翻訳:千葉茂樹
原作&挿画:パトシリア・ポラッコ
パトシリア・ポラッコは1944年、ミシガン州ランシング生まれ。現在、同州ユニオンシティー在住。
カリフォルニア美術工芸大学卒。この絵本ではご自身の家族の歴史を書いていらっしゃるようだ。
この物語は、文字が読める奴隷黒人少年ピンクスと、文字が読めない貧農の白人少年シェルダンとの物語。
シェルダンには作者ポラッコ自身が投影されているようです。
南北戦争の時代に、それぞれの土地から北軍に徴用された少年2人が、部隊からはぐれた者同士として出会う。
「アンクル・トムの小屋」や「ルーツ」などに共通するテーマです。
足を怪我して歩けなくなったシェルダンを、ピンクスが助け、ピンクスの母の家に連れていく。
匿っていることが発覚すれば、母親共々どのような惨事が待っているか?
子供たちを地下に隠し、母親は銃殺される。
その後部隊に戻る途中で2人は南軍の捕虜となる。引き離されようとした2人の手はぎりぎりまで離されることはなかった。
シェルダンの手は、かの「リンカーン」と握手した手であったからなのだ。
黒人ピンクスは即刻しばり首になる。遺体は石灰の採掘跡に放りこまれた。
数か月後に、アンダーソンヴィル捕虜収容所を開放されたシェルダンは体重35キロだった。南北戦争は終わった。
この戦争は「黒人奴隷解放」を目的とした戦争だったのではないか?
そして生き残ったシェルダンは結婚し、沢山の子供に恵まれ、孫や曾孫にまで、これを語りつぐ。
それはさらに語りつがれ、それを受け取り、このような絵本にしたのが「パトシリア・ポラッコ」だった。
ここで友人からのメールの1部をご紹介します。
パトシリア・ポラッコの絵の才能を見出し、導き、障害(失読症)をも支えた美術教師が、
ポラッコに贈ったことば。中国の古いことわざです。
Yesterday is history. Tomorrow, a mystery. Today...a gift.
そして、先生はこういいます。
That's why it is called "the present"
* * *
しかし、エイブラハム・リンカーンとはどのような人間だったのか?
「黒人奴隷解放」には熱心ではあったが、アメリカ先住民への敵意はなんだったのか?
この大きな矛盾に苦しむのは読者だけではあるまい。リンカーン自身、自らの矛盾に翻弄された生涯ではなかったのか?
さらに映画「ダンス・ウィズ・ウルブズ 」を思い出す。
監督&主演「ケビン・コスナー」。南北戦争に嫌気がさした北軍の「ジョン・ダンバー中尉」が求めた任地は、スー族インディアンが住む、すぐ近くの掘立小屋だった。
しかしこの世界で中尉は人間性や信頼、愛、友情、約束を知ることになる。
これは、思い返せば「リンカーン」への批判とも思えてくる。
無駄話ですみませぬ。「ケビン・コスナー」の長年のファンですので、あしからず。
(2001年・あすなろ書房刊)