荒川三歩

東京下町を自転車で散策しています。

大黒湯の解体現場で、

2022年07月06日 | 散文

もうすっかり建物は在りません。ポッカリ開いた空が虚しいです。

 

覗いてみます。大きな屋根も湯船も、あの猿が登っていた煙突も在りません。

 

半年間の解体工事です。地下室も在ったのですね。

 

裏に廻りました。ボイラーが在った場所です。

 

ここに猿が登っていた煙突が立っていました。

 

そんな事をしていると、小父さんがやって来て私と方を並べて見上げます。そのまま私が話します。「ここに猿が登った煙突が立っていましたね。そこがボイラー室で。『ぬ』板と『わ』板看板が有って、大きな銭湯だったのに残念ですね」

「地下室まで在った大きな銭湯でね。文化財が残ってたんだけど、足立区は寄付を断ったらしいね。足立区は冷たいよね」「でも足立区はイベントなんか積極的で、銭湯文化には理解があったように思いますよ」「先代が新潟から出てきてね」「ああ、やっぱそうですか、東京の銭湯は新潟出身者が多いらしいですね。でももう、銭湯を継ぐ若者はいないでしょう」「後継者は居るのか居ないのかわからないけど、これだけの更地ができたら不動産屋は取り合いになるね。後継者が居たらそうするよね」

「近所の人は困りますよね」「近くにあるけどなぁ、雨が降ったら億劫だよね」「そうですよねえ。近くの方ですか?」「ここだよ」指差した所は真後ろです。えっ?! いつも私が煙突を登る猿を見上げてた、路地裏のアパートでした。

こうして私的に見送りました。小父さんは変わったやつだなあ、と思ったでしょうね。

在りし日の大黒屋を、小父さんのアパート前から見上げた猿の煙突と共に。

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都電梶原停留場脇の古書店

2022年07月06日 | 散文

よく行く梶原銀座商店街前の踏切です。

 

ウクライナ色の都電がゴトゴトと行きます。

 

左を見ると、線路にくっ付くように家が建っています。

 

周囲に家は無く、ポツンと1軒立っています。

帰省中に都電界隈のレポート番組を見て知りました。この家は停留場のホームにくっ付いた古書店です。

 

なるほど、ホーム脇に狭い通路が在ります。あんなに都電周辺を走ったのに、TVを見るまでここの存在を知りませんでした。

 

ホームを行ってみます。

 

 

 

店に続く通路を行ってみます。

 

 

 

TVでは、女子学生がこの古書の山の中で、好みの本を探していました。好いなと思いました。

 

通路の石段を上がるとホームです。TVでも常連さんがここから煙草を買っていました。銘柄は言わないで何箱と言うと、主人がいつもの銘柄を何箱渡します。そんなご近所や通勤客相手の商いです。

 

網で囲われた場所は国有地です。ここに道路を造る計画で、周辺の殆どの家が立ち退きを終えています。

 

主人はこの家から都電に乗って大学に通ったそうです。早稲田行きの都電の停留場は、沿線に多く在る有名大学の通学に便利です。

 

文学が好きで、編集に関わった仕事をし、引退後実家で古書店を営んだそうです。古書を買う人が少なくなりました。仕入れた本の数が増えるばかりです。そして、道路建設の為の立ち退きを迫られています。番組の最後の言葉は「もう年貢の納め時かな」でした。

 

帰京したら行かなければならないと思った場所でした。

初めてですが、見納めかも知れません。

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