シャープ & ふらっと

半音上がって半音下がる。 それが楽しい、美しい。
思ったこと、感じたことはナチュラルに。  writer カノン

午前10時のシンデレラ

2007-03-15 13:31:57 | 世の中あれこれ
先週から、パートで新しい仕事を始めている。


昨夏、IT関連の会社で働いた。
上下関係、勤務時間や態度など、勉強になることが多かった。
それは、その後自分の本業でも大いに役立っている。

私の本業は、商店である。
今回のパートは、さらに役に立つ職場になりそうだ。
・・・デパートである・・・

しかし、接客ではなく、清掃業。
いわゆる、バックヤード。
目立たないが、デパートを支える大事な部署だ。
あえて、デパートで働きたくて、選んだ仕事だ。
いつも、私が利用している店である。


国内でも、トップクラスの売り場面積を誇る店だ。
端から端まで、約300メートル。
ここを、屋上から地下2階まで、満遍なく掃いていく。
朝8時に出勤。掃除道具一式持って、店内に出る。

華やかなるデパートの舞台裏。
お客様を迎える、広い入口とは対照的に、
従業員入口は狭い。
台車が通ると、壁に身を寄せる。

8時には出勤している社員がいる。
特に、婦人服売場の若い女の子は早い。
手際よく、ブランド物の服をたたんで並べている。
その、何万円というブランド服すれすれを、
ほこりを立てないように、掃除をする。

9時には、レストラン関係の店員も準備を始める。
開店前から、良い香りが漂っている。
そして9時半が、社員の正式な「勤務開始時刻」。
帽子をかぶった、「デパートガール」のお姉さんも、
この時間にせわしなく登場する。

『9時30分。朝礼の時間です』
店内放送が流れる。
各店舗、各フロアで朝礼が行なわれる。
昨日14日朝は、「今日のホワイトデーでは・・」
という声も聞こえた。
女性の、ハンカチなどの小物売り場の責任者だった。

そして、清掃員である私達は、
逆に、その時間になると控え室に戻る。
誰もが気づかない、地下3階の奥にある。

午前10時、開店時刻。
私達は、店内にいてはいけない。
それまでに、通路などの清掃を終えなければならない。
開店時刻は、私達はシンデレラになる。


開店30分後、
私達は、ふたたび掃除道具を持って、店内に出る。
今度は、人の少ない階段や通路などを見て回る。
ここで、束の間だが、お客様と触れることができる。
私が、初めてお客様から質問されたのは、
初日、店に出て10分もしないうちだ。
「ペットショップはどこですか?」

私がいつも行くペットショップを、
店員としてご案内する。
なんとも、不思議な感覚である。


午後12時。私の仕事が終わる。
社員証を見せて外に出て、再び店内に戻ってみる。
「いらっしゃいませ」
今度は、私がそう呼ばれている。
さっき、自分が磨いたばかりの通路を歩く。
300メートルが、短く感じる。