元バーズのロジャー・マッギンの、フォーク・デン・プロジェクトは圧巻だ。アメリカに流通しているフォークソングを後の世に残そうということで、一枚25曲の四枚組、全100曲をリリースした。有名曲と無名曲の両方が入っている。黒人奴隷の嘆きの歌があるかと思えば、「リパブリック賛歌」や「ファースト・ノエル」のような曲も収録されている。
ロジャーマッギンの歌のうまさ、節回しの絶妙さ、声の持ち味は昔と変わらない。これが全曲オリジナルなら小躍りしてしまうが、トラディショナルやカヴァー曲であってもロジャー・マッギンの声と12弦ギターは十分に堪能できる。
私はバーズが前から好きだったが、バーズ自体、オリジナルを主体としたバンドではない。ヒット曲の大半はボブ・ディランのカヴァーなのだ。それでもボブ・ディランに劣らないほどの逸品になっている。「ミスター・タンブリンマン」、「時代は変わる」、「マイ・バックページ」など、ディランがぶっきらぼうに抑揚なく歌った曲から、美しいメロディーを取り出して、リメイクする。元の曲とは全く異なった、フラワーチルドレンのフォークロックの美が生まれる。
柳宗悦は「民藝四十年」「南無阿弥陀仏」などの本で、無名の人が陶器に同じ模様をすごい速さで何枚も何枚も絵付けしていくとき、芸術家の個性といったことは問題にされないと言う。そういう無名の人が無心で何度も描いたり作ったりしてゆくうちに出てくる清らかさ、無心の美こそが民芸の美であると言う。また、鈴木大拙は、妙好人と呼ばれる無心の念仏者を、禅に匹敵する日本的霊性として持ち出した。
ロジャー・マッギンも器としては空っぽとなって、その器にボブ・ディランを入れたり、トラディショナルを入れたりして、そこに隠れていた美を浮かび上がらせる。空っぽになってひとの曲を歌うとき、ロジャー・マッギンは限りなく無心に近づいている。子どもたちのクリスマスソングである「ファースト・ノエル」を一点を見つめて歌う、ロジャー・マッギンの歌声は、私をとらえて離さない。