(原題:Machete )まったくの期待はずれだ。クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスによるB級お笑い映画「グラインドハウス」シリーズに挿入されていたニセ予告編の“本編”という、実にいかがわしい(?)製作動機によるシャシンなので、いくらでも無茶が出来そうなシチュエーションながら、どうも作りが及び腰で煮え切らないのだ。
メキシコの元連邦捜査官マチェーテは、麻薬シンジケートのボスであるトーレスに家族を殺され、復讐に燃えている。そんな時、麻薬組織とも関係があると言われているタカ派議員の暗殺を依頼されるのだが、これが完全な罠で、狂言の片棒を担がされたマチェーテは当局側と組織の両方に追われるようになる。
冒頭からオフビートなスプラッタ演出が出てきて“おお、やっとるわい”と喜んだのも束の間、途端に展開がグダグダになる。だいたい最初の絶体絶命のシチュエーションから、どのようにして主人公が脱出したのか不明。大風呂敷広げて観客をアッと言わせて欲しかったのだが、ウヤムヤのまま時制が飛んでしまう。
全編に渡ってどぎついギャグを散りばめて笑いを誘おうとしていることは十二分に理解出来るのだが、その“仕掛け”がすべて見透かされてしまうのは痛い。つまり、売れない芸人がよくやる“ジョーク言ったぞ、さあ笑え!”といった態度が見え見えなのである。正直、昔の「ホット・ショット」とか「裸の銃を持つ男」のような明らかな“お笑い番組”と比べても、質は落ちる。
監督はロドリゲスとイーサン・マニキスの共同だが、マニキスは別にしてもロドリゲスが関与しているとも思えないテンポと段取りの悪さには脱力してしまう。クライマックスのバトルシーンなど、実にいい加減でだらしない。全然盛り上がらず、監督はこの時に酒でも入っていたのではないかと思うほどだ。
強面だが演技は大根のダニー・トレホは、まあ例の“予告編”の主演なので画面のまん中にいることは致し方ないが、他のキャストもだらしない。ジェシカ・アルバ、スティーヴン・セガール、ロバート・デ・ニーロ、リンジー・ローハン、ミシェル・ロドリゲス、ドン・ジョンソンといった(無意味に)豪華な出演者を集めていながら、それらしい見せ場もない。特にセガールなんか、彼のキャラクターからすればいくらでも笑えるパロディ場面を考え付きそうなものだが、何となく出てきて退場するだけ。これではダメだ。
本作が斯様に気勢が上がらないのは、ネタの一つにメキシコからの不法移民問題をクローズアップさせているからではないかとも思う。確かにシビアなテーマだが、こんな映画で強調するようなものでもないだろう。いずれにしろ、この分では“続編”の「殺しのマチェーテ」(笑)は観る気にならない。