いつものように慶林寺のお参りを済ませたあと、いつもとは違うことに気づきました。ヒガンザクラ(彼岸桜)の樹に白い花のようなものが数輪咲いている、と見えたのです。
いや、「のようなもの」ではなく、まさしく花……と気づいたのは、今日ではなく、二日前の十八日のことでした。十八日という特定の日でなければ、この樹の下は歩きません。
なぜならば、十八日は観音様の縁日だからです。
毎月十八日は午前中に東漸寺(本堂と観音堂)にお参りしてお賽銭をあげ、一旦庵に帰ったあと、午前中遅くか、午後早く出直してきて、この観音様と対面するのです。
普段であれば、画像左・屋根の上に宝珠の写っている本堂に参拝するだけ、その本堂の真ん前にある参道を行き来するだけですから、観音様と間近で対面することはありません。
観音様の前はお寺の駐車場です。彼岸桜はその駐車場の上に枝を延ばしているのです。
ただ、なぜそこで目を上げたのか、不思議です。花のようなものが見えたので近づいたわけではありません。
こんな花が一輪、二輪……。
立ち止まって見上げ、グルリと頭を巡らせると、もっとありそうですが、このところずっと天気には恵まれず、曇り空ばかりです。灰色の空が背景では、花のようでもあり、葉っぱが黄変したまま残っているようでもあり、きっちりと判別することはできませんでした。
幹には名札がかけられていて、確かに樹の名が記されていた、という記憶はありますが、名札は永年の風雨に晒されて、たんにビニールに覆われた白い紙と化しています。そこになんと記されていたかは記憶にありません。確か彼岸桜であったはず……と思ったので、そう記しましたが、もしかすると、違う種類かもしれません。
この樹の左隣には河津桜、右隣には御衣黄桜と、この桜に較べると派手な花を咲かせる樹があるので、私のみならず、人々の注目度も薄く、記憶も薄いようです。
十月に咲くなどというのは、いわゆる狂い咲きといわれる現象なのでしょうか。
狂い咲きだとしたら、葉っぱがなくなることと深い関係があるようです。葉っぱは台風で引きちぎられてしまうこともありますが、それだけではありません。アメリカシロヒトリという蛾の幼虫がサクラの葉を食い荒らすこともあるのです。アメリカシロヒトリは通常、年二回(六月上旬~七月中旬と八月上旬~九月中旬)発生します。
春と秋とでは様子が違うのかもしれませんが、春の開花のころの天気予報を聞いていると、咲く前に一度寒くなることが条件だ、といっていたような気がします。
狂い咲きと食害はどんな関係があるのでしょうか。桜の花芽は花が散ったあと、夏の間にできます。そして、冬の低温に備えるために葉から休眠ホルモンというものを出し、花芽を硬くして、翌春まで咲かないようにしている、というのです。しかし、虫による食害や台風などでほとんどの葉を失ってしまうと、休眠ホルモンの供給がストップしてしまいます。すると、休眠できずに秋、気温がちょうどころあいになったころ、花が開いてしまうのです。
秋に花開いてしまったところは翌年になっても花はつかないそうです。ただ、全部の花芽が狂い咲きするわけではないので、狂い咲きした桜でも翌春に花を楽しめるのだそうです。
彼岸桜の全容です。
てっぺんのあたり ― 枝先にはまだ葉っぱが残っています。ということは、アメリカシロヒトリの犯罪ではなく、何度もきた台風や低気圧のせい、とみるのが正しいようです。
参道にあるハナミズキ(花水木)の紅葉が始まっていました。
実も紅く熟していますが、この実は有毒だそうです。