生命哲学/生物哲学/生活哲学ブログ

《生命/生物、生活》を、システム的かつ体系的に、分析し総合し統合する。射程域:哲学、美術音楽詩、政治経済社会、秘教

政治経済的危機1

2011年04月23日 21時25分17秒 | 生命生物生活哲学
2011年4月23日-1
政治経済的危機1


 金銭またはマネーについてMario Bunge氏はどう言っているだろうかと、『Political Philosophy』の索引でmoneyを見ると、
  money, the power of
というのが211頁にあると。そこで、下記に、関連する二つの段落を訳してみた。

  「金銭は力とそれに付随する自由を買うことができる。というのは、お金持ちに、助言と追従〔おべっか〕を含めた、品物〔商品〕または役務を得る力を与えるからである。また、金銭は、自信過剰感または優越感の引き金となる。これは今度は、社会的活動を、否定的な流儀へと現実化する。実際、最近の実験(Vohs, Mead, and Goode 2006)は、金銭は、個人が無報酬の手伝いを頼むことだけでなく、私欲なく助け〔手伝い help〕を申し出ることも減らすので、個人を共同体から分離する、と示唆している。要するに、社会的に望ましいどころか、過剰な金銭は、社会を溶かす力があり[socially dissolvent]、したがって民主主義的参加に対して、意欲をそぐものである。新保守主義者たち〔ネオコン〕が、そんなにも自由に熱中すること、そしてそんなにも民主主義〔民主政体〕に疑念を向けるのも、不思議ではない。彼らは、自由を買う手段を持つが、自由を切望し経済的手段よりもむしろ政治的手段によって自由が得られると信じる人々からは脅かされていると感じるのである。新保守主義者たちの天国は植民地風の香港であり、地獄は社会民主主義的なスウェーデンである。
 経済的自由主義者(新自由主義者〔ネオ・リベラル〕)は、自由市場においてすべての参加者は平等である、そこでは市場は個々の自由を保証するから、と主張する(Friedman 1962)。しかしこれは、作りごとである。なぜなら、所有者と経営者は雇ったり首にしたりするのが相対的に自由であるが、賃金を稼ぐ者は技能から離れられないか[are stuck with their skills]、技能を欠いているかであり、労働組合が弱い場合は交渉力はほとんど無いからである。そのうえ、束縛のない市場は、合併と不誠実な競争を通じて、寡占あるいは独占へとさえ向かう。資本(または経済力)が集中すればするほど、労働条件を契約する個人の自由は弱くなる。
 経済的自由主義者はまた、自由市場のもとでは、雇用者と被雇用者の関係は対称的だと主張する。すなわち、仕事が好きでない人々は、辞めて他の仕事に着くことが自由だと、主張する。しかし、この仮定は、高い失業状態のときには、非現実的である。なぜなら、欠員がほとんど無いからであり、多くの人々は空席を満たすのを厭わないからである。要するに、自由市場は個人を守らず、反対に、脅かすかもしれない。強い労働組合だけが、個々の労働者を守るために、経済力を制限することができる。これが、なぜ、労働勢力[the work force]の大部分が労働組合に組織され、左翼思想の諸党が政府を形成するに足る力を持つところでは、いわゆる福祉国家が最も強いかの理由である。」(Bunge 2006: 211, paragraphs 3 and 4)[試訳 20110423]。

 
 なお、この本の第5章 Contention and Negotiationの第6節は、「経済力 Economic Power」 [pp. 209-214]となっており、最初の段落は、

  「経済力[economic power]とは、私的商業の所有者または経営者が、人々の態度、価値、趣味、習慣、そして投票に対する影響を持つ能力[ability]である。それは、とりわけ、人々を肉体的あるいは心的〔精神的〕に有害な仕事をさせ、物と人々が本当は必要としない役務を買わせ、そして法的または政治的審議を買い、特権を好むイデオロギー〔思想傾向〕を擁護する組織体に資金を提供し、また、大きな商売の利益を保護する法律制定を採用するように議員に働きかけ、進歩的な法律制定を妨害する。」(Bunge 2008: 209-210)[試訳20110423]。

である。

 
[B]
Bunge, M. 2008. Political Philosophy: Fact, Fiction, and Vision. x+439pp. Transaction Publishers.

[F]
Friedman, Milton. 1962. Capitalism and Freedom. Chicago, IL: University of Chicago Press.

[V]
Vohs, Kathleen D., Nicole L. Mead, and Miranda R. Goode. 2006. The psychological consequences of money. Science 314: 1154-1156.