日曜午後のことだった。
未だ行ったことのない、とある場所に行ってみようと、
私とゴンザは電車に乗り.....上野へ向かった。
ここへ行きたかったの。
TVで見た、その美しい場所は、
駅からは少し離れており。
まあ、それでも駅前の表示を見れば絶対にたどりつけそうに有名な場所なので、
我々は地図も持たず、ざっくりと覚えただけの住所を頼りに、歩きだしたのだった。
上野駅から池之端方面へひょいっと入ると、
「あら、こんなものが」
ここ、鴎外荘は森鴎外の旧居跡だそう。
館内には、ちゃんと、その旧居が残ってたり、文学碑も二つあるとのこと。
ちなみにホテル玄関には石碑と、『鴎外温泉』の看板があったが......
温泉と鴎外の関係については不明(笑)
.....と。
おそらく一本曲がる道を間違えたのだろう。
お目当ての場所は、見えてこない。
「たぶん間違えたね.....少し戻って、曲がってみようか」
しばらくして、互いにそう言い出したとき。
ゴンザが、ふと何かに目を留め。
「ねえねえerimaちゃん、これすごく綺麗じゃない?」
そう何かを指差した。
「ホントだ、きれい.....♪」
見れば、小さな骨董店のショウウィンドウに、
なるほど、美しい花瓶が見える。
と。
そこにはちらりと値札が見えて、
しかしそれは品物に対し、あまりに安価に思えたので、
二人は、その値段は、花瓶が乗せられている、ボロい台のものなのではと、
ひそひそ話し合う。
そして、和風のものから洋風のものまで、
または、とても価値のありそうなものからそうでなさそうなものまでが並べられた、
小さなその店に入ろうか、入るまいか......
しばし悩む。
ちなみに周辺には、古い建物がいっぱい。
こちら、昭和4年建築の建物は、かつて忍旅館として営業したもので、
当時は珍しい洋館として見学者が絶えず、
『花園町(現・池之端)の白さぎ城』と親しまれたとか。
現在は個人宅だが、東京都選定建築物の小さな看板もある。
当時は建売りなんかはないだろうから、当然、
なにからなにまで注文して作ってもらうのだろうが、
この外国製と思われる郵便受けも、きちんとそれが、
はじめからここにおさまるように、設計されていたのだなぁ。
.......が。
こういったときは、私が答えを出すまでもなく。
ゴンザが扉を開け、老店主に声をかける。
.......と。
金髪の外国人女性と共に何かに見入り、
夢中な様子の店主は最初、我々に気づかず、
また、接客の邪魔をしては悪いと思った我々も、
再び声をかけて良いものか迷い、一旦外へ出る。
小ぢんまり、でも、なにからなにまで美しい。
「帰りにまた寄ってみようか」
「.......でも、帰りにもここをまた通るかな?」
ゴンザは再び店に入り、主にこう訊ねる。
「ここに貼ってある値札は、花瓶のものですか?」
と。
店主は今度はそうだと答え、
「手にとってゆっくりご覧になって下さい」と、そう言った。
古い洋館があると思えば、こんな古い和風な窓も。
またまた凝った作り。
見れば見るほど美しいそれは、
しかし自分で手にとって見るには、壊れてしまいそうに怖く、
ためらっていると、「私がとりましょう」と、店主が持たせてくれる。
そして.......いろいろ迷った挙句、二人はそれを買うことに決めたが。
その際にも店主は、水が漏れないか試してくれたり、
いろいろと親切に対応してくれる。
そして、こんな昭和風路地も......
私が小さなころは、そこらじゅうこんな感じだったな。
「これはどこのものですか?やっぱり中国?」
「う~ん、よくわからないんだけど、たぶんそうだと思うんだよねぇ」
と、そこに、先ほど店主と会話していた外国人女性が加わり、
「中国に住んでいたことがあるけど、私もそう思う」.....と。
共通した見解は、よく出来たお土産用の工芸品と言ったところか。
二人と店主と外国人女性の、思わぬ出会いは会話を生む。
おそらく、機械彫りの土産用工芸品だろうが、
それにしてもけっこういい出来だと思う。
何より細工より、花瓶自体の色とラインが美しい。
そして、
女性が帰ってゆき、私とゴンザと店主。
三人となったのちも会話は続く。
なんでも店主は、以前は美術品の修復の仕事をしていたこと。
手がけた仕事の写真を手に、教えてくれた貴重な話。
バブル期の、美術品の受難や、
父から自分に、自分から子に、受け継がれた仕事のこと......。
品物を受け取り、丁寧に礼を言って店を出たのちも、
二人の楽しさは止まらない。
ちなみに、こんな建物もありました。
これ、すんごい薄っぺらいのがわかるかな?
風が吹いたらドリフみたいに倒れそう(笑
「なんかちょっと感動して泣きそうになっちゃった」
「俺も」
ずいぶん長くそこにいたので、
当初の目的地では、時間が十分とれなそうでも......
そんなの全然構わない。
モノと人との不思議な出会いは、それこそ縁に違いないから。
都電・池之端駅跡
......もしも迷子にならなかったら、二人はこの出会いを逃していた。
「もう、このまま迷子でもいいね」
楽しくてうれしくて仕方のない我々は、
この出会いと思い出をきれいに半分こしようと、
花瓶代を割り勘にすることに決め、
再び歩き出したのだった。
それがどんな価値を持つのかは、自分で決める。
安かろうと高かろうと、二人にとっては宝物。
ちなみに帰ってからいろいろ調べたところ、これは中国のもので間違いなさそう。
(どうも、『名のある』作家の作品を模倣して作られたような.....)
で、素材となってる石のことにも興味が出てきて、わくわくしながら調べていたら。
ゴンザが「もう、それだけでもすごいお買い得な買い物だったね♪」と。
なるほど、美しいものが手に入るのもうれしいけれど、
そこから興味が広がり、知ることを楽しめるのは、もっとうれしい。
それをヤイヤイ二人で分け合うことも。