(原題:Don )アジアフォーカス福岡国際映画祭2007出品作品。インドとマレーシアを股に掛けて暗躍する巨大な麻薬組織カルテル。その影で“荒仕事”を一気に引き受けるシンジケートの裏のボスである“ドン”が、逮捕された後にケガが元で死亡。担当警視は彼にそっくりな男を見つけ出し、“ドン”に成りすませて組織に送り込み潜入捜査を行おうとするが、事態は複雑な様相を呈してゆく。2006年製作、上映時間168分のインド娯楽大作だ。
ボスに瓜二つの男に、さらに身体的特徴を最新医学で刻み込むという設定は、何やら「フェイス/オフ」を連想させるし、彼が潜入捜査していることは警視一人しか知らないというプロットは明らかに「インファナル・アフェア」からの拝借。さらに「007/ムーンレイカー」からの堂々たるパクリのシーンもある。敵の首魁が自らの正体をモノローグで披露するのに驚いていると(爆)、ラストの超強引なオチには茫然自失だ。しかし、かような胡散臭いネタが満載の作劇にもかかわらず、インド製娯楽映画というフィルターを通してしまうと、すべて許したくなるのだから不思議なものである。
ハードなクライム・サスペンスであるはずの題材なのに、妙に明るいのも“インド映画だねぇ~”と納得。そして例のごとく脈絡もなく挿入される大仰なミュージカル・シーン。ブツ切りのシークエンス構成とアクション場面でわざとらしく展開する画面分割も力任せで乗り切り、冗長な最初の30分を除いては、ジェットコースター的にエンドマークまで持っていく監督ファルハーン・アクタルのマッチョぶりには呆れつつも感心してしまう。
主演はお馴染みシャー・ルク・カーン。相変わらずイモ臭い容貌ながら(失礼 ^^;)これが歌と踊りの場面になるとスターのオーラがパァーッと輝き出し、観客の目をスクリーン上に釘付けにする。格闘シーンも頑張っていて、特に終盤での高所での一対一の対決は手に汗を握ってしまった。ヒロイン役のプリヤンカー・チョープラーは素晴らしい美人だし(踊りも上手いぞ)、クアラルンプールの名所もフィーチャーされ、観光気分も味わえる。
一時期“マサラ・ムービー”の名でこういったインド娯楽作品が持て囃されたが、最近はなかなか輸入されなくて寂しい限り。何も考えずに楽しめるという意味では御涙頂戴の韓国映画よりも数段アピール度が上だし、年に数回はこういう映画も見せてもらいたいものだ。