電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

高橋義夫『湯けむり浄土~花輪大八湯守り日記』を読む

2011年11月23日 06時04分17秒 | 読書
先に『若草姫』という作品をおもしろく読み(*1)、これが高橋義夫さんの「花輪大八湯守り日記」というシリーズの第二巻であることを知りました。そこで、シリーズ第一作『湯けむり浄土』という作品を読みたくなり、書店で文庫本を探しましたが見つからず、残念に思っておりましたら、偶然というのはあるものです。妻が小学校の読み聞かせボランティアをするということで、大型絵本を借りに出かけた某公立図書館で、お目当ての本を見つけてしまいました。高橋義夫著『湯けむり浄土~花輪大八湯守り日記』です。

かつて在郷の代官をつとめた六十石の花輪家の、部屋住みの次男坊である花輪大八は、「火花の大八」と異名をとるほどの暴れ者でしたが、曲がったことがきらいで真っ直ぐな性格のようです。剣の同門中に黒川武平という巨漢がおり、家格が上であることをいいことに、ことあるごとに大八とぶつかります。黒川が、大八の友人を捕らえて指の骨と肋骨を折るという痛めつけ方をしたものですから、許せないと真剣勝負をするに至ります。大八は、兜割りという戦国時代の古武術で渡り合い、双方が負傷します。この事件が尾を引き、大八は家長となった兄の命令で土蔵に閉じ込められ、謹慎の日々を送ります。一方、黒川武平のほうは一命をとりとめ、剣術修行の名目で領外追放となります。喧嘩両成敗の原則により、大八も出羽国新庄藩から離れ、名だたる豪雪地帯である肘折温泉の湯守りとして赴くことになりますが、先任の湯守りは任期途中で金を誤魔化して逃げたらしく、弟をその後任に据えるために、兄がだいぶ出費をしたようなのでした。物見高い村人は、今度の湯守りがどんな人か興味津々です。

湯守りの仕事というのは、要するに湯治客の入湯銭と酒代の監督係で、老練な勘兵衛や草相撲あがりで体格の良い次郎吉などが実務を行いますので、湯傘の修理などの問題が解決したら、あとはデンと構えていれば良いらしい。大八は、酒と村の娘のおせいをあてがわれそうになりますが、「俺は下戸だ、娘も連れて帰れ」と硬派で直球一直線、娘心の機微などわかるはずもありません(^o^)/
自分が嫌われたとおせいは泣くし、真っ直ぐな気性をお捨は気に入ったらしいです。さらに加えて、悪徳目明しの合海の伝兵衛が強請りに来ればこれを追い返すし、宿屋での乱暴狼藉は許さないし、村人はそんな大八が気に入ったようなのです。

肘折の温泉場に、ある日、病持ちの男と少年が住み着きます。実は敵討ちの旅を続け、肘折銀山に目指す敵がいることを知って、これを待ち受けようと、小屋に滞留しているのでした。大八は、健気な少年が気に入り、二人の世話をします。少年の利発さに、泉庵医師も弟子にしたいと言い出します。相撲の紅葉山のエピソードは、ユーモアとペーソスとが入りまじり、終い湯では村の娘たちが混浴し、大八に唄をうたって良い喉を聞かせる。このあたりの情景も、清々しく色っぽい。敵も死病持ちで、討つ方も余命わずかという経緯に、火花の大八も無常を感じるのか、ずいぶん神妙になります。

ただし、因縁の黒川武平からの果し状が届いたからには、命のやりとりの覚悟を決めて、雪深い冬の最中に次年子村の一本杉の下で勝負をします。せっかくですので結末は伏せますが、雪崩をうまく生かしたあたりは、豪雪地帯を舞台に選んだ作家のうまさでしょう。湯守りの入れ札を前に、来年も大八が湯守りとなるように、村人が嘆願書を出してくれたり、無口で恥ずかしがり屋のおせいから寝ずの看病を受けたり、「すっとび天狗」という新たな異名をもらった花輪大八には、まことに「湯けむり浄土」です。



なるほど、このシリーズ第一作を読んで、先に読んだ第二作『若草姫』の場面設定がよく理解できました。それにしても、作者の高橋義夫さんは、もしかすると男子校出身なのではなかろうか。男同士の意地の張り合い、けんか争闘かけひきの場面は実にうまいのですが、娘心の内奥に立ち入った描写や、大人の女性との実のある会話が少ないところなど、作家の青春時代を、男ばかりの汗くささの中に、つい想像してしまいます(^o^)/

(*1):高橋義夫『若草姫~花輪大八湯守り日記』を読む~「電網郊外散歩道」2011年10月

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