Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

加害者

2014-01-29 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)
夏の終わりの空に浮かぶ、丸い満月が薄雲に隠れた。

全ての物事を白くぼかすように、その光は徐々に霞がかかっていく。



その静かな路地で起こっている出来事は、”正しいこと”だとはとてもじゃないが言えなかった。

しかし正当性など構わぬくらいの、仄暗く激しい感情が淳を突き動かしていた。



淳の左手が、渾身の力で細かく震えている。

その先にある男の頭を、筋の浮かんだその手は掴んでいた。



男の口から痛みにあえぐ声が漏れる。

淳はそんな男の後頭部に視線を注ぎながら、しばらくその姿勢で力を入れ続けた。



淳の丸い瞳も、薄雲がかかったように光が消えていく。

激しい感情に突き動かされるまま、掴んでいる男の後頭部を地面に叩きつけた。

「うあっ!」



男は頭を押さえたまま、地面をのたうち回った。痛みに喘ぐその声が、路地裏に響き渡る。

淳は男の後頭部を押さえた自分の左手を、まるで汚物を見るような目つきで眺めていた。神経質な顔つきで眉をひそめる。



そして左手を自分のズボンで拭きながら男に声を掛けた。淳がここに現れた理由を話し始める。

「やっぱり‥あの日雪が見間違えたわけじゃ無かったんだ」



淳はあの日のことを言っていた。夏休みが始まった頃のことだ。

雪を家まで送り届けた時、路地裏を振り返った彼女が急に叫び声を上げたことがあった‥。

「過剰なくらい敏感になっていたから、まさかとは思ったけどね‥」



路地裏に人間の手が見えた、と雪が言ったので淳はそこを覗きこんだのだ。

そこに人間の姿は見えなかったが、目を凝らしてみると地面に男の足あとが残っていた‥。



神経過敏な彼女を心配させないように、淳はその時は何も言わなかった。

その代わり出来る限り彼女を家まで送り届け、そしてこの近辺からの早めの退去を勧めた。



あの足跡を見て以来、淳はどこかこの男の存在を常に感じていた‥。





「クソッ‥!」



淳がそれきり黙って男を見下ろしているので、男は痛む頭と顔面も構わず起き上がった。

すると淳は左脚で、男の腹に一発入れる。



ボグッ、と鈍い音が響き、男は暫し腹を抱えて蹲ったが、

痛みが和らぐと再び淳に向って行った。

「この野郎‥!」



再び鈍い音と衝撃が男の腹に放たれた。

淳は息も乱さず、男に向かって口を開く。

「理解出来ない。何でこんな奴が社会に出てのうのうと暮らしてるのか」



淳はそう言いながら何度も男を蹴った。

腹を、顔を、その身体を。



蹴られる度、男は地面を転がりながら薄汚れていった。

その路地裏はゴミが置かれた雑然とした空間で、見る間に男はぶち撒けられたゴミにまみれていく。



男が息を切らしながら淳を見上げると、彼は無表情で男を見下ろしていた。

逆光で暗いはずなのに、淳の瞳に燃えた炎がそれを浮き上がらせる。



淳は地面に仰向けに倒れた男を見て、一言口にした。

その眼は汚物を見るようだった。



「お似合いだよ、ゴミ溜めが」



次々と投げつけられる侮蔑に、とうとう男が切れて淳に殴りかかった。

右で拳を固め、絶叫しながら全力で向かって来る。



しかし淳はその拳を掌で掴むように受け止めた。グッとそれを握りながら、男の耳元に警告する。

「無駄な足掻きはよせ」



そしてそのまま膝を固め、男の腹めがけて突き上げた。

みぞおち辺りに一発入った男は、腹を抱えて悶絶する。

「ああ‥あああああ!」



小刻みに震える男に、淳は「痛いか?」と声を掛けた。

「さっきお前が雪にしたことだろう」



淳の中の報復の理論がそこにあった。自分が受けた分だけ相手に返す。

彼にとって雪は、自分と並ぶ唯一の存在だった。

「クッ‥クックックックック‥」



男は淳の言葉を聞き、その意味を理解すると不気味な声で嗤い始めた。そんな男を淳は無表情で眺めている。

「クク‥あんたがこんなことするの、あの女の子は嫌がるんじゃないの?」



男がそう口にすると、淳は目を見開いた。男は気違いじみた目つきで言葉を続ける。

「あんたは狂ってる。あの子もきっと気づいてるよ」



男が再び嗤い声を上げる前に、淳は表情を変えぬまま頷いた。

「ああ」



そして淳は、それが当然のことであるかのようにサラリと言った。

自分の中にある彼女と、自分の影が重なっていることを。

「雪は全部知ってるよ。あの子は俺と同類だから」










同じ闇に残されていると気付いたあの日から、淳は彼女と同族だと思っていた。


彼の中にある一本の線の、こちら側かあちら側か。


それが彼の全てだった。



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<加害者>でした。

なんというか‥こうして記事を書いてみると、淳の世界観ってマルかバツかの世界なんだなと思いました。

自分と同じか、違うか。正しいか、正しくないか、というような。

記事は前回のタイトルが<被害者>、今回のタイトルが<加害者>となっていますが、

これは暴行を加える淳が<加害者>にも成り得るというところを表現したくてこうしました。

ただ彼はそんな意識は微塵もない。

今回の事件は雪が被害者、ならば雪と同族の淳も被害者、だから自分が加害者には成り得ない。

きっとこんな理論が彼の中にあるんじゃないかな、と。。

しっかし先輩強いですね。マントルにめり込みそう‥。


次回は<呪い>です。

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