細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

土木アカデメイアの出版企画

2023-05-28 10:23:49 | 研究のこと

私もコアメンバーを務める私的勉強会「土木アカデメイア」で出版企画が持ち上がっている。その中で私も執筆したり、座談会に登壇したりするわけであるが、私の執筆部分を書き始めた。この後、メンバーで議論し、内容もブラッシュアップされていくと思うが、現時点での私の執筆担当箇所の1.はじめに、を以下に掲載しておきます。。。

担当箇所のタイトル案:「豊穣な社会とつながり」(仮題)

1. はじめに

 私は,2023年4月に横浜国立大学に設立された「豊穣な社会研究センター」のセンター長を務めている。元々は,土木工学の研究者・エンジニアであり,コンクリート工学を専門としている。豊穣な社会とは何か,どうしてコンクリート工学の研究者が豊穣な社会研究センター長を務める必要があるのか,それを「つながり」という観点で論じ,私たちの目指すべき方向性を探ってみたい。

 上記,豊穣な社会研究センターのHPのプロモーションビデオなどで,私は「すべての人々が与えられた資質と能力を充分に活かし、将来世代のために夢と希望を抱いて耕し続ける社会。それが、私の考える豊穣な社会です。」と説明している。これは私の考えであり,豊穣な社会とは何かを各自が考え,議論すること自体に意義があると思っている。私の考えは,宇沢弘文の「社会的共通資本」の冒頭部にある「ゆたかな社会とは」についての結論的な考えを参考にしている。最初にこの本を読んだときは,冒頭部のこの結論に度肝を抜かれた。その後,大学の講義や各所での講演で宇沢の「ゆたかな社会」を引用している。

 豊穣な社会研究センターの目指すところは何ですか?と聞かれることがよくあるが,「目指すのは豊穣な社会です」と答える。簡単である。理由は?と聞かれるとこれまた簡単で,「どんどんと豊穣な社会からかけ離れて行っているからです」と答えます。なぜ,我が国が豊穣な社会からどんどんとかけ離れ,転落しようとしているのか,まず私はそこに興味がある。すなわち,どのように現状を把握し,分析するのか,ということである。なるべく正しく現状を把握し,分析し,改善のために必要な適切な対策を講じる。工学の研究者としても当たり前の作法である。

 豊穣な社会に近付くためには,質の高い投資が不可欠であり,教育への投資,社会活動を支えるインフラへの適切な投資などが不可欠である,というのが私の考えだ。ここで,豊穣な社会と現代インフラの大半に使われているコンクリートとのつながりが出てきた。この後,豊穣な社会からかけ離れていく我が国の現状分析,コンクリートの研究で私が学んできたつながりの重要性,つながるという根源的な現象についての考察,そして私たちの社会が豊穣な社会へ近づいていくための方策,について論じてみたい。

2. 豊穣な社会からかけ離れていく我が国の現状分析

3. コンクリートの研究で私が学んだつながりの重要性

4. つながるという根源的な現象

5. 豊穣な社会へ近づいていくために

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この後の原稿も書き進めます。

早く出版されないかな~。



土木学会賞

2023-05-28 08:29:11 | 研究のこと

この度、土木学会賞を二ついただけることになりました。大変光栄に思います。

1つは、土木学会田中賞(論文部門)です。

<令和4年度土木学会田中賞論文部門>

NUMERICAL SIMULATION OF RUPTURE AND PROTRUSION OF VERTICALLY TIGHTENED PC BARS IN PC GIRDERS WITH ASPHALT PAVEMENT USING APPLIED ELEMENT METHOD
[Journal of JSCE, Vol.10, pp.145-161, 2022]

Addisu Desalegne BONGER(横浜国立大学),細田 暁(横浜国立大学)、Hamed SALEM(カイロ大学)、深谷 卓央(首都高速道路(株))

(「土木学会 田中賞」は昭和41年度(1966年度)より、橋梁・構造工学に関する優秀な業績に対して授与されている学会賞です。「論文部門」は、土木学会刊行物に発表され、計画、設計、製作・施工、維持管理、利活用、考案、歴史・文化、普及・啓発などに関連して、橋梁工学の発展に大きく貢献したと認められる論文、報告等に対して授与されるものです。)

共同研究者のHamed先生とは、東日本大震災の後、橋梁の津波での流失について共同研究を始めました。元々、東大コンクリート研の3つ年上の先輩で、在学中に同じ時間を過ごしました。当時も仲は良かったですが、プロの研究者として一緒に仕事をしたのはこれが初めてでした。前川宏一先生の引き合わせで、津波による橋梁の被害調査・分析の土木学会の研究委員会の幹事長を務めた私と、応用要素法による研究を推進していたHamed先生をつないでくださいました。

津波による橋梁被害の研究でジャーナル論文も何本か公表しました。その後、レンガ構造の共同研究を始めて、その後、今回の田中賞の対象のPC橋梁の鉛直PC鋼棒の破断突出対策の研究を始めました。

首都高速道路の勉強会から始まったテーマであり、Hamed先生との国際共同研究でもあり、Addisuさんというエチオピアからの優秀な留学生(修士、博士とこのテーマで研究し、現在は三井住友建設に勤務)の活躍もあり、産学共同の実践的研究・国際共同研究・YNUの留学生教育、などの成果でもあり、そういう意味で今回の受賞はとてもありがたい、励みになるものとなりました。協働してきた様々な方々に感謝を表します。

もう一つは、土木学会技術開発賞、です。

<土木学会技術開発賞>

柳井 修司(鹿島建設(株))、渡邉 賢三(鹿島建設(株))、松本 修治(鹿島建設(株))、水野 浩平(鹿島建設(株))、細田 暁(横浜国立大学)

データを活用したPDCAの高速化によるコンクリート構造物の品質確保技術の開発(CONCRETE@i®)

(技術開発賞は、計画、設計、施工、または維持管理等において、創意工夫に富むと認められる技術(情報技術、マネージメント技術を含む)を開発、実用化し、土木技術の発展を通じて、社会に貢献したと認められる者に授与されるものです。)

こちらは、私も長年取り組んでいる新設コンクリート構造物の品質確保に関する技術開発で、鹿島の皆さんの技術開発に私も連名で加えていただき、受賞となりました。光栄に思いますし、私のライフワークの一つである品質確保に今後も努力を継続する決意をさらに固める契機ともなりました。

私自身が受賞することや、出世したり肩書が増えたりするようなことには、本質的な興味や欲望はないのですが、一緒に仕事をしてきた方々との取組みが社会から評価されることについては満足感や安心感を得ることができます。また、今後も、豊穣な社会研究センターや、所属する土木工学教室、土木学会などの学会活動などで、無数の方々と連携してチャレンジしていくわけですが、そのときの励みやエネルギーにもなります。

このような栄えある土木学会賞をいただきまして、心より感謝いたします。土木のエンジニア、研究者として、社会に貢献できるよう、精進を重ねます。


具体的なつながり方研究、ついにスタート!

2023-05-28 07:40:49 | 研究のこと

豊穣な社会研究センターの中にある、つながり方研究所ですが、4月5日、5月17日と対面(一部の方オンライン参加のハイブリッド)で勉強会を重ね、毎回、濃厚な懇親会での議論もセットで、ようやく方向性が見えてきました。

私が指導教員を務める学部4年生の落合君がつながり方研究で卒業研究に取り組むことになり、これもまた朗報。詳しくは別途、落合君にもエッセーを書いてもらおうかと思いますが、彼がこのテーマで卒論に取り組むことになったのも、天の導きとしか言いようのない展開。つながり方研究所の複数、というか結構な数のメンバー(大人たち)が、実は昨年度から落合君と何らかのつながりがあった、という奇跡的な状況です。これはやるしかありませんね。

7月に次回のつながり方研究所の勉強会が開催されますが、その回を、つながり方研究所のミッションを対話で明らかにしていく、創り上げていく、という機会にしたいと思っています。「総意の合意」など、様々なキーワードがあり得ると思いますが、いろんな得意技や関心を持つ多彩なメンバーが、つながり方研究所において何を目指すのか、そのミッションを創り上げていく過程自体が研究、なのです。

そのための準備会を6月2日(金)の午後に実施します。つながり方研究所の河野さん、落合君、所長(かつセンター長)の細田の三人が必須メンバーで、あと数人入っていただいて、対話しながらミッションを創り上げていくプロセスを練習します。この準備会自体の設計を河野さんが開始しています。落合、細田は、そのメソッドを6/2(金)に体験し、7月の本番の勉強会に向けて準備をしていく、という流れになっています。

さて、つながり方研究所では具体的な研究テーマがいろいろ設定され、動いていくと思います。

その中で、「幸せの定量化」に私は大変な興味を持っています。まだ著書などでしか学べていませんが、矢野和男さんのご研究に大変な興味を持っており、近い将来、つながり方研究所にお招きして、ご講演もいただきたいと思っています。矢野さんの方法論なども貪欲に吸収しながら、幸せである状況や、逆にそうでない状況をセンサーで計測、定量的に評価したいです。評価することが目的ではなく、困った状況にある個人、組織などの状況を改善したく、改善するためのメソッドはいろいろあり、具体的なメソッドを持っているメンバーがつながり方研究所に集っているため、それらのメソッドを実践し、改善のbefore/afterを定量的に評価したい、と思っています。

我が横浜国立大学の中にも、改善すべき状況、組織は無数にあります。
・頑張ってはいるけど、孤立しがちな状況にあり、一皮むけない研究者
・つまらない会議
・相性が良くない人が近くにいて仕事がやりにくい環境
・生産性の低い組織
・留学生と日本人学生が分断しつつある状況が各所に見られる土木工学教室
などなど、枚挙にいとまがありません。

これらの状況を改善していけるのであれば、それだけでつながり方研究所の存在意義はあるし、実践力を高めて、どんどん周囲と連携していけば、かなり面白い展開になるのではないかと思っています。

ご興味あれば、お問い合わせください!
お問い合わせは、センター長兼つながり方研究所の所長の細田まで(concrete@ynu.ac.jp)。もしくはお知り合いのセンターのメンバーへお気軽に。


吃音

2023-05-28 06:54:07 | 人生論

吃音、どもりの人はたくさんいて、日本でも100万人以上いるとか。

私もどもりでして、その100万人にカウントされているのかどうかは知りません。

明確に自覚したのは中学生のころで、話すときに最初の言葉が詰まって発音しにくい、できないという状況がありました。小学生の高学年のころにも少しあったようにも記憶しています。

その後、ずっとどもりと共存していますが、症状?がきついときがあったり、そうでもないときがあったり。

私のような職業だと、とにかく話す機会が多い(講演、講義、様々な委員会や会議、などなど)のですが、まあ何とか50歳まで仕事も普通にこなしてきました。

電話が苦手で、最初に自己紹介で自分を名乗るときに名前が出なかったりとか、過去にもしょっちゅうありました。

年齢を重ねるにつれて、多少のことはどうでもよくなってきたし、自分自身の個性はそのままでよいといろいろと思えるようにもなってきたし、緊張することも減ってきたので、どもりが気になる状況も以前よりは減ってきたようには思います。それでももちろん、言葉が詰まるときは結構あります。特に、疲労や精神的なストレスが蓄積している繁忙期などにどもりがひどくなるような傾向があるように感じます。

ワイドショーなどの司会をしていた小倉智明さんもかなりのどもりで、今でも私生活ではどもるとか。それでも仕事をしているときは全く分からないくらい流暢にしゃべっておられます。また、哲学者の西部邁さんも若いころすごいどもりだったとか。その後治ったのか知りませんが、テレビや動画では流暢にしゃべっておられました。

私個人について言えば、ごく感覚的ではありますが、発声しにくい状況を緩和する方法のようなものはいくつか身に付けているようには思いますが、根本的な対策でもありませんし、まあ一生、共存していくのだろうと思います。

今朝、吃音の方が接客を務めるカフェがあることをYoutubeで見て、自分自身のことも書いてみようかと思いました。

吃音の方々が自分らしく、普通に社会で生活できるとよいですね。


豊穣な社会研究センターの活動を推進するにあたって

2023-05-06 08:19:33 | 職場のこと

豊穣な社会研究センターが4月に開設されました。また、このセンターの活動を併走しながら支える組織として、豊穣な社会のための防災研究拠点(YNU防災研)が2021年度から活動を活性化させていました。

豊穣センターとYNU防災研の目指すべきところは少しずつ明確になってきており、ともにチャレンジする仲間も増えてきています。センターと防災研の役割分担がまだ明確になっていないと感じられる方もおられるかもしれませんが、現時点ではそれぞれがお互いを支えながら存在することに意義があると私は思っており、このような併走体制を敷いています。ごく簡単に言うと、豊穣センターがまだ自立できる状態にない、というのが私の直観です。

さて、豊穣センターにしろ、YNU防災研にしろ、メンバーの多くはYNUの専任教員が兼務しています。皆、元から忙しいわけです。今さら、余計な仕事を抱え込みたくない、と思うのが自然でしょう。

現代の大学にはよくある話でして、自分の専門分野のことに「真の専門家として」しっかり取り組んでいればよかった大学はすっかり過去の話で、とにかく時代の流れに沿った新しい組織を作れ、社会貢献を見える形にせよ、大型予算を取れるチームを編成せよ、などと威勢の良い掛け声がかけられ、そのように組織が改変されていきます。そういう改変を重ねないと、文科省から予算ももらえない、というジレンマに大学も直面しているわけです。

私自身もそのような大学の改変(世の中では「改革」という)の流れに無縁であるわけにはいかず、例えば都市イノベーション研究院の創設(2011年)、都市科学部の創設(2017年)などもそうです。

改変が目的となりがちであり、当然にそのための事務仕事も増え、結局、やりたいことをやる時間もお金も無くなり、トータルのパフォーマンスは落ちていく。そんなことになりがちなわけです。もしくは、「選択と集中」なる掛け声の中、ごくごく一部の人だけが得をして、全体は沈没していく。

そんな「流れ」の中、豊穣センターやYNU防災研も発足したわけです。どちらも私がリーダーを務めています。

組織構成や、組織の目標設定も私に任されていますので、これらの組織に関わる方々が本当にやりたいと思うことに取り組み、ご自身の元々の活動にもメリットがあり、その上で様々な発展が生まれるような組織にしたい、しなければならない、という強い思いが私にはあります。そうでないなら、これらの組織は止めてしまえばよい、と本気で思っています。

さて、どのように運営するか、ですが、

まず、私自身のことから述べます。

豊穣センターやYNU防災研の専属の研究者であればよいのですが、併任であり、私自身もこれらの組織ができる前の仕事は丸ごと抱えたままです。学生たちの研究指導、講義は当然です。土木の留学生事務のディレクターも務めています。誰にでも共通の原理ですが、一日は24時間しかない。

そこでどうするか、ですが、以前からの私の行動の原則でもあるのですが、「ミッション・ステートメント」に従って行動する、ということに尽きます。ミッション・ステートメントに従って日々を積み重ねることで、豊穣センターやYNU防災研の舵取りも、元からの大学教員の仕事も、学会等の社会貢献なども達成できるように日々の習慣を組むしかありません。

豊穣センターやYNU防災研のために、新しい活動をわざわざ起こす必要ももちろん少しはあるでしょうが、そうすると負担が増えるばかりです。誰もそんな方針には付き合ってくれないでしょう。それよりは、これまでの日常を自然に積み重ね、それらが自然に融合するようにした方が楽ですし、結局日常も豊かになるかと思います。

ですから、私自身について言えば、私の日常そのものが豊穣センターやYNU防災研の発展につながるように、私の日常を設計するようにしています。

土木学会のコンクリート委員会でも膨大な量の仕事をしていると思いますが、それらも「インフラ長寿命化」「国土強靭化」にもちろんつながっています。豊穣センターの「元気なインフラ研究所」やYNU防災研の「インフラ長寿命化研究ユニット」の目指すところそのものです。

また、「豊穣な社会」と銘打ったことにより、それこそ私のありとあらゆる活動が、豊穣な社会の実現のためにある、と解釈することができます。ほぼすべての研究活動、教育活動、プライベートの時間の大半、がそれにつながっている、と解釈することができ、個々の活動の意味も明確になり、連鎖反応で全体のクオリティが高まっていくようにも感じます。

さて、次に豊穣センターやYNU防災研のメンバーについてですが、

多くの素敵な方々にメンバーになっていただいており、これらの方々と十分に連携できていなかった過去をもったいなく思いますし、まずはそれらの方々の人物を良く知る、活動を知る、ことから始めています。

YNU防災研にある6つの研究ユニットがそれぞれの活動を展開していますが、各ユニットで開催される勉強会はとても面白く、学びの多い時間です。お互いから学び合い、相談できる関係性が築かれていれば、自然に連携・協働は生まれるものと思っています。自然発生的に連携・協働が生まれる場合や、連携・協働を推進する入れ物を先に作る場合など、現時点では入り乱れていますが、それぞれのメンバーの貴重な日常を大切にしつつ、少しずつつながっていく、そういう組織運営を心掛けたいと思っています。

特に、豊穣センターの「つながり方研究所」のテーマは、およそ土木工学のコンクリートを専門とする私が取り組むような研究ではないかもしれませんが、ある意味では、私の興味そのもの、とも言えます。山口システム、東北システム、鞆の浦、などの取組みで私自身が形成されていったわけですが、その根幹には「つながり」があります。私のプライベートの時間での勉強も多くは「豊穣な社会」や「つながり方」のために割かれており、なるべくしてなった、という気もしてきます。現在、様々な分野から、この研究所の目指すところに共鳴して集まってくださっており、どのような研究が展開されるか、私自身もとても楽しみにしています。卒論生が一名、つながり方研究をテーマに研究に取り組むことになり、来週は一緒に鞆の浦へ、そしてそのまま彼のフィールドの一つである三重県の鳥羽に私が連れて行かれます。さっそくつながっていきます。

GWもあと二日。GW中にやりたいと思っていた仕事も少しずつ進めていますが、もう少し進めます。このブログを書くことも、プライベートの活動でもありますが、当然に、仕事でもあります。