元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「雪の花 ともに在りて」

2025-02-16 06:30:55 | 映画の感想(や行)
 さほど期待していなかったのだが、題材が興味深かったのであえて鑑賞。しかし、観終わって激しく後悔した。これはちょっと、酷すぎる。脚本の第一稿が出来上がった時点で、大幅に書き直しを指示するか、あるいは製作自体の中止を箴言するプロデューサーはいなかったのか。とにかく、斯様なシャシンが“世界に誇る新たな時代劇の傑作”などという惹句を伴って全国拡大公開される事実こそ、日本映画界の衰退ぶりを如実に示していると思う。

 江戸時代末期、当時は有効な治療法が存在せず、不治の病と言われてきた痘瘡(天然痘)の制圧のため、種痘(予防接種)の実施と普及に尽力した福井藩の町医者である笠原良策の物語。吉村昭による原作は未読だが、いくらでもドラマティックで感動的な映画に仕上げられる素材だと思う。しかし、本作には何の求心力も無い。ストーリーやキャラクターを盛り上げようという意図さえ感じられず、単に出来事だけを漫然と並べているだけ。一体何のための映画化か。



 とにかく、開巻10分で観る気が失せるのだ。まず、時代劇なのにセリフが現代調。登場人物たちの立ち振る舞いは抑揚が無く、何ら感情移入が出来ない。良策の行動に対しては当然のことながら数々の障害が立ちはだかるのだが、それらはいずれも主人公の説得あるいは時間を置くことによって“いつの間にか”解決してしまう。

 かと思えば、必然性のない唐突な立ち回りが発生したり、冬場の峠越えを敢行する「八甲田山」モードのシークエンスが挿入されたり、良策の妻の千穂が“思わぬ実力”を発揮したりと、支離滅裂なモチーフが次々と現われる。

 映像も話にならず、同一のカメラアングル、同一のキャラクター配置によって、異なる時制の複数の場面が撮られるという暴挙(≒手抜き)を平気でおこなっている。四季折々の風景はキレイだが、絵葉書的で奥行きが足りず。いい加減、途中で退場したくなったほどだ。良かったのは、加古隆による音楽ぐらいである。

 監督は小泉堯史だが、彼は初期作品以外は何ら目立った仕事をしておらず、今回も低調な仕事ぶり。主演の松坂桃李をはじめ、芳根京子に三浦貴大、宇野祥平、坂東龍汰、益岡徹、吉岡秀隆、そして役所広司と、演技巧者なキャストを集めていながら、全員を大根に見せるという、ある意味“離れ業”が炸裂しているのには呆れた。この全体的な覇気の無さは、今年度のワーストワンの有力候補にふさわしい。とにかく、小泉監督は引退した方が良いと思う。
コメント
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