この映画のハイライトは、山陰の片田舎から東京に修学旅行に行ったヒロインが、最初は都会の雰囲気に圧倒されるものの、地元と同じ“風の音”を感じることで“いずれ、何とか(都会とは)うまくやっていけるかもしれない”という踏ん切りを付けるシーンだ。
たまたま生活のバックグラウンドが超田舎だけであった話で、見知らぬ環境に戸惑いながらも折り合いを付けようとする成長期のポジティヴなスタンスを普遍的に描いている点には感服する。決して御為ごかしの“田舎は楽しい。対して都会は殺伐”といった単純すぎる二項対立の図式にはしていない。本作はそんな“ありがちな構図・展開”を回避していることに特徴がある。
生徒が6人しかいない分校に東京から転校してきた男子を巡って、ヒロインが恋心を描くというお約束の筋書きこそあるが、彼の複雑な家庭がそれまでの平穏な生活に影を落としてゆくとか、彼の母親と彼女の父親との怪しい仲がクローズアップされるとか、イジメ問題が勃発するとか、そういう語るに落ちるようなストーリーには絶対持って行かない。それよりも何でもない日常、取るに足らない出来事、退屈かもしれないが平和に過ぎてゆく日々etc.そういう誰もが経験しているはずのことこそが、掛け替えのない大事なことなのだ・・・・という、底抜けに肯定的な作者の姿勢に大いには共感できる。
もちろん、起伏のない筋書きをただ漫然と追っていくだけでは面白みはない。そこは“語り口”の巧拙がポイントになってくるが、「リンダ リンダ リンダ」の山下敦弘監督はその点も抜かりがない。会話の面白さ、登場人物たちの微妙な屈託や勘違いが織りなす絶妙のユーモアは、観客をまったく飽きさせない。そして何より、舞台となる島根県浜田市の外れにある小さな村の天国的な美しさが、作品のグレードを大いに押し上げている。
キャスト面ではヒロインを演ずる夏帆が最高だ。まさしく天然、純情無垢な“素”の魅力にあふれた逸材で、作品世界と絶妙にマッチしている。東京出身ということだが、ここでは完全に田舎の子であり(笑)、演技力でそう見せているとすればなかなか見上げたものだ。相手役の岡田将生もクールな持ち味が光っていたし、他の生徒たち(特に子役)も実に達者で、さらにヒロインの両親に扮しているのが佐藤浩市と夏川結衣なのでこの2人なら“何かある”と思わせる絶妙な配役だ(爆)。
レイ・ハラカミによる音楽(そして“くるり”によるエンディング・テーマ)も素晴らしく、本年度の日本映画を代表する佳篇と言える。