翻訳:泉典子
ロレンツォ・リカルツィ(Lorenzo Licalzi)は、1956年北イタリアのジェノヴァに生まれる。
心理学者。老人ホーム設立&運営の経験あり。
著書には「ぼくは違う」「ぼくにはわからない」「グルの特権」がある。
初めに記しておきます。
主人公「トンマーゾ・ペレツ」という名前は、カミユの「異邦人」に由来する。
「異邦人」の主人公「ムルソー」の母親が老人ホームで亡くなる。
その母親の恋人といわれた老人の名前が「トマ・ペレーズ」です。
この物語の舞台は老人ホームである。
もと物理学者のトンマーゾ・ペレツと、信仰心の深い老夫人エレナとの恋物語です。
トンマーゾ・ペレツは左半身マヒのため、移動には車椅子が必要な身であった。
初めての外出(デート)は、トンマーゾ・ペレツのかつての職場である天文台での星々の鑑賞であった。
(ここがタイトルに繋がる。)
この出来事によって、頑固者のトンマーゾ・ペレツの気質は溶け出したが、その翌日にはエレナは他界する。
深い悲しみをくぐり抜けて、エレナの深い思いやりと愛を知った彼は、
あれほど拒否していた理学療法に積極的に向き合い、半身マヒの不自由な肉体に新しい風を送りこむ。
さらに学者としての自分も呼びかえす。
そして、2人の友人と共に、ホームを出て、3人の共同生活の計画もたてる。
しかし、その計画が実行に移されないままに、彼は他界する。
「80歳になったら結婚しましょう」と女性詩人に語りかける、今は亡き詩人の作品を思い出す。
それを読んだ時のわたくしはいささか若かった。
が、しかし、人間は生涯の最後と思われるひとときに
人生のなかで最も自由に夢を叶えられるかもしれない時間が、そこに託されているかもしれないのだと、
それ以来思い続けてきました。
この本を読んで、その思いこみは間違っていなかったと思っている。
けれどもここまで書けば、タイトル通りに美しい恋物語である。
再度言おう。この物語の舞台は老人ホームである。
脇役は様々な事情を抱えている老人ばかりであり、
さらに、多忙と仕事の困難さのために、老人の尊厳を忘れた介護人たちである。
誰でも知っているはずの世界……老人を1個の面倒な物体として扱うホームである。
トンマーゾ・ペレツが「クソッタレ!」と罵った世界である。
かつて我が父母を決して預けたくないと思っていた世界である。
そこに奇跡のようにうまれた物語であることを知っておこう。
この物語を書き残すことに力を尽した人物は理学療法士のステファノだった。
(これも物語……?)
《追記》
この本を読むきっかけは「ZOUX311号」でした。
(2006年初版・河出書房新社刊)
負い目ー異邦人
があります。著者の菊池譲は、牧師ですが、自ら山谷に飛び込んで、日雇いの労働をしながら、山谷に伝道所を建てた人ですが、自らを異邦人と評価しています。
クリスマスの贈り物の本ですが、結局は上から目線でしか生きられない、自分自身を恥じたりしています。
カミユの「異邦人」は「人間の不条理」が底流になっているように思えます。