさいよ!」
「はぁ?」
蓮は眉を寄せながら、ストレートに思ったことを口に出した。
「親に言えないからって、俺に八つ当たりすんのやめてくんない?」
姉ちゃんは俺に対していつもそうだ、と言って蓮はそっぽを向いた。
図星を突かれた雪は怒りを噛み締めながら、二の句を継げない自分を知る。
そして財布からあらん限りの紙幣を取り出すと、そのまま床に投げつけて声を荒げた。
「ちゃんと戸締まりして出てってよね!」
バン!と大きな音を立てて雪は家を出て行った。
その勢いに思わず蓮は身を竦める。
「‥ったく父さんの話になるといつもコレだよ。おっかね~」
苛立ち半分怖さ半分で蓮は溜息を吐いた。
赤山姉弟がいつも直面する問題の先には、常に父親の存在があった‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<赤山姉弟の悩み>でした。
チートラ一部ではお調子者の描写でしか出て来なかった弟ですが、今回初めて彼なりの悩みや性格がよく見て取れたのではないでしょうか。
出来る姉を持った弟なりの悩みがそりゃ‥あるよね~~。
しかしちょっとチャラそうなのが見てて面白いですね。そんな蓮の着メロはこちら↓
Maroon 5 - Moves Like Jagger ft. Christina Aguilera
また出てきましたマルーン5!作者さんがファンなのですって。
”チャラさ”がよく出た着メロですね~^^
さて次回は<難航するボランティア>です。
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”大家の孫”を名乗る男が去ってから、雪は嫌な気分でドアを閉めた。
振り返ると弟の蓮が髪の毛をいじりながら、姉に向かってこう言った。
「なーんか目つきが気持ち悪いってか、不気味な男だね」
どうやら蓮もそう感じたらしく、蓮の意見に雪も同意する。
人に対する感覚が敏感なのはどうやら血筋らしい。
暫し鏡を見ていた蓮だったが、不意に「あ、姉ちゃんちょっと交通費くれない?」と言った。
「あんたお金は?」と問う雪に、蓮は説明する。
「家から追い出された時にカードと財布置いてきちゃったんだよね。
当分の間は友達におごってもらったりするからさ、交通費だけちょーだいよ。プリペイドカード一枚買うから」
続けて蓮は、今日の帰りは夜中になるか帰ってこないかも、と言った。
「外泊するの?」と聞く雪に答える前に、蓮の携帯電話が鳴った。
気の置けない友人か、はたまた親しい先輩か‥。
蓮は軽い調子で会話する。
「ちわっすー!おう、俺帰国したんよ、マジマジ。後でクラブ?オッケオッケ。
え?あいつイベントやんの?モチ行くっしょー。じゃー後でな!姉ちゃんちょっと5千円ほど貸して!」
雪が財布を用意していると、また蓮の携帯電話が鳴った。
♪I've got the move like Jagger♪と馴染みの洋楽の着メロが響く。
雪は蓮の会話を聞きながら微妙な気分になった。
その会話といえば、女の子がいっぱい来るだの川へ行って泳ぐだの、およそ家を追い出された人間の行動とは思えない‥。
電話を切った蓮が、雪の方を見て口を開く。
「姉ちゃんも週末だし出るっしょ?どこ行くの?デート?」
整えた髪の毛、立てられた襟、右耳にはめられたピアス‥。
洗練された弟とは対照的に、雪はTシャツにひっつめ髪である。
「もっとオシャレしてけよな~。何だその服」 「ボランティアに行きますけん‥」
雪の答えに、蓮は呆れた顔をした。
「はぁ~?週末なのにボランティア~?相変わらずクソ真面目だねぇ」
弟の言葉に、雪はカチンと来た。
「ちょっとは息抜きに遊びに行かないと」と続けたのにも腹が立った。
「そういうあんたは遊んでる場合なの?」
そう強い口調で話し出し、姉として家出中の弟に説教した。
「家が心配で帰って来たとか言いながら、遊びの予定ばっか入れて!
家に行って許してもらおうとか考えないわけ?」
しかし蓮にも蓮の言い分がある。
「父さんがキレてんのにどーやって家へ帰れっての?それとも部屋でずっと引きこもってりゃいいってわけ?
それで解決するわけでもないし、それなら気分転換しに出た方がよっぽどいいだろ?」
赤山姉弟の言い合いは続き、雪は尚も弟を説得する。
「それでもお父さんはあんたに期待してるし、一生懸命なとこ見せとくべきだと思う。
お父さんとお母さんのお陰で留学にも行けてるのに、勝手に帰って来て好き勝手遊んでちゃ、あんまりだよ」
そう主張した雪に、蓮はウンザリといった体で口を開いた。
「一生懸命なとこ見せてどーなんの?どうせ結果出さなきゃ認めてもくれなくて大目玉食らわされるだけじゃんよ。
姉ちゃんも父さんのことよく分かってるっしょ?」
蓮は雪の机に積まれた英語塾の教材と、使い込まれたノートをチラと見て言った。
「あのね、机で本眺めてるだけが勉強じゃないぜ?ぜってー俺のが喋れるもん。実戦で磨かれたから」
得意気な弟に雪は声を荒げた。それは留学に行ってるんだから当たり前だ、と。
蓮はいきなり怒り出した姉に対して顔を顰め、こう言った。
「何だよ急にガミガミ言って。誰が行きたくて行くかよ、
父さんが行け行け言ったから行ったんだろ?」
雪は蓮の態度が気に障った。静かな怒りが心に燻る。
「‥行きたくても行けない人もいるんだよ。
きっかけはともかく、行ったからには一生懸命やるのが筋だと思うけど」
そんな姉の言葉を受けて、蓮はわだかまっていた心のしこりを口に出す。
「姉ちゃんは留学行って人種差別されたことあんの? 発音がショボイって嘲笑われたことあんの?」
「”一生懸命やれ”、”父さん母さんの期待に応えろ”、言うのは簡単だけど思い通りに行くと思ってんの?
そんなに留学がしたけりゃ姉ちゃんも行けば良かったじゃんか」
雪は弟の言葉に反論した。
「家の経済状況で子供二人留学させられると思ってんの?冗談も大概にしなさいよ!」
「はぁ?」
蓮は眉を寄せながら、ストレートに思ったことを口に出した。
「親に言えないからって、俺に八つ当たりすんのやめてくんない?」
姉ちゃんは俺に対していつもそうだ、と言って蓮はそっぽを向いた。
図星を突かれた雪は怒りを噛み締めながら、二の句を継げない自分を知る。
そして財布からあらん限りの紙幣を取り出すと、そのまま床に投げつけて声を荒げた。
「ちゃんと戸締まりして出てってよね!」
バン!と大きな音を立てて雪は家を出て行った。
その勢いに思わず蓮は身を竦める。
「‥ったく父さんの話になるといつもコレだよ。おっかね~」
苛立ち半分怖さ半分で蓮は溜息を吐いた。
赤山姉弟がいつも直面する問題の先には、常に父親の存在があった‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<赤山姉弟の悩み>でした。
チートラ一部ではお調子者の描写でしか出て来なかった弟ですが、今回初めて彼なりの悩みや性格がよく見て取れたのではないでしょうか。
出来る姉を持った弟なりの悩みがそりゃ‥あるよね~~。
しかしちょっとチャラそうなのが見てて面白いですね。そんな蓮の着メロはこちら↓
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また出てきましたマルーン5!作者さんがファンなのですって。
”チャラさ”がよく出た着メロですね~^^
さて次回は<難航するボランティア>です。
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