一昨年、母が亡くなった直後、
私は棺に納める品を選んでいた。
その中で手紙の山が出てきた。
かなり古い手紙も残っていたが、
その内の一通が目に止まる。
父が母に宛てた手紙だった。
結婚前の日付だったので、
お付き合いをしていた頃だったのだろう。
人の手紙を読むのは好きではないが、
さすがにこれは一読したいと思い、開けてみた。
白い便箋に万年筆のタテ書き。
この時代の典型的な手紙スタイルだ。
達筆でもヘタでもない父の字だったが、
目を通してみた。
母の事を「ちゃん」付けで呼んでいる。
『逢いたい』などという字も使っている。
そして、『今度お父様に挨拶に行きたい』という、
かなり最終章に近い状況での内容だったと知る。
ラブレターだのラブコールだの、
こういった言葉とは無縁と思っていた父の、
衝撃的な手紙である。
見てはいけないものを見てしまった・・。
と同時に、
この手紙を大切に保管していた母をも思う。
父からの手紙は、この一通だけだった。
手紙は棺の中に納め、
母と一緒に、差出した父の待つ所へ旅立った。
60数年ぶりの手紙を見て、おそらく父は、
『こんなの書いたっけな。覚えてないや』と
しらばっくれたに違いない。
父が亡くなって7年。
母は2年になる。
この話は、家族にも弟にも親戚にもしていなかったが、
父の日の今日、
ここでエピソードを残したい。
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