細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

そこにいること

2016-09-29 10:56:24 | 教育のこと

9月16日(金)からベトナムに出張してきました。

東北地方等で展開している品質確保、耐久性確保の実践について30分の基調講演も行ったのですが、私の指導で博士号を取得した元留学生たちと旧交を温める機会もあり、幸せな時間でした。

私が主査で最初に博士号を取得したソンさんは、現在はガスのプラント工事の施工の責任者をしており、現場で陣頭指揮を執っています。大活躍のようで、ご家族も幸せそうでうれしかったです。新築したハノイのお宅に招待いただき、夕食を皆で楽しみました。2006年にソンさんがYNUのインフラ管理学コースに修士で留学中に、私はソンさんの自宅を訪問しており、ご両親にもお会いしていますが、今回もご両親にお会いできました。ソンさん一家は、浦和の私の実家にも来たことがあり、そのときの家族に娘さんが加わっており、一家の大黒柱としてのたくましいソンさんの姿を見て、私も頑張らなくては、と思いを新たにできました。ソンさんは私と同い年です。

この夕食には、ダナンからナムさんも参加しました。ナムさんは、私の4番目の博士号で、現在は母校のダナン大学に戻って教鞭を執っています。ナムさんとソンさんは初めて会ったのですが、いろんな話に花が咲き、地道に研究室という場で教育を続けていくことの、何ものにも代えがたい大切さを実感しました。下の写真を撮ってくれたのは小松さんで、私の3番目の博士号です。1,3,4番目の博士号の方々と、1番目の博士号のハノイの自宅で集う、というのは特別な時間でした。



教育、というものは、ころころとシステムや手法を変えてはいけない最たるものだと思います。結果が出るのに10年、20年はかかる営みなので、伝統を引き継ぎつつ、哲学、信念を持って継続しなくてはなりません。

私も、日本が築いてきた教育システムの中で、横浜国立大学という先人たちの多大なご努力により存在する大学において、いろいろな方々の現在進行形の努力のおかげさまで、学科や研究室という研究・教育の場を与えていただき、13年間ほど日々の努力を重ねてきました。

その場で育った若者たちが、社会で活躍している姿を見ることほどうれしいことはありません。

そして、集うことにより、集ったメンバーは、当時の必死に議論したときのことを思い出し、気持ちを新たにするのです。研究室に所属しているときはもちろんですが、卒業してからも、教育という営みは続きます。

激動の世の中で、残念なことにいろいろなものが壊されていく状況にありますが、「そこにいること」が大事だと思います。続けること。自分自身はちっぽけな存在かと思いますが、皆がつながって生きている。自分の持ち場をしっかりと守り、続けることにより、皆も幸せになっていく。

教育という営みはあまりにも深いものであり、今後もいろいろな発見があるのだろうと思いますが、やりがいと責任を感じながら続けていきたいと思います。


10月からの繁忙期を前に

2016-09-27 05:46:12 | 人生論

一般的に大学の教員は年度後半の方が忙しい傾向にあるとは思いますが、私は講義のほとんどを10月からの秋学期に抱えていることや、来年度から始動する「都市科学部」のための準備等もあり、例年以上の繁忙期になるかもしれません。毎年のことなので、慣れてきてはいるはずですが、やはり10月が近づいてくると自然に引き締まる感じがします。

9月23(金)~25日(日)は久しぶりに3連続で水泳をしました。私は、1000、1100、1300mと泳ぎました。出張等も続き、23日は久しぶりに泳いだので、 ぎこちない泳ぎでしたが、最終日の25日は泳ぎもスムーズで1300m泳いでも疲労をあまり感じませんでした。何事も、練習が大事なのですね。ブログも論文も同じかと思います。後半の2日は次女も同行し、背泳ぎを一所懸命練習し、20m程度泳げるようになりました。

大学のいわゆる夏休み期間中は、教員は遊びほうけているわけでは決してありませんが、私の場合、10月以降、自身のスケジュールにより自然に律される状態に比べ、自己管理もどうしても甘くなってしまいます。出張等が続くとどうしても懇親会も重なるのですが、23~26日の4日間のうち3日間は飲酒も止め、普段よりもさらに食事に気を配り、仕事にも精を出し、大分リズムが戻ってきました。

基本的にストイックな性質なので、しっかりと納得の行く生活していることで満足感を得られます。

今週、一週間を最優先事項から逃げずに過ごし、いよいよ来週からの10月を万全の態勢で迎えたいと思います。

10月1日(土)には、仙台の深松組に招待されて、コンクリートに関する講演です。社長の深松努さんのご講演を初めて聴いたのが2015年9月14日の山口県でのコンクリートの品質確保講習会での特別講演でした。衝撃を受け、ぜひ横浜国立大学の学生たちにも聴かせたいと強く思い、2016年2月2日に大学にご招待して特別講演をいただき、私も前座として復興道路の品質確保について講演しました。そして、今回、深松さんに招待いただいて、深松さんの会社の社員に対してコンクリート構造物の品質確保について講演することとなりました。

事前に、土木、建築の社員の方々から質問をいただきました。事前の質問に回答することも含めての2時間の講演ですが、とても楽しみです。

鞆の浦の研究にも動きの萌芽がいろいろとみられており、合意形成の第一人者の桑子敏雄先生が鞆まちづくいビジョンワークショップを全5回で開催されており、その第2回目が10月5日(水)に鞆の浦で開催されます。これに、今年度鞆の浦の研究に関わる4年生の石橋さんと一緒に参加することにしました。桑子先生のチームに加えていただけるようで、これまで細々と続けてきた地域防災の研究も、お役にたてる可能性があり、とても期待しています。

水泳でリズムを取り戻した数日間、斎藤孝先生の「悔いのない人生 死に方から生き方を学ぶ「死生学」」をざっと再読し、やはり悔いのないように自分らしく生きよう、と思い直したところです。

脈絡がありませんが、齋藤さんの本にもいくつかの辞世の歌が紹介されていたり、ラジオを聴いていて川柳や俳句も面白いな、と思い、次女との水泳のシーンを切り取りました。歌を作った記憶はほとんど無く、処女作に近いため技術も何もありませんが、私にとっては情景がすぐに浮かぶ作品です。

「ゴーグルと 水泳帽の 似合う美渚」

「背泳ぎを 教えてと待つ わが娘」

10月以降、駆け回ることになると思いますが、楽しみです。


陽明学,津田永忠

2016-09-15 13:23:02 | 教育のこと

9月12~13日は,土木工学教室の見学会で岡山を訪れました。見学会の全行程に参加した学生は7名,と少数精鋭?でしたが,両備HDの小嶋光信会長のご講義には中村文彦先生も参加され,10名で拝聴しました。大変に有意義な見学会で,今後の私の視野を拡げる意味でも大変に貴重な経験を皆でしました。

今回の主目的は,昨年の土木学会全国大会の特別講演で小嶋さんがお話された,岡山藩士,津田永忠の土木遺産群を見学することでした。 1707年に68歳で亡くなった,岡山の元禄時代を築いた歴史的人物です。日本の三名君と言われるらしい,池田光政公にお仕えし,その次の綱政公の時代に郡代として藩政を取り仕切った人物です。名君と言われる資格は,大飢饉のときでも餓死者を出さない,ということだそうです。土木は治世であり,治世とは「民の苦しみを救うことにござる」,とのことです。

津田永忠は,熊沢蕃山の弟子であり,陽明学を行動の基本に据えています。

陽明学の命題のひとつは, 知行合一であり,「行わなければ,知っているとは言えない。知っていても行わないのは,まだ知らないのと同じ」という意味です。

戦国大名は陽明学を学んでいたそうです。天下統一がなされた後,江戸幕府が統治に朱子学を用いたのは有名ですが,陽明学者たちは全国に散らされました。しかし,例えば大塩平八郎,吉田松陰など,天下の動乱期に行動を起こした歴史的人物たちはみな陽明学を学んだ人たちです。

津田永忠の偉業はまた別のエッセーで記そうと思いますが、旭川の洪水時の流路をそのまま河川にしてしまった百間川の治水、百間川を引くことにより旭川の流路にある岡山城や城下町を洪水から守り、本命の沖新田の開拓を熊沢蕃山に納得させるための時間稼ぎの間に岡山後楽園を造営、百間川下流の旭川・吉井川にはさまれた領域の大干拓「沖新田」はモンスーン地帯では世界最大の干拓であり、今回の見学会で津田永忠のスケールに圧倒されました。

建築に携わる人は、「閑谷学校を見てから死ね」と言われるそうで、主君の光政公の理念を永く伝えるための象徴でもあった閑谷学校は、300年を持たせるための明確な強い意思をもって建造されました。屋根や基礎部の水への徹底した配慮、防虫のための漆塗り(木材そのものや木材の目地への塗り込み)等には感銘を受けました。強い意思、よいものづくりへの執念があって初めて、300年を越えてさらに美しさを増す建築になります。

よく現代で言われる設計耐用年数50年、とは何なのだろう、と小嶋会長も講義で問いかけられました。東洋の思想ではありませんね。

西洋の現代技術・システムに溢れた世の中で生きている我々ですが、自然の力に逆らわない治水、300年を超える耐久性、一石二鳥三鳥、民を苦しみから救うための経世済民、等、東洋の思想に今一度立ち戻る必要があるのかと思います。

私たちがチームで取り組んでいる品質確保・耐久性確保も、西洋の技術と東洋の思想の融和、和魂洋才という側面もあるのではないか、と感じ始めています。

小嶋会長からいただいた様々なヒントを、今後につなげていければと思います。学生たちも大変大きな刺激と感銘を受けたようです。見学会の醍醐味ですね。

 


コミュニケーション

2016-09-07 17:44:10 | 人生論

本日から、土木学会の全国大会@仙台です。

私は大学業務の関係で、今日は日帰りとなり、全国大会も本日のみの参加です。残念です。

ですが、今日は午前の研究セッションの座長の仕事を終えた後、午後の研究討論会「市民のイマジネーションと土木広報〜市民へ伝わる土木の心〜」 で素敵な出会いがありました。

同じ時間帯に、コンクリート委員会の研究討論会があり、こちらは生産性向上と品質向上、ですから、ど本命です。パネリストにも私の同志たちが登壇しているので何もなければこの討論会に出ていたはずです。

しかし、土木広報の研究討論会にも、熱血ドボ研の平原さん、土木史でご指導いただいている緒方さんらが登壇され、私にとってはこちらも本命でした。結局、こちらに参加しました。

平原さんには私の研究室の鞆の浦の地域防災力向上の取組み(主として肝試しの紹介)もしていただきました、ありがとうございます。

この討論会にパネリストとして参加された、漫画家の羽賀翔一さんには初めてお会いしましたが、人柄、考え方、作風にとても惹かれました。お話も大変面白かったです。

日常のちょっとしたことに想像力を働かせ、感じることができるか。すべては人の物語であり、ちょっとしたことにでも物語を感じることができるか。羽賀さんの想いは私にはとても強く響きました。

考え方が素敵だな、と思い、研究討論会終了後、羽賀さんのところに駆け寄ってご挨拶しました。討論会終了後に似顔絵描きますよ、と討論会中におっしゃってましたが、似顔絵を求めてご挨拶したわけでは決してありません。でも、周囲の方々に勧められて、描いていただきました。

私も体当たりでコミュニケーションするタイプですが、コミュニケーションの基本は、「好き」ということです。好感を感じたら、包み隠さず伝える。そこから何かが始まる。

これまでもそうやってきましたが、今日も素直に好感を伝え、今後につながる予感です。

「ダムの日」という連載の漫画の単行本が、「昼間のパパは光ってる」という本で10月21日に発売予定だそうです。第1話、2話を読みましたが、とてもひき込まれて読みました。私はもちろん単行本を買います。まずは土木の学生たちや家族など近い人に読んでほしいので、10冊くらい買う予定です。本をプレゼントするのが私の好きなことなので、なるべく多くの方々に読んでもらえるよう、私もできることをやります。