「ずぶずぶの素人 その壱」より
山pから拝借した槍が岳登山の写真を見ながら、ワンコの写真のデジタル化などもしていると、啓蟄の今日にふさわしい1枚を見つけた。
家人は、ワンコが庭でトカゲを追い回しているのを見る度 「やはり犬なんだね」と少し寂しそうな厭そうな顔をしたものだが、私はワンコのなかに本能が息づいていることが嬉しかった。
ワンコが庭のパトロールをしなくなり半年たった頃、我が物顔で庭に出没するようになったトカゲを見た トカゲ嫌いの家人は、「ワンコが我が家を守っていてくれていたんだね」と、しみじみと振り返っていたのだが、さて虫たちが蠢き始める今日 啓蟄の日、
日増しに寒さが緩んでいるから、そろそろ約束の里帰りの時期だよ ワンコ
春といえば、動き始めるのはリアル虫だけではなく、恋の虫も蠢き始める時期だな などと思いながらワンコ写真と槍登山写真を見ていると、槍登山から帰宅する途中で遭遇した’’黒衣の女性’’の記憶が甦ってきた。
槍ケ岳からの帰途 電車で座っていると、前の座席に、真っ黒なドレスを身にまとった美人さんが座席についた。
喪服かと思うほど黒ずくめだが、よく見ると綺麗なレースが施されていたりスパンコールが散りばめられていたりと、かなり凝ったドレスであったのだが、それを確認するまでもなく、足元に置かれた高級ホテルの大きな紙袋が、披露宴の帰りだということを物語っていた。
その黒衣の女性はハッとするほど美しかったが、眉間に皺をよせ不愉快そうな表情を隠しもしない。
’’これは、リアル「阪急電車」(有川浩)か’’と、思わずマジマジト観察してしまったが、それが気に食わなかったのか、こちら側をにらんでくる。
気まずくなった私は、狸寝入りを決め込んだのだが、そっと目を開けると、まだまだ私をにらんでいる。
私はというと、下山後、徳沢ロッヂで一泊し、しっかりお風呂にも入ってきたが、ロッヂからバスセンターまで7㎞は歩いているし、なによりザックは汗臭い・・・消え入るばかりの心地ぞする、と身を窄めようとする私を、一層強く睨んでくる。
堪らなくなった私は、いよいよ席を立とうとした、その時、女性がにわかに手を伸ばしつつ、「ナイロン袋をお持ちではないですか」と問いかけてきた。
鬼気迫る表情に圧倒されながらも、ザックのポケットから素早くナイロン袋を取り出し手渡すと、女性は一気に吐瀉した。
何度も吐瀉し、ナイロン袋が一杯になった頃、少し落ち着いた様子になった女性に、少し大きめのスーパーの袋を手渡した。
女性は吐瀉物で一杯になったナイロン袋を、スーパーの袋に入れ、袋を閉じ結んだ。
口元も手も汚れている女性を見かねて、又またザックからウエットティッシュを一包み取り出し、女性に手渡した。
手と口元をウェットティッシュで拭い、かなり柔らかな表情になった女性に、更に大きなスーパーの袋を渡すと、すべてのゴミをそこに入れ、きっちり袋の口を結び、女性はようやっと落ち着いた。
そこで思いがけず拍手が起こった。
側で見ていた男子高校生達が、私のザックに向かって拍手しているのだ。
その拍手のなか何度も「ありがとうございました」と頭を下げながら下車する女性の声にまじり、高校生の声も聞こえてきた。
「まるでエマージェンシー・バッグだな」 と。
あれ以来、山から帰ると一旦すべてを洗いメンテナンスをした後に、また三泊はできる用具を詰め直しておく。
地震などの災害の備え、もちろん登山靴もベッドの下の取り出しやすいところに置いてある。
あの黒衣の女性は今頃、どうしているだろうか。
ザックになら、ナイロン袋など諸々あるだろうと思い睨みつけていた、あの女性。
どこかの山で、出会うことはないだろうか などとフト思ったりしている。
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次回こそは、「夏雷」(大倉崇裕)で描かれる槍登山の訓練を念頭に自分の槍登山を振り返ってみようと思っている。
山pから拝借した槍が岳登山の写真を見ながら、ワンコの写真のデジタル化などもしていると、啓蟄の今日にふさわしい1枚を見つけた。
家人は、ワンコが庭でトカゲを追い回しているのを見る度 「やはり犬なんだね」と少し寂しそうな厭そうな顔をしたものだが、私はワンコのなかに本能が息づいていることが嬉しかった。
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日増しに寒さが緩んでいるから、そろそろ約束の里帰りの時期だよ ワンコ
春といえば、動き始めるのはリアル虫だけではなく、恋の虫も蠢き始める時期だな などと思いながらワンコ写真と槍登山写真を見ていると、槍登山から帰宅する途中で遭遇した’’黒衣の女性’’の記憶が甦ってきた。
槍ケ岳からの帰途 電車で座っていると、前の座席に、真っ黒なドレスを身にまとった美人さんが座席についた。
喪服かと思うほど黒ずくめだが、よく見ると綺麗なレースが施されていたりスパンコールが散りばめられていたりと、かなり凝ったドレスであったのだが、それを確認するまでもなく、足元に置かれた高級ホテルの大きな紙袋が、披露宴の帰りだということを物語っていた。
その黒衣の女性はハッとするほど美しかったが、眉間に皺をよせ不愉快そうな表情を隠しもしない。
’’これは、リアル「阪急電車」(有川浩)か’’と、思わずマジマジト観察してしまったが、それが気に食わなかったのか、こちら側をにらんでくる。
気まずくなった私は、狸寝入りを決め込んだのだが、そっと目を開けると、まだまだ私をにらんでいる。
私はというと、下山後、徳沢ロッヂで一泊し、しっかりお風呂にも入ってきたが、ロッヂからバスセンターまで7㎞は歩いているし、なによりザックは汗臭い・・・消え入るばかりの心地ぞする、と身を窄めようとする私を、一層強く睨んでくる。
堪らなくなった私は、いよいよ席を立とうとした、その時、女性がにわかに手を伸ばしつつ、「ナイロン袋をお持ちではないですか」と問いかけてきた。
鬼気迫る表情に圧倒されながらも、ザックのポケットから素早くナイロン袋を取り出し手渡すと、女性は一気に吐瀉した。
何度も吐瀉し、ナイロン袋が一杯になった頃、少し落ち着いた様子になった女性に、少し大きめのスーパーの袋を手渡した。
女性は吐瀉物で一杯になったナイロン袋を、スーパーの袋に入れ、袋を閉じ結んだ。
口元も手も汚れている女性を見かねて、又またザックからウエットティッシュを一包み取り出し、女性に手渡した。
手と口元をウェットティッシュで拭い、かなり柔らかな表情になった女性に、更に大きなスーパーの袋を渡すと、すべてのゴミをそこに入れ、きっちり袋の口を結び、女性はようやっと落ち着いた。
そこで思いがけず拍手が起こった。
側で見ていた男子高校生達が、私のザックに向かって拍手しているのだ。
その拍手のなか何度も「ありがとうございました」と頭を下げながら下車する女性の声にまじり、高校生の声も聞こえてきた。
「まるでエマージェンシー・バッグだな」 と。
あれ以来、山から帰ると一旦すべてを洗いメンテナンスをした後に、また三泊はできる用具を詰め直しておく。
地震などの災害の備え、もちろん登山靴もベッドの下の取り出しやすいところに置いてある。
あの黒衣の女性は今頃、どうしているだろうか。
ザックになら、ナイロン袋など諸々あるだろうと思い睨みつけていた、あの女性。
どこかの山で、出会うことはないだろうか などとフト思ったりしている。
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次回こそは、「夏雷」(大倉崇裕)で描かれる槍登山の訓練を念頭に自分の槍登山を振り返ってみようと思っている。