元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「殯(もがり)の森」

2007-09-29 06:59:41 | 映画の感想(ま行)

 正直な話、本作がカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を獲得しなければ、まったく観る気はなかった。観た結果も“良くも悪くも河瀬直美監督の映画だなァ”という感慨以外は別に何もない。

 まず良かった点からあげると、映像の美しさだ。神秘的な冒頭の葬列のシーン、および養護施設の周辺にある茶畑の幾何学的な構図の素晴らしさをいったい何と表現すればいいのか。・・・・さて、良い点はそれのみである。あとは全部“悪い点”だ。

 33年前に亡くした妻を忘れられぬままボケてしまった老人と、彼が入居する施設に幼いわが子を亡くしたトラウマを抱えたまま赴任してきた若い女性介護士とが山奥に迷い込んでスピリチュアルな(?)体験をするという、作者の独りよがりな思い付きによるストーリー(らしきもの)が冗長なタッチで続くだけの映画である。

 何よりダメなのはキャスティング。老人役のうだしげきはプロの俳優ではなく素人だ。もちろん、作品の狙いにより素人を起用することのメリットは過去のいくつかの作品で十分に証明されているが、それらはあくまで素人を“本人役”あるいはそれに近い役柄に設定することによって効果を生み出していた。しかし本作は、うだ自身とはおそらく関係のない役で、しかも演技力を要求される仕事である。その意味では彼のパフォーマンスは失格だ。どう見たってボケ老人とは思えない。完全に目が“正常人”だ。ちゃんとした俳優にちゃんとした演技指導して臨むべきではなかったか。

 ヒロイン役の尾野真千子は一応本職の女優だが、役柄と同様にぼーっとしているだけで演技のカンも何もあったものではなく、こっちも“素人”だ。手持ちカメラと即興的演出をメインにした作品であるからこそ、キャストに力がないと画面が保たないのだが、作者はそんな基本的なことに考えが及んでいない。とにかく“アタシの撮りたいように撮ってるだけ。少しでも共感できるところがあればそれでいい”といった“投げやり”とは紙一重の芸術家肌スタンスでカメラを回しているだけなのだから、何言っても無駄だろう。

 なお、この映画の上映は国際映画祭出品ヴァージョンだと思われる“英語字幕付き”であるのが鑑賞する上で助かった。とにかく、セリフ回しが怪しいのだ(特に終盤)。作者にとってはセリフなんてどうでもいいと思っているのかもしれないが、よく聞き取れないのは観客側にストレスが募るだけ。英語の字幕でも、ないよりずっとマシだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする