北野進の活動日記

志賀原発の廃炉に向けた取り組みや珠洲の情報、ときにはうちの庭の様子も紹介。

あなたはどっち?

2017-09-05 | 奥能登国際芸術祭


奥能登国際芸術祭は3日目。
作品会場を回っていると、「お~これはすごい!」とか「なるほど、これはおもしろい」と言った声をときどき聞く。
その一方で無言でながめて、数十秒で会場を後にする人もいる。

私も「なるほど、これはすごいなぁ!」と感じる作品もないわけではないが、「なるほど」の部分、実はほとんどわかっていない。
作品の解説を読み、あるいは聞いて、ようやく「なるほど」と少々納得することもあるが、聞いても価値がよくわからない作品も多い。

貧乏性と言えばいいのか、4億円もかけて開催した芸術祭の作品、しかも作品制作費に2億4千万円もかけているんだから「おもしろい!」とか「すごい!」とかの感嘆詞のレベルでとどまってはいけない。
もっと作品に秘められた高尚な作者の狙いを感じ取らねば、なんて考えて作品を食い入るように眺めても価値観の転換、発想の転換を実感したような感想は出てこない。

もしかしたら私と似たような人がいるかな、いてほしいなと思いながら、北アルプス国際芸術祭の視察報告の中でちょこっと触れた大野左紀子さん著の「アート・ヒステリー」を少し紹介したい。



芸術祭開催が決まって、アート関係の本を何冊か読んだが、この本はまさに「なるほど納得!納得!」と共感できることが随所に。
なにより第1章は「アートはわからなくて当たり前」で始まる。

近代以降のアートは社会や共同体に認めらえた価値体系=文化に対して異物だった。
それまで見ていた世界を違う角度から見せてくれるような発想、企み、仕掛けがあり、それを表現するにふさわしい技法と技術レベルでもって最大限に効果的に表現された作品に注目が集まる。
ようするに凡人、常識人にはすぐに理解できるはずがない。

そういう教科書的な解説だけでなく、現在のアートワールドをストレートに解説。
極々一部のセンスエリートやニューリッチが「これいいね」と言った作品を、彼らの取り巻きのアートファンが「なるほどいいね」といい、その周りの人が「これが今キテるらしいからメモメモ」、そのまた周りは「なんか盛り上がってるな」、そして一番外側の人は「なにそれ?」となる。
外側に行けば行くほど人数は多く、中心で何がどう判断されてるかわからず「今、このアーティストがすごい」という末端情報しかない。
こういう構造を聞けば、実際はわかったふりしてる人が大半という構造が見えてきて、なんとなくホッとする。

ところで大野さんは「わからない人」はまず作品のタイトルを見るという。
で、作品に目を戻し、わかったふりしてうんうんとうなづく。
ときどき「無題」というタイトルがあり、わからない人に意地悪をする。

次にわからない人が頼りにするのが解説だけど、ここで大きく対応が分かれていくとのこと。

解説を丁寧に読んでいる「教養主義の人」からほとんど読まない「直観主義の人」までいろいろ。
「直観主義の人」は「絵を鑑賞するのに知識など必要ない、絵は心でみるものだ」という信念を持っている人で、おそらく美術館の解説はなんだかお仕着せっぽく、権威主義的でつまらないと思っている。
一方、「教養主義の人」はやはりしっかりお勉強したい人で、「せっかく入場料を払っているんだから、そこにある情報は隈なく吸収して帰りたいと思うもの」と分類。

私はやっぱり後者。
理屈抜きでとにかく「おもしろい!」と思ったのは「木梨ワールド」と暁斎あたりか。
理屈抜きでとにかく「すごい!」と思ったのは「アートアクアリウム」や先日の池田学展か。
それでもやっぱり解説を読んで納得!納得!である。

さて、あなたはどっち?


コメントを投稿