ユングは、心の深いレベルのことに通じています。そんなことは皆さんもご存知でしたね。しかし、これは、統合失調症と見まがうばかりの幻覚や幻聴に襲われた時期を経て、その深みを知ったといっていいと思います。ユングは、その経験を「夜の航海」と呼んでいます。
そんなユングですが、教育について述べている文章があります。ユング著作集の第十七巻(The collected Works of C.G.Jung, Vol.17)にその文書が収められています。これを読んでますとね、エリクソンのライフサイクル理論は、ユングに影響を受けているのじゃないのかしら? と思うほどです。英語版ですとね、ユングの方が、エリクソンよりも identityという言葉を先に使っている感じですからね。あるいは、エリクソンが発達危機の中の課題や徳目としている言葉も、ずいぶんと出てきます。trust 「信頼」、fidelity 「忠誠」、his own law =autonomy 「自分自身の法則(に従うこと)」などなど…。まるでライフサイクルの話をユングから聞いてるみたい。
その中で、ユングが教師の役割について述べたところがあり、常々私もこの文書を思い出しているんですね。
子どもは、親との一体感が無意識にあると、ユングは言うんですね。最近は、親との一体感がない場合が少なくないんですけれども、いまから50年以上も前ですと、まだ一体感のある子どもが多かったのかもしれませんね。これをユングは、primitiive identity 「最初の一体感」と呼んだんですね。しかも、一体感があることが、必ずしも子どもの幸福に繋がらない、とユングは考えたようですね。なんせ、この一体感は、無意識裡のものであって、子どもが意識的に選択したものじゃぁないでしょ。
教師の役割は、その選択肢を子どもにプレゼントすることなんですね。これは実に大事なことで、心理臨床家の私どもがやってることは、まさにこれなんですね。ユングは言います。
「カリキュラムをきちんと教えることは、学校の目的のせいぜい半分でしかありません。後の半分の目的は、教師が自分の人格を通して、初めて可能になる、本物の心理教育をすることです。… 決定的に大事なことは、子どもが、自分の家族に対して抱いている、無意識の一体感から、自由にして差し上げて、本当の自分を上手に意識できるようにして差し上げることなんですね」。
これは本当のことですね。算数や英語、楽器の演奏やランニングを教えることも大事です。しかし、子どもを、一番幸せにすることに間違いないのは、ユングがお勧めするように「本当の自分を上手に意識できるようになること」です。
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