元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「プロヴァンス物語 マルセルのお城」

2014-01-08 06:36:38 | 映画の感想(は行)
 (原題:La chateau de ma mere )90年作品。マルセル・パニョルの自伝的小説「少年時代の思い出」の第二部と第三部を映画化したこの「マルセルのお城」は前回紹介した「マルセルの夏」の完全な続編に当たる。夏休みも終わり、マルセル一家はマルセイユに帰るが、マルセル少年のプロヴァンスへの思いはつのるばかり。ところが、父親の転勤が決まり、一家は週末ごとにプロヴァンスに行けることになる。

 ここでもドラマティックな出来事は何も起こらない。リリとの再会、プロヴァンスに別荘を持っている作家の一人娘との初恋、一家が週末ごとにプロヴァンスに通う際に通り抜ける古城の持ち主とのふれ合い、古城を流れる運河の管理人や、ドジな警官とのほほえましいやり取り、優しい両親、気のいい土地の人々、美しい自然の風景と南仏プロヴァンスの明るい陽光は、前作同様、観る者を子供時代の素晴らしい世界へと誘ってくれる。



 しかし、前作の夏休みと同じく、確実にマルセルの人生の“夏”は終わりに近づいていくのだ。夢のような日々はまたたく間に過ぎ、マルセルは有名中学の受験のためにマルセイユから離れられなくなる。

 そして5年の月日が流れ、マルセルの周囲から親しい人々が次々にいなくなり、時代は第一次世界大戦の暗い世相に突入する。もう、楽しかった少年時代は完全に過ぎ去ってしまっているのだ。今までの楽しい雰囲気が一変するラスト近くの10分間は夢から世知辛い現実に戻った時のような、厳粛な気分になる。そして最後は舞台は数十年後に飛ぶ。映画製作者として成功したマルセルは、プロヴァンスを再び訪れ、あの頃を思い出すのだった。

 人間として普遍的な少年時代の記憶の最もいいパターンが描かれていて、ノスタルジアに心が締め付けられるのは事実だが、結局、豊かな記憶を持てば、たとえそれが失われても、有意義な人生を送ることができるのだ、という真実が胸に迫ってくる。

 マルセル少年はじめとする子役、および大人の俳優の達者な演技に感心しながらも、この企画を20年も暖め続けた監督、イヴ・ロベールの執念に感嘆してしまった。前作と同じく、必見の映画である。
コメント
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