カシャッ、カシャッ、と現場検証にてフラッシュが焚かれる。
到着した警察と部屋に上がって雪達が目にしたものは、無残にも荒らされた酷い室内だった。

思っていたよりも滅茶苦茶にやられている。
雪、聡美、蓮の三人は、その雑然とした室内を見てショックを受けた。

泥棒被害にあった雪の部屋を、刑事は忙しく調べ回っていた。何枚も写真を撮る。
ノートPCは隣の部屋にあったと刑事は言った。しかし封筒に入ったお金は見つからなかった。
「あの男‥捕まったらぶちコロス‥
」

蓮はグチャグチャになった室内を呆然と眺めながらポツリと呟いた。
この破壊された荷物を一からまとめて掃除して‥考えただけでも気が遠くなる。
隣で蓮の呟きを聞いていた刑事は顔を顰め、先ほど雪から聞いた淳の行動を咎めた。
「一般市民の方が犯人を捕まえに行ったということですよね?
すぐに呼び戻して下さい、二次被害の危険がありますから。ったく無謀な‥」

刑事からそう言われた蓮は雪の方に向き直り、
自分は淳の連絡先を知らないから姉ちゃん電話して、と声を掛けた。

雪は頷き、ポケットから携帯を取り出そうとしたのだが、不意に手首に痛みが走った。思わず目を閉じる。
騒ぎの中で後回しにされていたが、雪は傷だらけだった。手首に無数の擦り傷が痛々しい。

そして刑事は雪の足についても言及した。
じっくりと見てみると、足首がパンパンに腫れている。ヒビが入っているのかもしれなかった。

先輩刑事が後輩刑事に、雪を病院へ連れて行くよう促した。
後輩刑事は頷き、雪と聡美は外へ出る準備をする。

しかしまだ室内は現場検証が必要なため、蓮はここに残ると言った。
痛そうに足を引きずる姉を見て、蓮の心が鈍く疼く‥。

「あの野郎ぉぉ!」

同じ頃、犯人を探して亮は走り回っていた。
砂をかけられた目も回復し、その瞳は怒りに燃えている。
「どこにいやがんでぇ?!見つけたらブッコロス
!!」

誰も居ない細い道に、亮の雄叫びが響き渡った。
亮が黙り込むと、道もしんと静まり返る。

亮は路地の真ん中に佇みながら、周りをキョロキョロと見回してみた。
誰もいない、物音もない。亮は苛立っていた。
畜生‥警察が来てからじゃおせーし‥

目に砂をかけられたのは勿論、亮は人道的にあの男が許せなかった。
雪があんな目に合わされたのも黙っていられなかった。警察が来る前に捕まえてギッタギタにしてやると、
亮は憎しみに燃えていた。
すると路地の先を、誰かが走って行く音が聞こえる。

振り返ると男の半身を捉えることが出来た。
亮は全力で男を追い、手を伸ばして思い切りそのシャツの後ろ襟首を掴んだ。
「そこかぁ!!!」

グイッと引っ張ってみると、それは予想外の人物であった。
「うわあああああ?!」

その叫びにつられて、思わず亮も同じような声を上げる。
「うおおおおおお?!」

「テメー何なんだよ一体?!」 「それはこっちのセリフっすよ!」
同じく男を追いかけていた太一と亮は、顔を見合わせて二人して慌てた。
彼らの騒々しい声が、閑静な町に響き渡る‥。


ひっそりと静まり返った路地裏に、男は膝を抱えた姿勢のまま身を潜めていた。
その静かな息づかいですら漏れぬよう、マスクの中で息を殺す。

男は暫くの間外を窺っていたが、そこはしんと静まり返ったままだった。
警察はおろか、通行人ですら一人も通らなかった。

男は息を吐きながら立ち上がると、先ほど亮に殴られた頬を擦りながら独りごちる。
「ふぅ‥あの女と弟が遅く帰ってきたせいで台無しだ‥」

男は、本来ならば汚れの根源であるあの女子大生‥雪と、ゲイ疑惑のあるその弟も、
あの無残に壊された段ボールのように打ちのめすつもりだった‥。
男はマスクを外し、ポケットからキャップを出して被った。紫のパーカーもその場で脱ぎ捨てる。
「とにかくもうこことはおさらばだ」

男はそのまま細い路地を出て大通りに向かおうとしたが、ふと思いついて踵を返した。
「あ、これは取っておかなくちゃ」

雪の家にあった、現金の入った白い封筒だった。
忌々しいものを思い出すように、男は舌打ちをして呟いた。
「乞食みたいな女。非常用の金これっぽっちかよ‥」

男はその封筒に気を取られ、背後に忍び寄る影に完全に気が付かなかった。
音もなくそこに立つ影は恐ろしいほど静かな声で、その後方から声を掛けた。
「やっぱりここだったか」

男が振り返るより早く、淳は男の頭を掴んで壁に押し付けた。
頭蓋骨が壁に衝突する鈍い音だけが、その静かな路地に響いて、消えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<被害者>でした。
亮と太一が面白い‥。あのW「うわあああ」はまるでコントですね(^^;)
そしてお化け先輩の本領発揮!今まで気配もなく忍び寄るのが不評だった先輩ですが、
今回は役に立ちましたね!←好き勝手言い過ぎ‥。
さー先輩の報復の始まりです。
次回は<加害者>です。
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到着した警察と部屋に上がって雪達が目にしたものは、無残にも荒らされた酷い室内だった。

思っていたよりも滅茶苦茶にやられている。
雪、聡美、蓮の三人は、その雑然とした室内を見てショックを受けた。

泥棒被害にあった雪の部屋を、刑事は忙しく調べ回っていた。何枚も写真を撮る。
ノートPCは隣の部屋にあったと刑事は言った。しかし封筒に入ったお金は見つからなかった。
「あの男‥捕まったらぶちコロス‥


蓮はグチャグチャになった室内を呆然と眺めながらポツリと呟いた。
この破壊された荷物を一からまとめて掃除して‥考えただけでも気が遠くなる。
隣で蓮の呟きを聞いていた刑事は顔を顰め、先ほど雪から聞いた淳の行動を咎めた。
「一般市民の方が犯人を捕まえに行ったということですよね?
すぐに呼び戻して下さい、二次被害の危険がありますから。ったく無謀な‥」

刑事からそう言われた蓮は雪の方に向き直り、
自分は淳の連絡先を知らないから姉ちゃん電話して、と声を掛けた。

雪は頷き、ポケットから携帯を取り出そうとしたのだが、不意に手首に痛みが走った。思わず目を閉じる。
騒ぎの中で後回しにされていたが、雪は傷だらけだった。手首に無数の擦り傷が痛々しい。

そして刑事は雪の足についても言及した。
じっくりと見てみると、足首がパンパンに腫れている。ヒビが入っているのかもしれなかった。

先輩刑事が後輩刑事に、雪を病院へ連れて行くよう促した。
後輩刑事は頷き、雪と聡美は外へ出る準備をする。

しかしまだ室内は現場検証が必要なため、蓮はここに残ると言った。
痛そうに足を引きずる姉を見て、蓮の心が鈍く疼く‥。


「あの野郎ぉぉ!」

同じ頃、犯人を探して亮は走り回っていた。
砂をかけられた目も回復し、その瞳は怒りに燃えている。
「どこにいやがんでぇ?!見つけたらブッコロス



誰も居ない細い道に、亮の雄叫びが響き渡った。
亮が黙り込むと、道もしんと静まり返る。

亮は路地の真ん中に佇みながら、周りをキョロキョロと見回してみた。
誰もいない、物音もない。亮は苛立っていた。
畜生‥警察が来てからじゃおせーし‥

目に砂をかけられたのは勿論、亮は人道的にあの男が許せなかった。
雪があんな目に合わされたのも黙っていられなかった。警察が来る前に捕まえてギッタギタにしてやると、
亮は憎しみに燃えていた。
すると路地の先を、誰かが走って行く音が聞こえる。

振り返ると男の半身を捉えることが出来た。
亮は全力で男を追い、手を伸ばして思い切りそのシャツの後ろ襟首を掴んだ。
「そこかぁ!!!」

グイッと引っ張ってみると、それは予想外の人物であった。
「うわあああああ?!」

その叫びにつられて、思わず亮も同じような声を上げる。
「うおおおおおお?!」

「テメー何なんだよ一体?!」 「それはこっちのセリフっすよ!」
同じく男を追いかけていた太一と亮は、顔を見合わせて二人して慌てた。
彼らの騒々しい声が、閑静な町に響き渡る‥。


ひっそりと静まり返った路地裏に、男は膝を抱えた姿勢のまま身を潜めていた。
その静かな息づかいですら漏れぬよう、マスクの中で息を殺す。

男は暫くの間外を窺っていたが、そこはしんと静まり返ったままだった。
警察はおろか、通行人ですら一人も通らなかった。

男は息を吐きながら立ち上がると、先ほど亮に殴られた頬を擦りながら独りごちる。
「ふぅ‥あの女と弟が遅く帰ってきたせいで台無しだ‥」

男は、本来ならば汚れの根源であるあの女子大生‥雪と、ゲイ疑惑のあるその弟も、
あの無残に壊された段ボールのように打ちのめすつもりだった‥。
男はマスクを外し、ポケットからキャップを出して被った。紫のパーカーもその場で脱ぎ捨てる。
「とにかくもうこことはおさらばだ」

男はそのまま細い路地を出て大通りに向かおうとしたが、ふと思いついて踵を返した。
「あ、これは取っておかなくちゃ」

雪の家にあった、現金の入った白い封筒だった。
忌々しいものを思い出すように、男は舌打ちをして呟いた。
「乞食みたいな女。非常用の金これっぽっちかよ‥」

男はその封筒に気を取られ、背後に忍び寄る影に完全に気が付かなかった。
音もなくそこに立つ影は恐ろしいほど静かな声で、その後方から声を掛けた。
「やっぱりここだったか」

男が振り返るより早く、淳は男の頭を掴んで壁に押し付けた。
頭蓋骨が壁に衝突する鈍い音だけが、その静かな路地に響いて、消えた。

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<被害者>でした。
亮と太一が面白い‥。あのW「うわあああ」はまるでコントですね(^^;)
そしてお化け先輩の本領発揮!今まで気配もなく忍び寄るのが不評だった先輩ですが、
今回は役に立ちましたね!←好き勝手言い過ぎ‥。
さー先輩の報復の始まりです。
次回は<加害者>です。
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