昨日に続いて将棋をテーマに。
本日は、将棋のトップ棋士たちの闘い方の違いについて、特に、渡辺明名人と藤井聡太二冠の違いについて、感じたところを述べてみたいと。
まず、現役最強と呼ばれる渡辺明名人。渡辺名人は、ある一定『レンジ』の終盤に入れば、まず間違えることがない、とご本人も宣言されています。したがって、リードを保ったまま、その『レンジ』に入ることさえ出来れば、危なげのない完勝パターンとなります。そのため、序盤の構想段階から中盤の駒のぶつかり合いまでの間に、しっかり主導権を握り、そのリードを保つことに、対局の準備段階から全力で取り組みます。プロ棋士同士の直近の対局トレンドや、新手の効果検証を、対局日のギリギリ前日まで準備を怠らないのも、このように、序盤から優位に立ちたいがため。
まぁ、競馬で言えば、好位3~4番手を確保さえすれば、直線に入りラスト400mになって、そこから前を楽々差すことができる。また、後ろからの馬に差されることも基本的にありえない、というシンボリルドルフ型の闘い方です。この闘い方は、渡辺名人のほか、豊島竜王もほぼ同じです。
一方の藤井聡太二冠はどうでしょう。藤井二冠の強さの源泉は、その圧倒的な終盤力にあります。渡辺名人がラスト400mで「間違えない」と言うのなら、藤井二冠はラスト600mの段階で、「相手の勝ち筋、自分の勝ち筋を見切ってしまう」力があります。したがって、終盤に入る前の段階で自分に勝ち筋が見えれば、もう勝ちを逃すことはありませんし、もし、相手の勝ち筋が見えていれば、相手を混乱させる手を打ち続けて、ラスト400mの段階では、少なくとも五分五分に戻してしまいます。ラスト400mで五分五分、しかも残り時間がお互い少なければ、圧倒的な終盤力がある藤井二冠が、先に読み切って勝つことになります。
競馬で言えば、圧倒的な追込み力をベースに、どのような展開になっても、前にいる馬たちを差し切ってしまうディープインパクト型の闘い方と言えるでしょう。ただし、さすがのディープでも、序盤から大きなリードを奪われて、相手にミスが出なければ、やはり負けてしまいます。
藤井聡太二冠は、圧倒的な終盤力を持つがゆえに、仕掛けてくる相手の作戦に敢えて乗る傾向があります。それでも、一定レンジの差のままであれば、終盤で逆転が可能であるため、敢えて未知の世界を冒険して、自分の適応力を広げることを選択します。結果として、決まった型を持たず、オールラウンド型と呼ばれ、羽生永世七冠に似た棋風と言えます。
渡辺名人と藤井二冠が闘うと、序盤からリードを確保しようとする渡辺名人に対して、一定レンジまでの差を維持しようとする藤井二冠のつばぜり合いが、序盤の見せ場となります。そして、終盤までに大量リードがあれば渡辺名人、終盤までに決定的な差がなければ、藤井二冠が勝つ、という傾向が昨年までの状況。
今のままでは分が悪いのは渡辺名人。これを打開するために、棋聖戦五番勝負で、どのような闘い方を見せるのか、今から、将棋界は大注目しているところであります!